66.新王国誕生
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
「ユリアン様、クロエ様。お食事ができましたよ」
一旦推理終わり。
裏が取れない以上、全ては妄想だ。
明日は帝都、裏とれるかな?
野営だというのに腹一杯食べてしまった。普通は眠くならないように腹に入れるのは半分強というところだ。
クロエの結界があるからなにも気にせず熟睡できる。交代で寝ずの番とかも不要だし。
でも直ぐには寝かせてもらえない。
「ユリアン様は……ワタクシの匂い、お好きですか?」
ハハハ、アレか。
「赤ちゃんの頃からね。どちらかと言えば安心出来る匂いなんだけど、その……脇の匂いとか、脚の付け根の匂いとか、アソコの匂いはスゴク興奮するよ……」
ハンナが両頬を手で押さえている。
焚き火で分かりづらいが、多分顔は真っ赤だ。
可愛い。
「ワタクシではあまりお悦び頂けていないと思っておりました」
「何をいってるんだよ、お尻の穴を気持ち良くしたのは君じゃないか。匂いだってクロエと同じくらい好きだよ……ハンナはボクの大切な人だ」
「……あ、あぁぁぁ」
泣きはじめた。
「もったいない、もったいないことです。クロエ様、貴女様のお陰でこんな……女としての幸せに至れました。神たる主を得たばかりか、女としても求めて頂けるなんて……明日死んでも悔いはありません」
神……たる主?
え? 誰?
いやいや、聞いちゃダメだな。
うん、知らん顔だ。
「よかったですね、ハンナ。全ては貴女の努力の賜物ですよ。それにワタシも貴女の匂いは好きですよ。勿論貴女自身もね」
「クロエ様……」
あ、勝手に盛り上がってキスしてやがる。舌入ってんな。
近頃ではエクスカリバーで普通にセッ◯スしてやがるし、もうオレいらないのでは?
まぁ、逃がしてはもらえないんだろうけど。
その夜の二人はいつも以上にねちっこくって……纏わりつくような……艶めかしい夜になった。
あの街の住人は反乱対策で皆殺しにされるのだろう。
殺す方も殺される方も憐れなものだな。「秩序の為の犠牲」なんて、理不尽の極みだろう。
誰かが立ち、まとめねば収まることはないのだろう。やはりこの国は終わるしかない。
だって民を敵視する国家なんて……存在出来ないだろう?
あぁ、嫌な気分だ。
両脇でオレに寄り添う女二人の体温が心にまで沁みる。
酷いことをする女達だ。
オレを情欲に委せて蹂躙する女達だ。
自分たちの都合を押し付けてオレの為だと言い張る女達だ。
だが、心底オレを慕い寄り添おうとしてくれるかけがえのない女達だ。
帝国の人達に比べ、なんと幸せな身であることか。
ありがとう、クロエ、ハンナ。
おやすみ。
翌朝も目覚めるとまた舐め回された。安息日なのに朝から抜かれた。
あれ? スゴク気持ち良かった。
なんでだろう?
今日もソラに乗って空を飛ぶ。
防風壁が展開されているし、温度調整もされていて快適な空の旅だ。
昼過ぎには帝都が見えてきた。
おや?
ところどころ燃えている?
デビルアイ!
あ、反乱起きてるね、あれ。
メッチャ殺し合いしてる。
或いは、ひょっとしたら、あの略奪作戦は最後の望みの綱だったのかも知れない。
しかし連絡が取れなくなった。
完全に絶望したのかもな。
もしそうなら帝国にトドメをさしたのはオレか。
いや、馬鹿が他力本願したのが原因かな。どちらにせよ同情はしないがね。
大混乱の城の上空。
塔の上に上手に着地。隠密前提で内部侵入。今回はフル装備でだ。
女装で黒騎士。一部のユリアンマニア垂涎だろう。
現に目の前の二人が物欲しそうな顔をして見入っている。
オレとしても是非姿見を見てみたい。
あ、オレまでもがユリアンマニア?
