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67.梯子は外された

〈クロエ・ルセル〉


長く生きていると様々な出来事にめぐり逢います。

更に名が売れるに従い重大な事象に立ち会うこともしばしばでした。


今回もまた……



「「「「「「「ユリアナ様、万歳」」」」」」」


「「「「「「「救いの御子様、万歳」」」」」」」


「「「「「「「新王ユリアナ様に祝福を」」」」」」」」


うん、もう止まりませんね。

ワタシの主が新王に……悪くありません。

また戦略を練り直さねばなりませんね。


傍らのユリアン……いえ、ユリアナを見ます。

固まっていますね。

俗世の栄誉や権力などにまるで興味がない我が主には少々刺激が強過ぎたようです。


仕方ないですね。


「宰相よ、場を移すぞ。城内に会合の場を設けよ。面子はお前が必要と思う帝国側の要人。それに民衆側の代表者を同数だ。よいな?」


片膝を着き王家に対する臣下の礼をとる宰相。


「はっ、委細承りました」


立ち上がると。


「ガイウス! 聞いたな。直ちに取り掛かるぞ。閣僚は私が5名揃える。お前は生き残った軍属の高官5名を集めよ。民衆代表者よ、主だった代表者10名を揃え2時間後、城へ集え。皆速やかに動け!」


宰相が早足で城に戻りつつ文官らしき者を捕まえては何かの指示を出している。

うむ、迅速で宜しい。


我等も城へ行くとするか。

呆けたユリアナ嬢を伴って。



城では残った侍従や侍女などに(かしず)かれ、皇帝の控えの間へ通された。

既に国王として遇されているな。

あの宰相、やるではないか。


「ユリアン、そろそろ目を覚ましなさい」


キスをすると虚ろな目に少しづつ光が戻ります。


「ここどこ?」


あらあら、可愛いですね。

幼児返りしたかのようです。


「城の一室です。まずはお茶をお飲みなさい」


コクリと頷きお茶を啜るユリアンはやはり可愛い。思わず抱きしめたくなるほどに……抱きしめていました。


「……今より約1時間後、帝国側と民衆側の代表者を集めた会合を開きます。ユリアンは新王として彼らの取りまとめをしなければなりません。宰相の……まだ名を知りませんでしたね、彼とワタシが貴方の補佐をしましょう。ユリアンは

