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74.言いっぱなし

〈ユリアン・エルフィネス・ルセル〉


流されて流されて……思えば遠くへきたもんだ。

え、ここどこ?


政治の話し合いしていたら姓や婚姻の話しになって……歳を聞かれて、そういや13歳になったっけって話したら「我が国では皇、もとい、王族の婚姻は13歳から認められております」との提言が。


「それではユリアンが婚姻するのはなんの問題もないと?」


「全く御座いません」


あれよあれよと話しが盛り上がり、民衆代表者らまで「我らも是非協力を」とか言い出してわっしょいわっしょいでなんと翌日挙式。


諸々の正式呼称もなし崩しに一気に決まり、王都ユリアナも決まり、国王名もシュワルツクロイツの家名を捨てる形で落ち着き、新設王家として世界へ向けてレビューすることも決定した。


玉璽や封蝋用の印璽などのデザインはクロエが提示し、制作が宰相に託された。


全てがハイスピードで進行し……なにわともあれ既婚者にされてしまった。

正妻クロエ、側室ハンナ。

2人共それはそれは嬉しそうなんだけどね、ハンナのソレはなんかもう、つい頭なでて「良かったね」とか言ってしまいそうになるほどに幸福感に満ちていた。


ま、悪くはないさ。



ただ問題は……


「神聖帝国皇帝を廃位させ、帝都の混乱を収めた功を称賛され、そのまま新国王に推戴されました。西部のラーテルズ共和国との紛争も収めまして、凶作の原因も取り除きましたので新生の王国にはなんの問題も有りません。即位にあたり、シュワルツクロイツの家名は捨てました。今後はユリアン・エルフィネス・ルセルと名乗ります。どうぞ宜しく」


父の執務室で父、母に向かって一気にまくし立てた。

ツッコミは許さん。


クロエが補足する


「あちらでは王族の婚姻は13歳から可能とのことでしたので、ワタシとハンナはユリアンの正妃、側妃として挙式を執り行いました。以後ワタシはお二人の娘ですね、宜しくお願い致します」


2人共二の句も……というか、一言も発せない。


「そういうことなのでボクが国王の間は南からの侵略はないので、お祖父様へお伝え下さい。あ、あのパーティーの時の正体バラしの件はまだ怒りが収まっていませんので、お祖父様とは暫くお会いしませんから。それもお伝え下さいね」


「陛下、あ、いえ、ユリアン様そろそろ参りませんと」


「うん、そうだね。それでは先を急ぐので」


有無を言わせずその場を辞去した。




ソラに乗り王都近郊へと降り立ったのは新学期が始まる2日前だった。

街へは徒歩で入った。

まだ午後1時くらい、エイダに会いにミュラー公爵邸を訪ねた。

そしてまたしても彼女にお願いをした。


「かなり立派な屋敷が欲しいんだ。どこか見繕えないかな?」


「つい最近のことなのですが、この最上階層に巨大な邸宅を持つ大商会の主が不正取引と醜聞により検挙され投獄されました。全財産は没収され、土地と屋敷も売りに出されるところでしたが、たまたま大量の債権をわたくしが所有しており、その権利を主張したところ競売に掛けられる前にわたくしのモノとなりました。内装など、わたくしの美観にそぐわない部分は今手を入れていますの」


「へぇー……ミュラー公爵のではなくて?」


「勿論わたくしの個人資産です。ユリアン様やお姉様方とご一緒に住まうのにちょうど手頃かと、しかし今となっては早まったかも知れません」


「な、なんで?」


「畏れ多くも隣国の国王陛下が住まうには幾分手狭かと」


「なにを……」


「ユリアン、エイダは全て知っている」


「そうなの?」


「あら、いやですわ、クロエお姉様。コレではわたくしだけが知っている体で小賢しい浅知恵を披露する嫌味な女みたいです。酷いです」


「あぁ、そうだな、スマン」


なに、この出来上がったやり取り。

何処か既視感が……あ、女装のときだ。


「屋敷の家人だがな、来月末頃にユリアヌスルセル王国からここへ使節団が来る。総勢500名程の人員を伴ってな。この内450名が執事、家令、武官、従者、侍女、メイド、料理人などとなる。これらは住まえるか?」


「大丈夫です。前の家主は500名を召使っていると豪語しておりましたし、実際それくらいの部屋数はありましたから」


え、それってなんとかランド的な規模では?