略してユリマ。
だって、正直な話、めちゃかわだし。オレ。
ミハイルの次くらいに可愛い。その次はヘルガに譲ろう。
中に入る。
上空からの侵入者に気づいている者がいないっぽい。
ホントに末期だな。
音と気配からエンカウントを極力避けつつ城内を進む。上空から見て城の形状は把握したので、大雑把ながら現在位置は分かる。
王城の形式なんてどこもだいたい一緒。皇帝の玉座の間は多分こっち。
近づく程に人が疎らになってゆく。
見つけた。多分この扉だ。
中に人の気配はなさげだ。侵入し、続きの間へ。
あ、誰かいる。もう一人?
デビルイヤー!
「どうしてこんなことになるのか! まだ追加の兵は集まらぬのか」
「追加兵? そんなもの、この国にあるわけありませんよ。前にも言ったでしょ?」
「ではどうするのだ! このままでは帝国が崩壊しかねん!」
「だから何度も言いましたよね? 外部から食料を買う、兵の配置転換、紛争の停止と和議、税率の6割指定などなど。全部跳ね除けましたな、陛下が。その結果がコレです。もうどうしようもありませんな」
「何を他人事のように! お前は朕が抜擢してやった宰相であろうが、全てなんとかするのが仕事であろう」
「なにも出来なくしたのも陛下ですな。ご自覚ごさいませんか?」
「な、なんのことを」
「貴族院の解散、閣議決定拒否権の制定、立法権と司法権の皇帝専権化、他にもありますが面倒なのでこの辺で。もう私たちにはなにも権限がなく、ただの飾りですな」
「そ、その時に諫言してでも止めるのがそなたらの努めであろう!」
「それやって何人死んだか、何人殺したか、覚えておられない?」
「それは……あ奴らが愚か者であるが故」
「ハハハ、ホントに陛下は凄いですね。ここまでの暗君はなかなかいない。自慢しても宜しいですよ。貴方は歴史にその名を残すでしょう。史上希にみる馬鹿で愚かな最後の皇帝としてね」
「き、貴様ぁ! ジュスカ! この痴れ者を斬れ!!」
ん? 他は誰もいないぞ?
「ジュスカなら先程職を辞すと私に申し出て城を去りましたが?」
「なっ? 最側近だぞ? 朕に無断で辞しただと。そもそも貴様にそれを受け許可する権限など……」
「ありますよ? 人事権は貴方に取り上げられましたが、辞意の受け付けと裁可の権限はそのままになっております。ご存知ない?」
「こ、この、朕が自ら斬ってくれようぞ!」
あぁ、このヒトはここで死ぬ気だな。この本物の馬鹿を止められなかった責任を取って……
「クロエ」
小さく頷いた彼女はユルリと動き出す。
闇で馬鹿を縛り、悠然と宰相へ向う。
「お前はユルゲンに連なる者か? 顔つきが似ている」
「ユルゲン……ユルゲン・ホーフェンのことですか?」
「ああ、そうだ。やはり子孫か」
「エルフ様はご先祖をご存知で?」
「あやつの口車に乗ってな、自称魔王の国と戦わされたわ。まぁ、楽しい戦いではあったがな」
「……破国の闇女帝……クロエ・ルセル様なのですか?」
「そうだ」
「なんと……生の終わりに伝承の戦乙女に出会うとは、なんたる数奇か!」
「あー、それなんだが、お前、一旦死ぬのは止めろ。我が主がお前からいろいろと話しを聞きたいそうだ」
「主? 破国の闇女帝に主が?」
オレも合流。ハンナは潜んで警戒。
「はじめまして、ユ、ユリアナと申します。クロエとは伴侶の契りを交わした仲です」
愕然とした顔の宰相閣下。
「まだ少し見てきただけですが、この国は末期に至っておられますね。そこの人が本当に皇帝陛下ならば、既に結果が出ているも同然でしょう」
「……お恥ずかしい。その通りでごさいます、姫君」
姫君て、
「精霊被害、聖女暗殺、教会紛争、他にも聞きたい事が沢山あります。ご協力頂けませんか?」
「……国外の方でごさいましょうか?」
どうせ王国訛り? で、バレてるだろ。
「ヴァン・ヘルムートから来ました」
「そうですか。クロエ様の主で在られるお方……良いでしょう。全てお話し致します」
ふと、馬鹿……を見る。
口まで封じられたんで静かなんだけど、どうすっかな、これ。
「彼はどう処置いたしましょう?」
「民に下げ渡してはいかがでしょう? 僅かばかりでも溜飲は下がるかもしれません」
エグっ!
