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51.無敵少女

〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉


馬車は行く、万感の想いを載せて今、馬車は行く。



方向一緒だし、一緒に帰ろっ?


ってなくらいの乗りでヘルガ嬢から強めの、かなり強めのお誘いを受けた。

そしてヘルガ嬢は自前の馬車には乗らず、四人乗りの馬車に三人で乗っているオレの馬車に乗り込んできた。

二人が子供だっていってもやはり狭い。

文句を厚さ5mmくらいのオブラートにつつんでオーバースローで投げ込んだら、


「ではユリアン様、私の馬車へ参りましょう」


とか言い出した。

あの一件以来吹っ切れたようで前にも増して積極的。

しかもストロングスタイルだ。

あのパパ伯爵を尻もち付かせたクロエの殺気をさっきから浴びまくりなのにへっちゃらでグイグイくる。


強くなったなぁ堀口……どころではない。肝の座りは多分中人族最強チャンピオンではなかろうか?


実のところオレもハンナにも割とキツイ。クロエの殺気。

お誘い受けるまでもなくヘルガ馬車へ逃げ出したいくらいにはキツイ。


なのに腕に絡みついて脚もスリスリしてくる。

そして顔が近い。

油断すると唇を奪われそう。



放尿はここまでひとを変えるのか。

そういやあ、街中で限界まで溜めた小便をやっと見つけたトイレで解き放ったときの解放感と多幸感は凄いもんな。

それのさらに高次元版か?

解放感と多幸感の継続期間も1ヶ月くらいだったりして。


つまりまた2ヶ月後くらいに校舎裏とかによびだされるのかな?


「おぅ、出すもん出してお互いスッキリしようや。な?」


「昨夜も今朝も全部出してきちゃったからもう出ませんよ……」


「まあいいから脱げや、身体検査してやんからよ?」


「マジ勘弁して下さい」


あれ? 途中から話しの流れが変わったな?


いっそこの妄想劇場で乗り切るか、あと11日間。


なんかやれそうな気がする。


途中で海も併用して。


目下の目標は南半球に流されること。

これがかなり難しい。


あれ? ってことはエクアドルから北太平洋に戻ってる?

ならば潮岬からだな。目指せ本州最南端。


南半球いったらパタゴニアとか行ってみたいなぁ。



「……小娘」


あ、クロエの腕がヘルガ嬢へ向って伸びる。

ついに実力行使か?


クロエ、君は充分に我慢したよ。


その手はヘルガ嬢の腰へ向かうと、スバッという音と共にヘルガ嬢を抱きさり、気付くとクロエの膝上に座らされていた。


ヘルガ嬢の身体中を弄り何かを確かめるようにスカートを捲り上げた。

下半身再び。

あ、下着がショーツになってる。

そして股間部分に盛り上がりがある。


「生理中か」


クロエの問いに途端に羞恥心を思い出した顔つきになった。

パンイチ下半身見られるだけなら恥ずかしくないらしい。


「侍女の側にいたほうが安心なのではないか?」


「ロッテが、侍女が、こういう時のほうが有利になることもあると……」


「お前はその意味するところを理解しているのか?」


「……いいえ」


「なんとも罪作りな侍女だな。」


「あの、意味とは?」


「今ならば子作りの行為に及んでも身体が種を受け付けんということだ。既成事実のみでっち上げ、後でじっくりと責任を取らせればよいとでも考えたのだろう」


「…………」


「自分の馬車へ戻れ。ユリアンはワタシの伴侶だ、何度も言わせるな」


「……でも、エイダ様のことは許容していらっしゃる。ならば私だって!」


「あやつは非常に有用な人材だ。故にユリアンの種を授けて子孫と一族の形成を任せることにしたのだ」


「私だって有用です!」


「ほう? 何が出来ると?」


「もうじき大魔道士になります!」


「なに?」


「火と風と光、闇を習得済です。水が魔術中級でもうじき上級ですから、2学年中には大魔導士へ至るだろうと導師が仰っしゃっていました」


ヘルガ嬢? 近々大魔導士に? その歳で? マジスゲェじゃん!

有用なんてもんじゃねえ。

領主や軍から見たら垂涎だ。


そんなん……パパ伯爵が手放さないだろう。


いや、そうじゃない。

注目すべきはそんな事ではない。

さっきのクロエの発言「ユリアンの種を授けて子孫と一族の形成を任せることにしたのだ」とはどういうことだ?


