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54.帝国と我が家の内情

〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉


翌日の昼前、ハンスから声を掛けられた。


「昨日の賊なのですが、中々に口が固く殆ど言葉を発しません。ですが今朝になってユリアン様になら話すと言い出しまして。いかが致しましょう」


黙秘で情報価値を上げてからオレになら話すってか?

なんのための駆け引きだか分からんな。

まぁ、いい。付き合うか。


「わかったよ。案内頼める?」


「はい」


子供の頃はあんまり行かない、いや、行ってはいけないと躾られたエリアへと誘われた。

今現在も子供なんだけどね。



その部屋は地下にあった。

ここならばどれだけ叫び声や悲鳴があがっても外に漏れることはない。

近所迷惑防止、騒音対策万全といったところか。


連れてきた5人のうち頭らしき男だけがそこにいた。


鎖に繋がれた膝立ちの男。

オレを見ると声を掛けてきた。


「よお、昨日ぶりだな。良く眠れたかい?」


「生憎だけど伴侶のせいで寝不足だよ」


男はクロエを一瞥すると、


「身悶えする程に妬ましいな」


と言って笑った。


「それで、ボクになら話すと聞いてきたんだけど?」


「あぁ、そうだ。昨日も言ったが、オレは下っ端の兵士だ。大したことは知らない。それでもいいなら質問には答える」


「充分だよ」


尋問官に(かせ)を外してと指示した。


椅子に座らせて、テーブルを挟んで対面にオレも座った。

後ろにはクロエがいる。


「神聖帝国は飢饉なの? 君たちが出国したのは少なくとも数ヶ月前でしょ? 収穫後の今は安定しているかもしれないよ?」


「ダメだな。麦の半数は病害でやられていた。今年も収穫量が足りないのは目に見えていた」


「今年も?」


「去年、一昨年と凶作が続いた。それなのに領主達は税率を8割に上げやがった。元々が6割だ、生活なんてできやしねぇ。土地を捨てた連中が徒党を組んであちこちで盗賊騒ぎが頻発したよ。兵士が足りないっつうんで人手が足りてない農民を徴兵しようとして、今度は反乱だ」


「酷いね」


「オレ達元々の兵士は寝るヒマもない、休日もない、最悪の状態であっちこっち引き摺り回されて上官の憂さ晴らしに殴られる日々だ。やってられるか!」


「ごもっとも」


「だから討伐対象だった彼奴等と出会い、そのままヴァン・ヘルムート王国へ逃げようってことになったんだ」


「それはいつ頃?」


「3ヶ月前だ」


「仕事を探したって言っていたよね?」


「あぁ、マルキアスブルグでな。デカい街だし、半端仕事にでもありつければとな。だがな、帝国訛りですぐにあっちから来た余所者だとバレるんだ。そして警戒されて弾かれる。仲間が一人(なぶ)られてな、死んだ。それを機に街を出たよ。先月末頃だ」


「盗賊はあれが初犯?」


「ああ、ここいらは信じられんくらい治安がいい。警備や巡回も頻繁だ。だから本当はやりたく無かったんだが……この辺りは草原と農地ばかりで狩りも出来ないし、畑での盗みなんかでも食うには限界がある。堪えきれずにな……」


「なるほど。神聖帝国についてもう少し聞いても?」


「ん? ああ、聞いてくれ」


「麦の病害の原因と対処法は探求されていましたか?」


「原因は分かっていたようだが、どう対処するかまでは解ってなかったようだな」


「原因とは?」


「水の下位精霊がどうとか言っていたな。具体的には知らん」


「範囲は? 神聖帝国全土とか?」


「全体的だと聞いた」


「皇帝はなにかした?」


「なにも。なにかしたなんて話は聞いたことが無い」


「兵士が足りないみたいなことをいっていたけれど、何かで減ったからとかいうことはない?」


「そういえば……西の方で紛争があったような話しを聞いたな。何とか言う国と揉めたとか。勝ったってえのは聞かなかったから、それで兵士が減ったのかもしれないな」


「その辺りもう少し」


「……あ、御子の身柄をどうこうとかいう話しだったような」


「……御子とは?」


「皇帝の祖先に救世の御子ってのがいて、そいつみたいなのがまた生まれたらしいんだ。そんで帝国の国教、創世神の使徒教会と仲が悪い創世神の下僕教会の本部がある隣国とで情報の遣り取りで揉めて紛争になったとか、よく分からん」