嬲られるだろうなぁー。
「そうですね、そうしましょう」
馬鹿が一生懸命に藻掻いている。
身の危険を悟ったらしい。少しだけ見直した。
さて、あの大騒ぎの中へ
「やあ! お土産持ってきたよ」って訳にも行かないだろう。
どうしたものか。
…………音で落ち着かせるか。
曲は何がいいかな?
国……というよりは故郷に回帰するようなのを。
あ、フォスターなんかいいかな。
「故郷の人々」でいこう。
「クロエ、塔の上に出て歌うから、音を帝都全域に届けられるかな?」
「! ええ、勿論です!!」
全員で最寄りの塔の塔上に出る。
空間収納からリュート(仮称)を取り出して貰い、肩に掛ける。
「じゃあ、お願い」
故郷への想いと旅路の詩を美しいメロディーに乗せて、情感豊かに歌い上げた。
何度聞いても惚れ惚れする歌声だな。我ながら。
とりあえず身の周りの人達は感動に身じろぎもせず、余韻に浸っている。
馬鹿までもが。
下を眺め見るに戦闘は……停止していた。
ハンナが馬鹿を担ぎ、みんなで街区へ降りる。
誰もが道を開ける。
歌い手がオレだと気付いているのかは分からんが、何かを察しているのだろう。
暴徒のリーダーらしき男に行き当たった。
道中、軍の責任者らしき男も合流している。宰相が声を掛けたのだ。
「概ねですが皆さんの事情は理解しております。ですが一旦戦いを止めませんか?」
「……やはりさっきの歌の人でしたか」
「はい。ハンナ、それを」
ハンナが馬鹿を路上に降ろす。
「クロエ」
闇の拘束を解いた。
「それは皆さんに差し上げます。お納め下さい」
暴徒側が色めき立つ。
軍の責任者は無表情。
「その、何から何までありがとうございます」
「いえ、えーとなんでしたっけ? あ、ユリアナと申します。ヴァン・ヘルムート王国から参りました」
途端にざわつく。
え? なにさ?
やっぱ外人は差別されちゃう感じなの?
ずっと寡黙だった軍責任者が喋りだす。
「もしや……救世の御子様」
んーー?
あぅ………
「なんのことでしょう?」
「最新の情報に有りました。今代の御子様は艷やかな金髪に深い空色の瞳を持つ信じられない程の美少女であると」
惜しい!
ただしくは美少年。
「美」は譲れない。
「そんなの王国にはたくさんいますよ?」
嘘じゃない。その条件ならヘルガたんを筆頭に学院だけでも10人はいる。王国全土なら……10,000人はいるだろう。
美少女天国か!
「天恵の歌声の持ち主だとも」
あれぇ?
どこで……お茶会か?
領のはさすがに知れてないだろう。
かぁ〜失敗失敗。
「そうであるとして、どうなさいますか?」
「ルーメル神聖帝国はこのような仕儀にて、最早継続は不可能に御座います。なれば、革命を遂げ新生国家として新しい主を戴きたく」
にわかに慇懃な態度になった軍人は周りを見渡し……
「聞け! 先程の天恵ともいえる歌声を聞いた全ての者達よ! 今我等が御前には救世の御子様が居られる。あの歌声のぬしだ! 我等は選ばねばならない。新しき主を、新しき救いを、新しき王を!!」
いやいやいやいやいやいやいや、何それ何それ、馬鹿じゃねーの? そんなん、お前……
「「「「「「「「「「「「うおおぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」」」
帝都が震えた。
その日、ルーメル神聖帝国は滅び、新たにユリアナ神聖王国(仮)が誕生した。
「また歴史的瞬間に立ち会えました」
クロエがなんか言ってる。




