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71.エロ精霊

〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉


クロエは軽く街の様子を見て回ったあと、躊躇(ちゅうちょ)なく首都の城へと赴く。

知り合いでもいるのかなとおもっていたら……門衛に自己紹介からの間髪入れずの脅し。


この手の場所ではあり得ない即レスでの城内ご案内、からの大公ご挨拶カット! からの尊大な商談。

クロエは言値で買うとか一見太っ腹な提言をしているが、圧迫されている上、こちらでも豊作だったようで、そんなに高値は付けられない。

ここで暴利を貪れるほどの胆力があるならここまで下手に出はしない。

結果、良い買い物が出来た。


既に集積はほぼ完了していたようで、数カ所の倉庫を巡り大量の穀物を空間収納へ放り込んでいった。

金は城で支払い済み。

大公の印可状と共に国内を飛び回ってから、一応大公に礼をいいさっさと出立。



そしてラーテルズ共和国のアインテンプルへ。

一つの聖堂?


クロエから聞いたところでは共和国ってくらいだから代議士とかいて議会とかで国家運営しているそうな。

但し、もう一つ権力機構があるのだとか。それが元老院。ローマと一緒だな。

元老院の構成員は教会の高位聖職者、ドワーフの各族長、僅かながらエルフを含む学術研究者など。


議会も元老院も立法権を持つが、元老院には拒否権がある。

行政は議会内で選出された閣僚が分野毎に権限を持って主導する。

司法は元老院が主導する育成機関を修了した者たちが判事や検事、弁護士の役割を持って公正に取り仕切る。

ホントかな? 公正の部分。


選挙制度までは興味がなくてよく知らないと言われた。

二院制で日本の制度に似ていると言えなくもない。


軍と治安維持機構が別れているのも面白い。



そんな首都の……議会堂前広場にソラに乗ったまま着地。

え? いいの? 中心街というか、この国の中枢に大型飛竜来襲騒ぎになったりしない?


「最近も来ていますから大丈夫でしょう」


と、のたまうお姉様。


そこへ駆け足で寄ってくるちびっ子エルフ。

え、なに? めちゃかわなんだけど!


なにやらクロエと揉めている。

知り合いみたいだけど、結構キツイ物言い。しかもクロエがそれを余り嫌がらずにちゃんと受け答えしている。少々相手に無礼な気はするが。

スゲェなこの……エロス。


ハーフエルフがオレをキッと睨んだ。

えっ? オレ声出してないよね?

なんで分かるの?

気持ち悪い。


ソラの待遇が問題にされたが、明日の明け方まで自由時間とした。

どっかで魔獣でも狩ってお食事とかだろう。

え? 住民を食わないかって? 領内ではそんなことなかったし、しないだろ、多分。

何事にも絶対はない。


でもウチのコに限ってそんな事しないと思うの、絶対。



クロエが交渉相手の招集を依頼し、その待ち時間を潰す場所を要求したら、いいカンジのカフェっぽい店へ連れて行かれた。

うん、趣味が良いというか、行き届いた店だ。

皆が口々に褒めると、実はエロ……エリスの店だそうだ。


またなんかクロエとやり合っている。慣れてくると何だか微笑ましい。


ここでの民主主義はかなり限定的なものだと教わった。

選挙はある。だが選挙権を持つのは創世神の下僕(しもべ)教会信徒のみ。

その中でも納税額が一定以上ある家の家長だけが投票できる。

但し例外はある。エルフやドワーフなどのヒューマン以外の種族は納税義務を果たしてさえいればよく、ハーフも同様。それ以外、信徒ではない中人族も多額の贈与金を拠出すれば選挙権が得られるという。

被選挙権ともなるとさらなるハードルが。試験があるのだそうだ。

軍事、内政、農政、商業、外交、心理適性などの問題を解き正答率70%以上であること。

あとは選挙権と同じ条件を満たせば立候補が認められる。

いいじゃん。それ。

指導層にバカがいない。存在できない制度。


オレは民主主義第一論者ではない。人気が全ての選挙を経た結果、とんでもないバカが当選することがある。衆愚政治の権化みたいなヤツとかな。

選ぶ方にも当然責任がある。結果として国力が低下して生活が苦しくなっても自業自得だ。

その保険として堅固で優秀な官僚機構があるのだが、本物の権力バカはそれさえも破壊する。

その先にあるのは……


神聖帝国の皇帝が正にそれだったな。専制君主国家においても官僚機構は大事ってことだな。



エリスはそんな官僚の一人だそうだ。こう見えて200歳超えの年齢なのだとか。独立情報機関の偉い人らしい。

独立?