諸々の事態を治める為の方策を指示するのです」


「いきなり? 為政者なんてしたことないよ」


「誰しも初めてはあるものです」


「答えになってない……」


不貞腐(ふてくさ)れているユリアンも可愛い。

どうも女装のユリアンには可愛いという感情が先行しますね。


「まずは、そうですね。こうなっては身元を詐称し続けることは叶わないでしょう。名と……性別も明かしましょう。ここへ来た目的も」


「略奪軍のことは?」


「結果だけ教えてやります」


「……食料だよね」


「えぇ、そうです」


「お金、あるのかな?」


「聞けば良いでしょう」


「紛争は……ボクが代わりに謝る?」


「いいえ、ワタシが話しを付けます。問題ありません」


「じゃあなんとかなるか……」


覚悟は決まったようですね。

あとは……


「着替えましょうか」


「あ、そうだった」



時間がきたようです。侍従が呼びに来ました。



閣僚会議を開く御前の間、というそうですが、無駄に広いホールに豪奢な家具や装飾を施した「五月蝿い(うるさい)」部屋へ通されました。


皆が貴族の礼を取ります。


ユリアンは……落ち着いていますね。

腹が座ればユリアンは動じません。


王座へ誘導され席に着きます。


起立してワタシ達を迎えた諸氏はユリアンの着席を確認してから着座しました。


ワタシは横に、ハンナは斜め後方に立ったまま控えます。


宰相はユリアンから見て左側の並びの一番手前に座しています。

右側は民衆代表ですね。

部屋の片隅に控えている文官が声を上げました。


「陛下並びに臣下の皆様お揃いになられました。これより救国の会合を開催致します。一堂、陛下へ礼を」


座位のまま再度の貴族の礼を皆が取ります。民衆代表も(こうべ)を垂れます。



宰相がユリアンへ発言を促します。


「まずは自己紹介から。私はヴァン・ヘルムート王国南部の貴族、クルト・フォン・シュワルツクロイツ子爵が子息、ユリアン・フォン・シュワルツクロイツといいます」


ガイウス?が「男?」とか呟いている。


「我が領内で盗賊を捕らえたところから全ては始まりました」


それから帝国軍殲滅の原因部分を除いた経緯がユリアンの口から語られます。


「以上のことからもお解りかと思いますが、私は新王に相応しくはありません。その件については固く辞退申し上げます」


静まり返っていますね。希望の星に見捨てられた気分でしょうか。


「宜しいでしょうか」


宰相ですね。


「どうぞ」


「ユリアナ様……いえ、ユリアン様が歌声で諍いを止められたことは私自身が見聞致しました。事実です。救世の御子であることについては言及を避けられておられますが、明確な否定もなされない。恐らくは事実でしょう」


言葉を切り、周りを見渡します。

間の取りかたが巧みですね。


「生まれや境遇はこの際どうでもよいのです。我々は貴方様唯一人にのみ集える反目の衆です。どうか我らをまとめ上げ、お救い下さいますよう、伏してお願い申し上げます」


うむ、上手いな。これでは断れん。

宰相に習い臣下の席に在る全員が頭を垂れている。

そうだ、それでよい。


「皆さん、頭を上げて下さい。それではお話しができません」


ユリアンも覚悟が仕上がったようです。


「とりあえず、細かい問題は置いておきましょう。先ず第一に当面の食料ですね。宰相殿、国庫にはいかほどの金がありますか? 国民全てに麦を振る舞えるほどにございますか?」


「されば、2年分は賄えるかと」


「食料さえなんとかなれば混乱は収まりましょうか?」


「それは可能かと存じます」


「次に凶作の原因ですが、下位精霊の仕業と聞き及びます。それと聖女殺害には関連がありますか?」


「……お答えします。誠に恥ずべきことですが、その通りに御座います」


「経緯をきいても?」


「救世の御子様の情報交換を兼ねた親善大使として西の隣国、ラーテルズ共和国より聖女様が派遣されて来ました。大変お美しい聖女様に……皇帝が懸想(けそう)し、想いを告げるとやんわりと拒絶されました」


その時点でどうかしているな。


「しかし、諦めきれない皇帝は……聖女様を(かどわ)かし無理やり手籠めに。悲嘆に暮れた聖女様は程なくご自害されまして……聖女様の守護精霊が激怒しました」


「ことに及んだ際、その守護精霊はどうしていたのですか?」


「当日は新月の日でした。新月の夜は精霊の力が最も弱まります。その隙をついて闇魔道士に拘束させたのです。さらに希少な空間魔道の遣い手により結界を張り……3日間閉じ込め……その間、聖女様に陵辱の限りを……」


ユリアンがチラリとワタシを見ました。

……まぁ、思い当たるところは……ありますね。

もぅ、ユリアンったら、済んだことじゃないですか。


それにしても3日間閉じ込めて凌辱の限りを……いけない! そんなこと、ユリアンが許して……もらえればよいのですよね?

ハンナと……エイダにも相談してみましょう。



「その結果が聖女様の自害と3年に及ぶ凶作、そして紛争ですか……貴方方も、止めようとしなかったのですか?」


「秘密裏に進められ……気付いたときにはご自害された後でした」


「クロエ、その守護精霊? とは話しができる?」


「ええ、可能です」


「それじゃあ精霊さんとラーテルズ共和国の対応はお願いしてもいい?」


「お任せを」


「宰相殿、私達は急ぎ国へ戻り大規模な穀物の買い取りを致します。資金の準備をお願いしますね」


「それはお任せ下さい。しかし、輸送の方はいかがいたしましょう? 馬車を集めるにしてもこの情勢では輸送路の安全が確保できず……」


「問題は一つずつ片付けます。全ては闇女帝様がなんとかして下さいますよ」


勿論です。全部面倒見ますとも。そしてユリアンを王へ。

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