そんなところに住めと?

確かにさ、家名捨てた以上、もう子爵家の王都屋敷には道義上住めないし、第四? 側室とか迎えなきゃいかんのなら広い屋敷は必須だけど……


「その屋敷、見に行ける?」


「はい、すぐ近くですから」


公爵邸の道挟んで向かいの土地だった。この前来た時「でけえな、絶対なんか悪いことして建てたんだ」なんて思って見てた城みたいな屋敷だった。


「……これ?」


「はい」


「クロエ、お金……払って貰っていい?」


「ユリアン様、なにをおっしゃっているのですか。わたくしはユリアン様へ嫁ぐのです。わたくしの資産は全てユリアン様のモノでもあるのですよ? ここはもう、ユリアン様の屋敷なのです。もぅ、以後は絶対に遠慮とかしないで下さいね、約束ですよ?」


や、やだ、この子って裏ありそうで怖いけど、身内には可愛い。

身内?


うーん……


「今夜は家にお泊まり下さいね。全てご用意してありますから」


王都屋敷の荷物は明日引取りに行けばいいか。


「うん、世話になるね」


お、おぉ、すごくいい笑顔で頷いてくれた。


屋敷の具体的な入手法とか、穀物大量買い取りの手管とか、うん、知らなくてもいいことは知らないままにして置いたほうがいいって言うよね。

うん。


笑顔が可愛い女の子。それだけ知っていれば充分だよ。



その夜、淫獣共とエロ精霊に見守られ、野獣の如き貪欲さで女装させられたオレを貪る女の子に出会った。

一応定型の誓約を交わしてね。


イヤらしい粘り付くような笑顔はオレを値踏みしているみたいだ。

「旦那はん、あきまへんえ」とか言って抵抗してみたい。


まぁ、キスひとつで至福の表情を浮かべる(うぶ)な乙女というのが本質みたいなんだけどさ、「価値」を過剰なほどに推し量ろうとしているみたいだ。

だから部分的に不純さが漂う。値踏み、正しく値踏みされているのかもしれない。

成し遂げたことを鑑みるに、この子は非凡なる策略家なのだろう。それでいて年相応な純粋さも具備している…………それらが矛盾せずに並立する精神、いや、魂か。正邪の別がはっきり分化していないのだろう。

この子は……オレが娶るのならば、歪まぬように導いてやらねば。それこそが責任の取り方なのだろうな。

値では推し量れない何かがこの世界に、そして人にもあるのだと識って欲しい。

そうであれば、この子はひとかどの人物となるだろう。


などと考えているあいだに、他スタッフ一同に美味しくいただかれました。



それで初夜は終わりだと思っていたが……



翌朝。エイダから大金貨10枚が支払われた。


「何、これ」


「昨夜のお礼です」


「いや、男娼じゃないんだからこんなの要らないよ」


「……でも、あんな素晴らしい体験をさせていただいて、無料なんて、価値に対する冒涜ですわ!」


一発100万円……大富豪の価値観の壊れようったら。ほんとにもう。


「エイダにとってボクは金額で規定出来る程度の男なんだね。哀しいな、ボクにとってのクロエやハンナや、それにエイダだって、世界中のお金を積まれたって譲れない等価無き人達なのに」


エイダの顔が見る見る赤くなる。そして大粒の涙がポロポロと零れてくる。


「わたくしの価値をお金では値付け出来ないほどだとおっしゃるのですか?」


「そうだよ」


「わたくしが全資産を失ったとしても?」


「ボクが養うさ」


「わたくしのことを……あ、愛していただけますか?」


「もちろん、おいで」


両手を広げる。


飛ぶように抱きつくエイダ。

なんだよ、やっぱり可愛いじゃん。


何にでも値付けする才女か。商才は凄まじいのだろうけど、幸せを掴むのは下手そうだ。


しかたねぇ、乗りかかった船ってやつだ。「最後まで」面倒みるさ。




その日、シュワルツクロイツ子爵家王都屋敷からオレやクロエ、ハンナの私物を空間収納へ詰め込み、家令のベックに簡単な事情説明をして、屋敷を引き払った。


みんなにもお礼を言ってね。



明日からまた学院生活が始まる。

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