70.驚きの仲買人達
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
穀物大量買い付けは順調と言ってよい。
ただ、初っ端の代理人がエイダなのは驚いた。
賢い子だし、公爵家のコネを使えば或いはやれるのかも知れないが。まぁ、クロエチョイスだということに全面的信頼を置こう。
そして大国フランシア王国。
ここでの外国はどこ行っても初めてだし、興味津々なのだけど観光しているヒマはない。
王都中心部に巨大な敷地を持つ商会の前に立つ。
これは……相手してもらえっかなぁ?
立地からいっても上級貴族並、いや、商会やってる上級貴族なんじゃない?
店舗部分に入ると店員達の様子が……まるで波が広がるように手持ちの仕事を放棄しだす。一人が奥へ駆けていき、店員や番頭らしき人らがわらわらとクロエの前に集まり始める。
応対を放り出された客らの罵声が聞こえるがみんな無視している。
程なくして奥から60過ぎくらいの老紳士が駆けてきた。
そして躊躇なくクロエの前で王族へする臣下の礼を取った。片膝着くやつ。
「お初にお目通りいたします。わたくし、エラン・ド・クリュエールと申します。現クリュエール家当主に御座います。
恐れながら、クロエ・ルセル様にて間違いごさいませんでしょうか?」
「うむ、お前はアランの……」
「曾孫にございます。曽祖父は25年前に身罷られました」
「そうか。アランはよい人生を送れたのか?」
「全てはクロエ様のお陰にて。死の間際、クロエ様にもう一度お会いしたかったと涙して逝きました」
「そうか……今日はお前に頼みがあって来た。話しをできるか?」
「もちろんに御座います。さぁ、こちらへ」
改めて店員達を見るとみんなして両膝を床に着き、両腕を胸の前で交差させて下向きになっている。
隷属の誓いとか言う、最上級の敬意と「逆らいません」との意志表示だ。
クロエ、何をした?
っても曾祖父さんの頃の話か。
「それでは余剰穀物の買い占めをすればよいと?」
「買い占めではない、余剰分の買い入れだ。ヴァン・ヘルムート王国、この後はヒスパニア大公国へも足を延ばすつもりだ。総量として40万トンも有ればよい」
「なるほど、ではわたくし共は15万トンも仕入れれば間に合いますかな」
「そんなところだろう」
「しかし、ルーメル神聖帝国への食料供給ですか……下衆な物言いとはなりますが、ユリアン様がヴァン・ヘルムート王国の方であれば、侵攻するよい機会になるのではありませんか?」
まぁ、そう思うよね。
「飢えた民の土地を手にしても旨味はありません。帝国に打撃を与えるというなら放っておけば良いでしょう。私は義によって立つ夢見がちな子供。そういうことに……」
「……ユリアン様、我がハンニバル商会を引き継ぐ気は御座いませんか? わたくしの孫に10歳のマルガレーテという見目の良い……ヒッ!」
横をみるとクロエが威圧していた。
「私にはクロエという伴侶がいますので、よい話しとは存じますがその儀は……」
「……左様ですな。では、こほんっ、集積場所は分散するかと存じます。納入時期を決めましょう」
そこからは空間収納の実演を交え、実務の話しをして、引き留めようとするエラン氏を振り切って出立した。
人脈がエグいぜクロエ姉様。
最近ハンナがたまに言う。
「ねえクロエ、家名はクリュエールなのになんでハンニバル商会なの?」
ちょっと、いや、かなり気になっていたので聞いてみた。
「そうですね。商会を始めた初代の名前がハンニバルだったのですよ。武人として名を上げようとワタシに挑み、返り討ちに遭ってから突如商人になり、事業に失敗しました。多額の借金を肩代わりしてやり、懸想相手のハーフエルフとの仲を取り持ってやりと、何故か世話をしてやっているうちに身代が大きくなり……まぁ、ワタシの代理人を自認する一族として今も存続しているのです」
「へぇー、世話焼きのクロエって想像出来ないな」
「まだ若い頃でしたから」
「……何年前?」
「600年前辺り?」
「若かったんだぁ……」
「見た目は今と変わりませんよ」
「あれ? それなら初代の妻のハーフエルフさんはまだご存命?」
「数百年前に亡くなりました。元々高齢だったので」
どちらも想いを遂げられたのだろうか。
「あの歌の歌詞みたいだね」
クロエが押し黙った。そのあと暫くは口を開かなくなってしまった。
あのエルフ言語。あれはフランス語だ。解るさ。
次のヒスパニア大公国。多分スペイン比定な国だよな?
学生時代、語学熱が高かったオレは留学生に片っ端から声を掛け話しまくった。
お陰で英語は勿論、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、北京語、アラブ語、ペルシャ語が話せるようになった。読み書きは出来不出来があるが、大体分かる。
これらは前世の仕事でスンゴイ役に立った。
だが、ドイツ語は入口くらいでマスターしていなかったりする。ちょっとかじっただけ。
産まれる前、母や父などの言葉は初め理解できなかった。勿論ドイツ語でもなかった。
でも今はかなりの部分でドイツ語に類似して聞こえる。
文字も地球のアルファベットではないが類似した記号の羅列だ。
母音子音などと文字の数などはほぼ一致しているから、簡単な暗号みたいなものだ。
だから文字などはすぐに読めるようになった。
確か爺さんちへ向かう馬車の中でだったか。
懐かしい。
でもジジイ、テメェは赦さん!
そんなことかんがえながらのソラの旅。
そして到着したヒスパニアの言語は予想通りスペイン語だった。
できる。
会話が、何不自由なく会話ができる。
また総合商社へ就職して世界で商売するか!?
クロエ商事。会社での待遇はベリーホワイトだが、婿入りした先の私生活がブラックだった……そんなサラリーマン生活。
あれ? 日本人男性って割とそんな暮らししてない?
今になって捨てたはずの日本にシンパシー感じてる。
みんな、頑張れよ…………