「……ねぇ、クロエ」


「次の昼休憩時、お前の魔導士の力を見せてみよ。得心がゆけば考えてやってもよい」


「本当ですか!」


「中人族の魔導士は……そうよな、有角族の魔術士に比する程度の力量でしかない。有角族の下級でもよい、魔導士レベルの力量を示せ。それが許容下限だ」


クロエはヘルガ嬢の腹に手をまわし膝上抱っこしたまま話し続けている。

気に入った?


まぁ、可愛さだけならばトップクラスだからな。ヘルガたんは。


…………あ、忘れてた。


「クロエ、あのさ、さっきの……」


「そろそろ昼時ではないか?」


「さようでございますね。御者に声掛けしましょう」


ハンナが背後にいる御者に声掛けしている。

程なくして森の開けた場所へ馬車を寄せて停まった。

馬車は子爵家が1台。伯爵家が3台だ。


空間収納なんてないからな、荷物運搬や従者が乗る用とかでどうしても台数が嵩む。


あんまりいないとはいえ、盗賊対策としての護衛も必要だ。

本来ならハンターに護衛依頼とかするんだけど、大魔神との同行移動なので省略したらしい。

そうでなければ馬車はもう1台増えていただろう。


伯爵家従者や侍女が昼食の準備をする中、クロエがハイジャンプして見つけた近くの丘へいくことに。

徒歩15分程で森を抜け草原に出た。

2いや、300mくらい先の丘の上に高さ5mくらいの大きな岩が起立していた。


クロエがその岩を指差す。


「あの岩を破壊しなさい」


この距離で、あの大きさ。硬さが分からないからハッキリとは言えないが、オレの割と全力な爆炎魔導術式か、雷撃魔導術式ならばなんとかいけるかな?

というところ。


もしもヘルガ嬢があれを破壊できたならば、その力量はオレに並ぶ。


「あ、あれを破壊……ですか?」


自信は無いらしい。


「有角族の魔導士ならばやってのける。無理ならは諦めよ。ユリアンをな」


ザワッ……ヘルガ嬢の雰囲気が変わった。


オレやクロエ、ハンナも使わないが、普通の魔術士や魔導士は杖を使う。

増幅器として、照準器として有用らしい。


ヘルガ嬢が持参していた杖を構えた。

この世界の魔法とかには呪文がない。

想像と創造。

魔素を練り、魔力となし、想念をのせて放つのみだ。

力量は段階毎の早さと強さと巧みさによって決定付けられる。


そこに才能の発露がある。



彼女が練り上げ発現させたのは炎と風の複合術式。

それらを束ねて収斂させ、更に絞りに絞ってから…………放った。


一直線に大岩へと延びる軌跡。

着弾と共に発光し、一瞬遅れて轟く爆音。


視界がクリアとなり、見上げるさきには……2/3程を残した大岩が見えた。


辺りが静まり返る。


ヘルガ嬢は呆然と立ち尽くして動かない。


クロエは……


「ユリアン、見せてお上げなさい」


残務処理。

小さく頷いて掌を大岩へ向ける。


「ユリアン、雷撃を」


え? あれは身内以外には秘匿するって……

そゆこと?


人差し指を天に向け「想った」。


「ヘルガ、良く見よ。我等が主の天恵たる力を」


瞬く間に黒雲が湧き立ち辺りを暗闇に包み込む。数度の雷光が天に走り……極大の稲妻が大岩へと落ちる。

落雷の爆音が鼓膜を激しく打ち鳴らす。全身に衝撃波が叩きつける。

近過ぎた!

ヘルガ嬢が尻もちをついて倒れた。

クロエとハンナは風魔術で防壁を展開していてなんともない。


大岩は……無くなっていた。

ここから見る限りは。



馬車のところまで戻る途中で心配した伯爵家の従者が二人迎えにきた。

彼らと共に戻り、侍女のロッテを呼んでもらった。

事情を説明し、伯爵家の主用馬車へヘルガ嬢共々ロッテが乗り込んだ。

まぁ、なんだ。失禁したんだな、これが。


昼食には同席できていたからとりあえずは大丈夫っぽい。


失禁。短期間でこうも遭遇するとなにかの運命を……それはないかやっぱり可愛いだけの子だしね。

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