「君自身はその救世の御子についてどの程度知っているのかな、有名なの?」


「帝国民ならみんな知ってるよ。ガキの頃から絵本なんかで読み聞かされるし、オレは行けなかったが学校でも習うそうだしな。生まれて直ぐに話しをする神童で、創世神様の眷属だとされる破壊の御使の暴走を止められる唯一の存在だってさ」


「なるほど。こちらでも聞く話しと同じですね。最後に一つ、君は今後どう在りたい?」


「どう在りたい? 盗賊は斬首か鉱山送りだろ? そんなこと考えてもしょうがねえ」


「君らは初犯でボクら以外に被害者はいない。ボクらの被害も時間だけ。罰と言えば君の仲間が10名程返り討ちに遭って済んでいるとも言える」


「そんな……」


「選びなさい。神聖帝国へ強制送還か、ここシュワルツクロイツ子爵領で農家の下働きや鍛冶屋の弟子、商店の売り子に領の兵士見習い。ここでならいくらでも働き口を紹介しよう。さあ」


「いいのか? アンタを襲ったようなオレたちを……本当に?」


「苦労し、辛い目に遭ってただ死ぬだけの人生なんてつまらないじゃないか。被害者のボクが赦すのだから誰も文句なんか言わないさ、ね?」


ハンスと審問官を見る。

めちゃ苦笑いの二人。


「若様がそうおっしゃるならそのように計らいましょう」

ハンスが受けてくれた。


あとをハンスに任せ審問部屋を後にした。



終始無言だったクロエが話し掛けてきた。


「紛争の話しは初耳ですね」


「うん。品質は低めだけれど生の情報が手に入った。後で父様の所へ行くよ」


「ええ、彼としても裏を取りたいでしょうから……一度見に行ってみましょうか?」


「神聖帝国に?」


「ええ、紛争地帯へ」


飛竜ならすぐか。

父……いや、爺さんに要相談だな。


「来週から収穫祭が始まるし、その後はマルキアスブルグへ行かなきゃいけないから、そのあとなら行けるかな……ハンナは?」


「勿論同行します。飛竜もあの頃よりも大きくなっていると思いますし」


別れてまだ5ヶ月しかたってないぞ?

そんなに大きくなるわけないじゃんさ。


みにいってみた。

餌は自給させているので領の近くの森に領主公認で住み着いている。

魔獣狩りでよくのせてもらってたから結構仲良くなった。

元気にしてるかな?


大きくなってた。

前は大人三人で満席くらいのサイズだったけど、今は大人四人でまだ余裕があるくらいに。

二周りくらいデカく育っている。

スゲェ、何処まで育つんだろう?


彼? はオレのこともちゃんと覚えていた。ほぼオレの身体……よりも大きい顔を寄せてスリスリしてきた。

かわええ~。

尻尾をぴったんぴったんしている。

かわええ~。


一頻り遊んでバイバイした。

こんなに子供らしく無心に遊んだのいつ以来だろう?


前世以来?

今生(こんじょう)は荒んでるなぁ。



お茶の時間を見計らって父を訪ねた。そこにはハンスと審問官がいた。

聴取した情報は報告書にして概ね伝えたそうだ。

それならもういいかと辞去しようとしたら引き留められた。


しばし神聖帝国の話しをした。

そのついでに飛竜での紛争地帯偵察を申し出た。

難色を示す父、簡単に説得するクロエ。

まるでコントを見ているようだった。


推定での往復に4日。調査に5日。余裕をみて計10日。

やはり収穫祭と辺境伯パーティーが済んでからにせよとのお達しだ。


帝国情報は明日には爺さんのところへ発送する。



その夜、ハンナもスイートルームで同衾することになった。


昨日、ハンナのことは父に話してある。今日には全ての家人がしっていた。

周りのハンナへの嫉妬が凄まじい。

実力行使してくる他の戦闘侍女や従者、そして騎士。

チョイチョイ男が混ざっている。

それら全てをハンナは実力で退けた。

つえぇ!