まぁ、クロエとの馴れ初めとか話しているうちに段々とオレの正体に気付き始めて……誘惑しようとし始めた。

というところでクロエの威圧を受けて固まった。


ふふん、オレには落ちまで全てお見通しだ。



そしたら呼出しがきた。




でっかい会議室で40人程の兄さん姉さんに囲まれて……みながクロエに平伏した。

早っ、威圧するまでもない。


なんでもこの国の成り立ちはクロエによるもので、まだ建国400年ほどの若い国なのだとか。だから建国時の長命種はかなり生きていて、今も中枢にいる。

クロエの恐ろしさ。クロエへの恩義。クロエへの崇敬がこの国の民、そして上層部に満ちているのだとか。


ドワーフが多く生活するこの地域には多数の有望な鉱山があり、古くから自治を持って硬貨の鋳造を行ってきた。

それは大陸西部全域で共通貨幣として流通しており、地域の権勢を決定付けるものだったが、突如として東側の隣接地域に発生した有角族を中心とした多人種国家が立ち上がり、周辺国家や地域へ侵略を始めた。


王の名はアスタロス、その軍団を意味するレギオン。併せてアスタロス・レギオン魔王国を名乗るその戦力は圧倒的であった。

僅か数年で近接諸国を制圧したアスタロス・レギオンはこの地へも押し寄せた。

武に強みを持つダークエルフの里へ援助を求めたところ、たった一人のダークエルフが派遣されてきた。


誰もが落胆する中、最前線に立ったその単独戦力は……凄まじい戦い振りで一気に戦線を押し返し、山域に強力な永続的防御結界を張った。


その後、そのダークエルフは魔王国北側にあるルーメル王国に請われてそちらへ赴き、そのまま戦い続け2年と掛からず魔王国を滅ぼしてしまったのだとか。


破国の闇女帝伝説。

前段があったのか。


アスタロス・レギオン討滅後、クロエはこの地に再訪し、わざわざ後の通商の妨げとなる結界を解除してくれた。

さらには疲弊した自治区とその周辺地域をまとめ上げて王を頂かない共生国家を作ってはどうかと提言した。


それこそがラーテルズ共和国の成り立ちなのだと元老院の人達に代わる代わる教えてもらった。


因みに、この地においてもクロエの資産管理がなされている。

元自治区で鋳造される貨幣の0.01%はクロエの取り分なのだとか。


「えっ!?」


「だから言ったじゃないですか、金ならいくらでもあると」


あ、アンタ世界一の大富豪じゃん。真面目に商売してる人に謝れ!



そのあとオレが救世の御子だとカミングアウトしたらまた平伏された。


紛争の停止と聖女の守護精霊への取次ぎを依頼し交渉は終了した。


そしてアノ上位精霊と出合う。

目が合った瞬間に懐かれた。メッチャ匂いを嗅いでいる。そして興奮している。

多分性的に。


クロエはエラくこの子にキツく当たるのだが……(こた)えてない? スゲェなこいつ。

それにしても実体があるのに軽いな。

聞いてみたら魔素の超圧縮で形成した身体なので質量はほぼないのだとか。クロエが掴んで物理的影響を及ぼしていたのは魔力滞留を手に纏わせて「魔力を与えて強制的に物質的特性を付与」したからだとか。


「それじゃあ魔力をたっぷりと注げば完全な実体化も可能なの?」


「試したことが有りませんからなんとも……」


「ユリアン! 私で試してよ!」


「うーん、じゃあ半分だけ注入してみようかな」


「ユリアン様の半分……あの一撃ですよね?」


「うん、そう」


「早く、やってみてよ!」


やってみた。


「あぁぁぁ……スゴぃ……気持ちいぃ……あぁん、ユリアンをカンジるの……私の中にユリアンが……あ、あぁぁぁ……ダメ、そんな……ユリアン……はふん」


「今直ぐ捻り潰します」


「ちょっと、もうちょっと待ってよ。もうすぐだから……」


両頬を手で挟んで魔力を流し込んでいるのだが、段々と質感を感じるようになってきた。

もう少しでホントに実体化しそうな実感がある。


できた。


魔素で構成されていたらしい衣服は消え去り、素っ裸の可愛らしい……14、5歳くらいの女の子のアヘ顔が手の中にいた。

髪は水色、瞳は中心が金で周りがブルー。耳は長くはないが尖がっている。

後日クロエから聞いたのだが、金目と短い尖がり耳は精霊の特徴なのだそうだ。


ルサルカは再度オレの胸に顔を埋めて匂いを嗅ぎ始めた。

ブレないな。


「やはりソイツは連れていけませんね」


「なんで?」


「先程までならばほぼ重量が有りませんでしたが、いまは一人前の体重があります。重いのでソラに乗せられません」


「ルサルカ一人くらいなら大丈夫じゃないかな?」


「いえ、無理です」


「……じゃあボクは走って行くよ。だから乗せてあげて?」


「くっ……ルサルカ、お前が走れ……」


「無理無理。私、自然特化なんだから、人族みたいに走るとか無理」


「ルサルカさん?」


「え? あ、はいハンナお姉様」


「あなた、さっきみたいに飛べないのですか?」


「…………あ、飛べる」


「それではついてきていただくということで」


「それだとなんだか仲間外れな気がする……」


「それ以上グダグダいうならばこの世から仲間外れにしてやろうか?」


うおっ! ゾッとしたぁ!


「み、見てよ。ユリアンまで怖がってるじゃない!」


ハッとしたクロエがオレを見る。

2歩ほど後ずさり……両膝と両手を床に着き俯いた。いわゆるorzだ。

できるエルフはこんな時まで定型を踏襲する。

完璧だよ。クロエ。



こうして翌朝、四人でソラに乗り出立した。

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