53.神聖帝国からきた男
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
お別れをし、馬車1台になってとことこと進むと半日ほどのところでなんと盗賊に行く手を阻まれた。
隠れて弓を構えている奴込みで15人かな。大概弱っちいのばかりだけど2人だけまぁまぁ強そうなのがいる。
そんでもうちの従者の方が強いだろう。
「ハンス、どうする?」
ハンナを抑え、聞いてみる。
「お任せを」
「どれくらい?」
「全ていただきます」
「うん、任せた」
5分で終了。
うちの戦闘系従者や侍女は軒並み強い。ハンナは頭二つ分くらい抜けているけれど、他の連中も他家ではエース級張れるようなのばかりだ。
ハンスはその中でも中の中くらい。それでも野盗15人程度ならば無傷の圧勝。
さてと、
「彼らもこの辺りがマルキアス辺境伯派閥の勢力内って知らない訳ないよね? その辺り聞いてきてもらえる?」
ハンナに頼んだ。
不敵な笑みと共に颯爽と馬車から降りた後……悲鳴や怒声、くぐもった呻き声などが……段々聞こえなくなり……息も絶えだえな呟き声がチラホラと。
時間にして30分程経過してからハンナが戻ってきた。
「神聖帝国から逃亡してきた兵士や元農民だそうです。体つきや言葉遣いなどから察するに嘘はいっていないかと」
「かなり王国側へ入り込んでいるけど何故ここへきてからの盗賊行為を?」
「工作員などではなく、飢饉と軍政のキツさから逃げる為の越境であり、職を求めはしたものの上手く行かずこのような仕儀に至ったとか」
「何人生きてる?」
「5人です」
全員討ち取りが一番面倒がないんだけどな。
僅かばかりでも情報が取れればいいか。
「縄を打って馬車に繋ごうか。クロエ、怪我人を治してやって」
「それは構いませんし、このような下賤な者の対応はワタシがしますが、ユリアンも治癒解禁でよいのでは?」
あぁ、それもそうか、もういろいろと隠さなくても……バレてるわな。
「うん、賢者になったことも知らせるつもりだしね」
「でも雷撃などは……」
「うん。言わない」
雷撃は前例のない全く新しい種類の力だ。切り札にもなり得るし、広めるのは危険と判断した。
ヘルガに見せたのはその時点で引き込むことをクロエが決めていたからだ。
全員で降りてゆき後ろ手に縄を掛けて縦列に縄で連結、馬車に繋いだ。
そして治癒を施す。
盗賊達が驚いた顔をしている。
「なぁ、アンタ貴族だろ? 貴重な治癒をなんでオレらに使うんだ?」
「黙れ」
ハンナが凄む。
こえぇ……
「そうだね、君たちから神聖帝国の情報をいくらかでももらえたら助かるからかな。生きてうちの屋敷に連れていくには元気なほうがいいよね?」
「たいした情報なんて……」
「いいんだよ。情報の重要度はうちのものが判断するからさ」
「治癒は……感謝する」
「若様、亡骸を纏めました」
ハンスが呼ぶほうへ目を遣る。
5m四方ってとこかな。
「ハンス、離れて」
遺体の重なりに向けて掌を翳す。「継続する業火よ」と念じて滞留魔力を球体状にして放射する。
遺体のところまで飛ばしたところで、「点火」と念じると、ボンッと音がして勢いよく燃え上がる。更に四方から風を送るとより高温に燃え上がり、忽ちのうちに遺体は骨も残さず燃え尽きた。
掌を握り込む様にして「消火」と念じ炎を消し去る。
「魔導士……なんて人に手を出してしまったんだ……」
盗賊の頭らしき男が呟いた。
それからは何事もなく旅を続け、翌日の夕刻に屋敷へ帰参した。
父に盗賊との経緯などを話し引き渡した。
そんでもって本日は闇の曜日。
屋敷のメイドに湯浴みの支度を言付けて自室へと。
5ヶ月ぶりの自室。何だか想い出がいっぱいな自室。
快楽と恐怖と諦観の詰まった……王都屋敷程ではない。
ふう、クロエ共々旅装を解いて部屋着に着替えた。ハンナが下着の用意とタオルの準備などを済ませる頃に先程のメイドから声が掛かった。
湯浴みをし、やはり部屋着を着てくつろいでいると夕食の声が掛かった。
クロエを交え、久々の家族団欒となった。弟のミハイルからは学院の話しをせがまれた。
異種族の武術師範がすごく強いとか、お世話になっている鍛冶工房があって、ミハイルが来たら紹介するよとか、当たり障りのないところを慎重に選んで話して聞かせた。
反対に、オレ不在の間になにか無かったかと聞いたら……家人の多くが王都屋敷勤務を羨ましがり、任務交代を主張して一時騒ぎになったとか、オレの服がどうこうと一部で喧嘩騒ぎがあったとか……愛されてんなぁ、オレ。っていう話しが沢山聞けた。
食後、父に呼ばれて執務室へ赴いた。クロエも一緒。
やはりと言おうか、王都でのあれこれはほぼ正確に我が家にも伝達されていた。
まぁ、オレも手紙は出してたしね。
流石に爛れた性生活は結界のおかげで露顕していないけどね。
それだけが救い。
だがしかし、天恵のカーテシーはばれてーら。
黒騎士セット見せろとか、うちでも試技やれとかはいくらでもオケだ。
事のついでに魔導が賢者に至ったこと、治癒が使えるようになったことなども話した。
驚いていたが、納得もしていた。ハンナとの話も……
ここで、
「まだハンターでやっていくつもりか?」
と聞いてきた。
これにクロエが答える
「そうだ。いずれは貴族を離脱せねばならん。恐らく王はユリアンの取り込みに動くだろう。ワタシ抜きにしても垂涎の戦力だからな。ハンナも目を付けられているはずだ」
「ハンナが?」
「学院で試技を行った際、ユリアンだけでなくハンナにもそういう視線を向けていた。言っておくが、ワタシの見立てではハンナはお義父様と同等レベルの武人だぞ」
「お、お義父様?……元々資質ある者であったが……クロエ様が指導を?」
「あぁ、鍛錬法と様々な技術を伝授した。暗殺者としてならばお義父様を超えよう」
「そんなに……ところで、そのお義父様というのは少々時期尚早かと思うのですが?」
「定められた未来に抗うこともあるまい。少々年上だが、ワタシは貴方の娘になるのだから」
父の顔が耳まで真っ赤に染まった!
そういや大ファンだっけか。
この部屋にクロエの肖像画が飾られる日も近い。
その後クロエからヘルガについての話しを切り出した。
後日、伯爵共々爺さんの所へ出向き話合いの場を設けようということに落ち着いた。
どちらにせよ、領内の収穫祭が終わったら寄り親のマルキアス辺境伯主催パーティーに派閥貴族は全員参加することになっているから顔は合わせる事になっているらしい。
そしてオレ達にも参加せぇと命が下った。
自室へもどってから必要ないハズの結界を張るクロエ。
何故に? と聞くと。
「クセになってるのかな?」
とか目を泳がせながら答える。
就寝後のセクハラがえげつない。
もぅやる気満々のお触りと口には出せない匂い攻撃に……落とされてしまう。
何故かハンナに軽く罪悪感が……
明日も頑張らなきゃ。ハンナも入れて。