なんで闘いを知っているかって?

みんなわざわざオレのいる前で名乗りをしてハンナに挑んでいったからだ。


ワンチャンあるかも。

ハンナに勝ったらひょっとしたら抱いてもらえるかも。

という共通認識が何故か屋敷内で共有されている。


だからといって男は……

大体小さい頃からお世話になった人ばかりだし。

あ、ハンナがゆるされたからか。ハンナこそ生まれるちょっと前からいる家人だし、みんなにチャンスがあるということか。


でも男は勘弁してくれ。みんないい歳だし。



ハンナはちょっと間が空いたこともあり、最初から飛ばしている。

あっという間に搾りつくされて回生術式の世話に。


久しぶりに寝堕ちした。




収穫祭初日。

信じられない人が会いに来た。

ガンツだ。


屋敷の応接間、テーブルの上に大きな木箱が鎮座している。ガンツの弟子二人が蓋に施された封印を解き開封した。


あぁ、シタールもどき改。


クロエの顔が紅潮している。ハンナもだ。


その場で調律して音を合わせる。

注文してあったスリングを肩に掛けてギターのように掻き鳴らす。

曲は……名曲「禁じら◯た遊び」


その場に居た全員の時が止まった。

無言のリクエストを受けて更に二曲、歌曲を弾いた。


音に引き寄せられたのか、途中何人か入室してきた家人がいることはしっていたが、その中に母がいた。

感極まった涙目の母はオレに近寄りそっと抱きしめた。

ふわりと良い匂いがした。


改めて「ただいま、母様」と挨拶をしたよ。


「お帰りなさい、私のユリアン」


そう言って両頬と額に接吻をされた。



ガンツら来客中ということもあり、それは直ぐにしまいになったが、良い時間だった。

クロエやハンナもだが、オレの周りには無償の愛をくれる人が多くいる。

母もその一人だ。大事にしなければ。


ガンツは試行錯誤で作り上げた楽器を、適正な演奏者が扱うと素晴らしい旋律を奏でることを知り大興奮している。


クロエは空間収納からでっかい金貨袋を取り出した。


「大金貨1,000枚だ。足りるかは知らんが、受け取れ」


ガンツは渋面だ。


こうなると引っ込めないのはガンツも分かっている。

渋々受け取った。


そして始まる「説明」。彼が作ったコレは単純に楽器ではなかった。


ネック裏には直刀剣が仕込まれ、三箇所に小さなスローイングナイフが隠されている。

更にヘッド部には仕込み針が……暗殺武器?


直刀剣は短いが、見事な出来ばえの剣で……


「この剣とかってガンツさんが?」


「勿論です。旦那様」


おおぅ、またしてもガンツお手製か。師範達に妬まれる。


まあ、オレにとってのメインは楽器だ。仕込み武器はそっとしておこう。



オリジナルのシタールもどきとは異なる仕様にしてもらった。

なんか共鳴用? の弾かない弦とかが付いていて、音が独特なのは悪くないんだけど手入れが大変そうだからなしにした。

チューニングできる弾く用の弦もギターと同じ6弦に。弦は魔獣の腱だそうだ。ボディもギター形状は難易度高そうなので水滴型にしてもらった。リュートっぽい。


響きかたが違うからやっぱりギターとは異なる音だけど、カスタマイズしてもらっただけあって弾きやすい。

運搬用のケースまで拵えてもらった。中には交換用の弦やパーツがストックしてあった。至れり尽くせりだ。


大満足。さすがガンツ師。

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