62.世界で一番可愛い
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
翌朝、クルトを拉致したと呼出しがきた。
クロエを前にした彼は即失禁。
そのあとはどんな質問にも素直に答えた。
同席していた爺さんは真っ青な顔してただ座ってた。
だから言ったのに。
あの殺気と威圧はオレですら未だにチビりそうになるんだから。
フフフ、爺さん。少し臭ってるゼ?
城内にあと3人、ヨハン含め警備隊3人の仲間がいて、影の1人が連絡役だそうだ。
リスク管理がグダグダだな。
ヨハンの他は騎士に裏切り者がいないのがせめてもの救いか。
今日中に城内は全員拘束することに決定した。
警備隊の屯所は馬車で3日掛かる場所だ。騎士を中心に捕縛隊を編成し、明日出立と決まった。
そんで影だが……大捕物の末、ハンナが半殺しにして捕らえた。
引き摺り出された影にクロエがえげつない闇魔導系の審判とかいう術式を使い……彼の精神崩壊と引き換えに全てを引き出した。
やはり神聖帝国はマルキアス領の食料を狙っていた。
全ては不可知であった帝国の内情をヨハンが知ったことから始まった。
影を介して帝国と通じてはいたもののマルキアスの情報をあちらへ流すだけであちらの様子は知らされていない。
ヨハンは両親が下手を打って亡命した為に幼くして地位も名誉も失ったことに憤っていた。
だから影が目を付けたのだ。
裏切り者の影は元々が帝国の影で、いわば二重スパイだった。そして帝国内に忍ばせた草は……
影は不満だらけの国境警備隊副隊長をたらし込み、警備計画や巡回時間と頻度、ルートなどの情報を得ていたのだが、ヨハンが帝国の窮状を知り何故か義憤を表したのだ。
自分が手引きするから帝国軍を動かしマルキアス領で略奪してはどうかと。
影は迷った。帝国寄りであることは確かだが、軍を動かすような計画を具申するほどの立場にはない。
だが、運命は噛み合った。
帝国の影の指揮者から正にその通りの計画を命じられたのだから。
ヨハンに話すと喜んで案内役を買って出た。
その決行日は……2日後。
手紙や密書の類いを止めていたのは作戦決行前の情報遮断の為だとか。
明日出立の捕縛隊は間に合わない。その上帝国軍とかち合えば撃滅されかねない。
だが放って置いては警備隊が潰される。
何もかもが間に合わない。
2日後と言えばパーティーの日だな。
それどころじゃないけど……
「クロエ、飛竜でデートに行かない?」
「デート?」
「男女で遊びに行くこと」
「……なるほど、良いですね。行きましょう」
「ハンナは? 来る?」
「勿論です。置いて行かないで下さい」
「ユリアン、フル装備で参りましょう」
「そうだね。お祖父様、父様。クロエ達とちょっと南の方へ遊びに行って来ます。帰りは明後日くらいでしょうか」
「ユリアン、なにもお前が……」
「父様。ボクだって今はまだ王国の武人なのですよ? 戦える力もある。やれることをやるだけです」
父、そして爺さんに順に抱きしめられてから、ヘルガに抱きつかれた。
「ユリアン様、私も……」
「まだ、早いかな? またの機会にね」
相変わらず可愛いな、この子は。
1時間後、まだ明るい空の下、雲上の人となっていた。
これほどの高度なら下からはほぼ認識できない。
南下し、国境手前。暗くなり始めた頃、森の中に帝国軍を発見した。
すでに越境していた。
オレにはよめないが、クロエに聞いたところ約5000人だそうな。
大軍と言うほどではない。だが、コチラは準備出来ていない以上、即応不可だ。
敵は略奪という目的を達するだろう。
さあて、天罰覿面。
クロエには次撃を頼み、初撃は譲ってもらった。
初めての実戦。今生で初めての人殺し。しかもジェノサイド。
魔力滞留の半分を注ぐ、「雷よ」と念じ……黒雲が眼下に広がる。
狙いも何も無い、黒雲下を範囲雷撃だ。
パリパリと雷光が走る……充電完了かな?
