75.善女と悪女
〈ヘルガ・フォン・シュトルツ〉
辺境伯様の独善にご立腹されたユリアン様が出奔されました。
クロエ様やハンナお姉様がついていらっしゃいますから身の危険はないかと思いますが、やはり心配です。
ロッテにも相談してみましたが、
「……心配というのはするだけ無駄かと存じます。圧倒的強者と最強の三人組でございますよ?」
それは……そうなのですが。
ユリアン様はあのお父様を相手に剣のみで勝ち切りましたし、ハンナお姉様はユリアン様に匹敵するとか。
クロエ様はどこか違う世界から来たのではないかと疑うくらいの絶対強者です。
実際に全力で挑んだお父様曰く、
「巨大な岩壁に素手で挑むが如し」
とおっしゃっておりました。
そう、「身の安全」の心配はいりませんね。
うん、今は……疼く自分の身体を心配したほうがよいでしょうか。
学院が始まります。
王都へもどらねばなりません。
帰参時のこころ躍る往路と違い、復路のなんとつまらないことか。
それでも一縷の望みを持って王都へ向かいます。
学院へ行けばお会い出来る。
そんな根拠のない望み。
ユリアン様。ヘルガの願いは無事なユリアン様と再会して……再びお情けを頂戴することに他なりません。
あぁ、疼きます。
王都屋敷へは新学期の2日前に到着しました。
翌日の昼過ぎ、先触れもなしにユリアン様達が訪ねて参りました。
「ユリアン様! ご無事でしたのね? ヘルガはご心配申し上げまておりましたのよ」
「うん、ありがとう。ヘルガ。いろいろとあってね、休暇一杯掛かってなんとか新学期に間に合った感じだよ」
「いろいろ?」
「……うん、いろいろ。話し、出来るかな?」
「もちろんですわ。どうぞこちらへ」
応接間へ入り、ロッテがお茶の用意を調えます。
すると部屋に結界が張られました。
多数の術者を集めて「部隊」として発動するレベル……よりも堅固な結界です。
それを個人で、予備動作もなく……クロエ様には生涯逆らわず師事して参ります。
あれ? これって……閨でも毎回張っておられた……ああいう時は気が急いていけませんね。
今頃気が付くとは。
でも疼きは止められません。
それから聞かされたお話しは……全てひと月余りのあいだに起きたこと?
ユリアン様が王に……家名を捨て新しき家名を、クロエ様、ハンナお姉様とご婚姻を……国を、民を救いし革命の旗手にして新王。
私が嫁ぐお方はおとぎ話の主人公だったのですね。
その後、安息日にもかかわらず、ユリアン様は私にお情けを下さいました。
ロッテが用意してくれた閨ではお漏らし解禁を頂きましたので、皆様と共にユリアン様へ放ちました。
気が遠くなり、昇天しそうなほどの快楽と解放感でした。
だからでしょう。
あの、お小水とは違うナニカをまた吹き出してしまい、ユリアン様に大量に掛けてしまいました。
それがまた……堪りませんでした。
閨をご一緒したエイダ様、新たな側女だというルサルカ様が私を羨ましそうに見ているのは何故でしょうか?
さて、明日からまた学院での日常がはじまります。
休暇前とは違う、希望に満ち溢れた至福の日常がはじまるのです。
ユリアン様の新居への引っ越しも含めワクワクが止まりません。
あ、お父様へ報告のお手紙を出しましょう。
きっと驚きます。
〈エイダ・フォン・ミュラー〉
お向かいの豪商のお屋敷には以前から目を付けておりました。
高名な建築家や造園家、園芸家を大金にあかせて引き込み、たっぷりと時間とお金を掛けて作らせた贅を限りの大邸宅。
公爵家たる我が家の方が少々見劣りするでしょう。
どちらかと言えば不愉快なその屋敷はある時を境に手に入れたい垂涎の対象となりました。
立場を利用して数度にわたり中を見て回りました。わたくしの感性に見合う改築や改装を想起しながらの内見でした。
ここにユリアン様やお姉様達とご一緒に住まう。
あぁ、なんて素敵な愛の巣。
家主の醜聞や不正の証拠などは不快に感じていた際に収集済です。
あとはこの物件を確実にわたくしのモノとする画策が必要です。
その為に夏季休暇中は王都に留まることとしました。
家主の債権集めは簡単でした。取引先の皆さんは彼のことが大嫌いなようです。
誰もが彼を庇い債権を手放さないなどということもなく、割引きまでしてくれました。
その少し前、彼の不正取引疑惑の噂が何処かから流れ、我先に債権を手離したがったということもあるのでしょう。
敷地を合わせた屋敷の見積もり価格の1.2倍程の価格の債権を半額以下で入手致しました。
その後彼の愛人に関する醜聞が流れます。
浮気相手の旦那様はとある伯爵なのですが、彼は国有地の徴税執行官達の長で、そんな伯爵の元に偶然家主の脱税と国有地を舞台とした違法取引の確たる証拠が複数もたらされます。
当然身柄拘束され尋問に掛けられます。
証拠も充分、速やかに全資産没収とあらゆる地位や利権が剥奪されました。
資産没収や管財の権限は財務卿であるお父様の所管するところ。
代理権限を持つ副官たる派閥内の子爵様に王都居残りをお願い致しましたのが幸いし、資産没収は直ちに行われたのです。
そして、わたくしが所有する債権の権利を子爵様へ主張して、競売前の土地、屋敷の財産移管が滞りなく行われました。
子爵様にはわたくしからの貸出金棒引きと、奥様及び御息女へのお土産を多数お渡しし、ご満足のご様子で所領へ帰参なされました。
そんな折に、ユリアン様達がわたくしを訪ねて下さいました。
なんていうこと……ユリアン様が帝国を乗っ取り新王に!?
飢えた民衆の為に穀物の大量買い付けを?
お任せください!
よくぞわたくしをご指名下さいました。
我が全力を以て対処致します。
まずは今回親しく接した徴税局長官のハウエル伯爵へ、国庫に納められた穀物の高値買い取りを条件としてお話しいたしましょう。
買い取った分の現物補填は傘下の商会に各地での買い取りを委託し、事後、国庫へ戻します。
伯爵はこれらを低価格で引取り、差額を得ればホクホクでしょう。
指定された引き渡し日までが短期間ゆえ、国庫集積穀物を纏めて引き渡したほうが間違いありません。
戦略は調いました。あとは詳細を詰めるのみ。
その前に。
ユリアン様の脱ぎたてを自室でいただきましょう。
あ、まだ温かい。
伯爵と諮り、200,000tもの穀物確保に成功しました。
国庫補填用穀物の買い付けも間に合い、あとはユリアン様への納入期限後に搬入すれば万事完了です。
資金は行って来いが無駄だと伯爵がおっしゃって下さったので、報酬は定めし金額にと落ち着きました。
全買付金額の5%です。中々の大金ですが、クロエ様からの預り金の半分は残る計算です。
上々の成果ですね。
クロエ様達が再来され、無事に穀物引き渡しが完了。
また慌ただしく去っていかれました。
わたくしに燃料を託して。
8月28日午後、皆様で訪問頂きました。
新居のご説明とご案内をし、お泊りいただくことと、褒美の受領の確定をクロエ様から申し渡されました。
遂に……遂にその時が。
まずは身綺麗にせねばと湯浴みの準備をメイドへ指示しようとすると、ハンナお姉様にとめられます。
「エイダ、貴方はユリアン様の匂いはお好きですか?」
「なによりも!」
「では湯浴みして匂いが薄まったユリアン様と、そのままの濃厚な匂いのユリアン様では?」
「もちろん濃厚なユリアン様です」
「では貴女もご自身の濃厚な匂いをユリアン様へお届けするべきではありませんか?」
「でも、わたくしの匂いなんて……」
「ワタクシもそう思っていました。しかし、ワタクシが2日履いたショーツでユリアン様は勃起して下さったのです。どの匂いを好まれるのかはユリアン様次第。しかし、貴女はご自身の価値を知りたくはないのですか?」
「……知りたいです」
「ではそのままで」
「本人の眼の前でする会話じゃないと思う。ね、ハンナ。聞いてる?」
わたくしはスカートを捲りあげ、
「ユリアン様、わたくしの匂いをお試し願えますか?」
「……そ、……いや、…………うん」
ユリアン様が一頻り躊躇した後、わたくしの股間に顔を埋め匂いを嗅いでいらっしゃいます。
ハンナお姉様がそっとユリアン様の股間へ手を這わせると……
「エイダ、合格のようです。ユリアン様は反応しておいでですよ」
あぁ、受け入れて頂けた!
そのままのわたくしを。
その後、皆様と共に閨入りし、女装されたユリアン様より破瓜を受けた後、さらなる夢の世界へ。
自身がまだ何も知らない世間知らずだと思い知らされました。
翌朝、昨夜のお礼として大金貨10枚をユリアン様へ進呈しようとしましたら、ユリアン様が急に不機嫌に。
足りなかったのでしょうか?
確かにこの倍以上お支払いしても惜しくはない価値がありましたし……
「エイダにとってボクは金額で規定出来る程度の男なんだね。哀しいな、ボクにとってのクロエやハンナや、それにエイダだって、世界中のお金を積まれたって譲れない等価無き人達なのに」
わたくしはユリアン様にとって、等価なき存在……比べるモノなき価値ある存在。金額で規定出来ない存在。
まさか、そんな……わたくしはどんな物、人、現象にも価値を与え値付けをしてきました。
そしてそれは周囲から基準として扱われるほどに信用され、重宝されてきました。
だからわたくしはわたくしの価値にも値付けをしています。
そんなわたくしにも値付けが出来ないお方が出来ました。
ユリアン様です。
わたくしの全資産を委ねても後悔はない。そんなお方がわたくしをもご自身同様に値付け出来ない大切な人だとおっしゃって下さっている。
気が付くと涙が溢れてきました。とめどなく流れる涙はそのままに、ユリアン様へ想いを投げかけます。
「わたくしの価値をお金では値付け出来ないほどだとおっしゃるのですか?」
「そうだよ」
「わたくしが全資産を失ったとしても?」
「ボクが養うさ」
「わたくしのことを……あ、愛していただけますか?」
「もちろん、おいで」
迷わずユリアン様の胸に飛び込みました。
わたくしはこの人を信じて、ただ愚直に信じて付いていけばよい。
きっとこの方はわたくしを導き幸せにしてくれる。
お金なんてユリアン様のお役に立てる手段の一つに過ぎない。
これからのわたくしにとって価値とはユリアン様と生きること、それだけなのだから。
異才の変態でした。