「滅せよ!」
黒雲の縁全体からパアッと発光し、細い雷光が無数に走る。3秒ほど後、激しい爆音が衝撃波と共にこちらへ襲いかかる。
ハンナが飛竜ごと圧縮した風魔導術式で防御してくれた。
役目を果たした黒雲はかき消え……薄暗い森の中に無数に横たわる人だったモノたちを確認できた。
クロエはすでに術式を待機に切替えている。次撃不要と判断したのだろう。
この攻撃を魔導士によるモノと確信する者はいないだろう。
だって存在しない筈の属性なのだから。
運悪く自然災害に遭った帝国軍。
生き残りがいたとしてもそう判断するしかない。だから敢えて下には降りないことにした。
もし生き残りがいたら……それこそ皆殺しにしなければならない。守秘のために。
翌朝、国境警備隊屯所へと赴いた。
隊長を呼出し、直に爺さんからの命令書を手渡した。
ヨハンを含む3人を呼出し他隊員による捕縛を……ヨハンが抵抗したがハンナによって速やかに制圧される。
明るみに出た神聖帝国の謀略を阻止する為の索敵を隊長へ命じる。
いまのオレは爺さんの代理人という立場だ。
半日後、帝国軍の大量の死体を発見したとの報が入る。
生存者確認も含め、待機させていた警備隊200名ほどが現地へ向かった。
23人の生存者を発見。そのうち助かる見込みがあるのは10名だそうだ。
屯所へ運ばせ治癒を施した。
その後尋問し、正に天罰により軍が一瞬で壊滅した旨を供述していた。
報告書にまとめさせ、捕縛者の護送と、帝国軍の遺体焼却を指示し、翌日の朝、マルキアスブルグへ向けて飛び去った。
帰る前、ちょっと恥ずかしいことが発覚し……警備兵達に金貨400枚を寄贈した。ホントごめんね。
駆け足の二泊三日だった。
さすがに疲れたわぁ。
「ユリアン、お前は私の恩人だ。ありがとう、ありがとう」
「お祖父様の孫としてお役に立てて幸いです。そういえば、母様やミハイルは? あと客人もこちらへ来ていると思うのですが?」
「ヴィルマ達は昨日到着している。しかし、ユリアン。お前ガンツ師と親しいのだな。驚いたぞ」
「クロエの古い知り合いなんだそうです。おかげで縁を得ました」
母や弟と合流し、パーティーへ出席する準備に取り掛かった。
着替えとかは母達の馬車に積んでたからね。
ここで問題が起きる、いや、発覚する。
「兄様、兄様は天使様なの?」
「は? いや、普通にヒューマンだよ?」
「でもみんな言ってるよ、あんな歌声で、美しい旋律を奏でて、可憐な姿は天使でしか有り得ないって。ボクもそう思う!」
そう言いながらオレに抱きつき……息を吸い込んだ。
「ミハイル?」
呼ばれて顔をあげるが……トロンとしたその顔は10歳児のそれではない。
まさか……ダメ! それだけは絶対にダメ!!
「兄様。今日、一緒に寝ちゃだめ?」
らめぇ!
「ダメなんだ。夜のボクはクロエ達の専有物だからね」
言ってて悲しい気持ちになる。が、ここは絶対に流されちゃいけない。
何故ならミハイルは寧ろオレにとって天使。
無茶苦茶に可愛いのだ。
なんならヘルガより可愛いのだ。
絶対に穢れてはならない!
「あら、ユリアン。一晩くらいいいじゃない。確か……水と闇の曜日は解放されるのではなくて?」
母よ。あの餓狼どもを甘くみるな。
今日は餌は無いといっても獲物の近くを離れず、常に威嚇しながら機会を伺い続ける狡猾な捕食者なんだ。
オレはその囲みの中で丸くなって時間が過ぎるのを震えて待つ子羊なんだ。
解放なんてされるわけがない。
「同衾は義務らしいから……」
「あらそうなの? 私からお願いしてみようかしら」
「…………無駄だと思うな」
「後で伺ってみるわね」
「……兄様……いい匂い……んん、なんかお股がムズムズする?」
ヤベェ、オレ相手で性に目覚めかけている?
よし、まずは隔離。
「ミハイル、早く着替えて。ガンツ師にミハイルの武具をお願いしてみようか?」
「ガンツ師に?」
「彼に武具を作ってもらえるのは大変な栄誉らしいよ。ボクの前はね、なんとお祖父様が最後だって」
「え、お祖父様が?」
「うん。30年前って言ってたかな」
「うわぁ、ボクも作ってもらえるかな?」
「それは分からないけど、聞いてみようよ、ね?」
「うん!」
か、かわええ~
絶対に穢しちゃダメ。
ガンツ師はミハイルの腕が見たいと言った。
オレん時はお触りでオッケーだったのに。セクハラで訴えられるとでも思ったかな。
一緒に暮らしていた頃でもミハイルはなかなかの力量だった。まだ10歳でハンスといい勝負が出来るくらいには。
異常じゃね?
力も強いので、黒騎士の剣を貸してやった。
いつもの丸太を倒さないように3回斬った。ダルマ落とし化作業だ。
4回目で倒れた。
ちゃんと斬れるのは刃がブレずに真っ直ぐ入っているからだ。
木が落ちないのは素早いからだ。
ウンウン。大変良く出来ました。
「如何でしょう、ガンツさん」
腕組みし、目を瞑りながら考え中のガンツ師。
「ゼーゼマン殿、その孫と続いてその弟君、これもご縁ですな。良いでしょう。お作りしましょう」
「本当に? ありがとうございます!」
ミハイルが弾ける笑顔でガンツ師にお礼を言っている。
うん、かわええ~
なんとかミハイルの気を反らして、今度こそ正装する。
客人も続々集まってきたようす。
パーティーナイトの始まりだ。
投稿予約が来年三が日にまで及びました。変わらず午前0時更新です。それまでは毎日更新保障致します。
よろしくお願い致します。




