49.聖なるもの
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
世界全体がそうなのかは知らないが、ここヴァン・ヘルムート王国での主要栽培穀物は小麦を主とし、大麦、ライ麦などである。各々播種、刈入れ時期が異なる。
最も収量が多い小麦は大体11月くらいに種蒔きをして、翌年の8月に収穫する。
収穫したら直ぐに税として領主に播種分を除いた4割が納められる。
いわゆる4公6民だな。
かなり良心的な税額だ。
戦争がしばらくないせいかな。
庶民の可処分所得が増えれば経済が回る。王国は正に繁栄のただ中にあるといってよい。
日本でも西欧でも中世では6公4民なんて普通だ。7公くらいになると土地を捨て農民が逃げる逃散が始まる。
領主家斜陽の始まりでもある。
商家や工房などは時期をずらして徴税する。こちらは利益に対しての課税だ。
そんな訳で納税終了後、どこの領地でも収穫祭が行われる。所謂ハーヴェストフェスティバルだ。
恐らくはそれに合わせたのだろうが、学院の長期休暇は8月、9月の2ヶ月間とされている。
期間が長いのは王都から領地までの距離が遠いから。シュワルツクロイツ子爵領から王都まで馬車で2週間掛かった。うちよりも遠方から来ている学生もいる。往復で1ヶ月以上とかだといろいろと辛い。だから2ヶ月なんだな。
貴族は軒並み街や村に立ち寄るので、それをしない平民はもっと早いけどね。
因みにこの国の街道はかなり整備が行き届いている。よそでは攻め込みづらくするため道の整備などろくすっぽしない地域もある。だからこの国で2週間ならばよそでは1ヶ月はかかるのだとか。約2.5倍。酷道だな。
スタートダッシュの4月、5月はエピソードめじろ押しだったが、6月はエイダとの距離がかなり近付いた。近付いてしまった月だった。
7月は……
そろそろ皆が帰郷の支度を始めソワソワしだした7月17日、土の曜日。
失禁令嬢ことヘルガ・フォン・シュトルツからどうしてもと懇願され昼食後に学院の裏庭的庭園のやや鄙びた感のある東屋へと同行した。
クロエは講義準備のため大講堂へと消えている。
隙を突く勘所はなかなかだ。
何故かヘルガの侍女も同行している。
東屋は背の高い生け垣に囲まれて、さらにラティスのようなものもあって入り口を除けばかなりな目隠し状態だ。
彼女と侍女は中央にあるテーブル前まで進むと手荷物をテーブル上に置いた。
そしてオレに向き直り、呟くように話し出した。
「ユリアン様にはクロエ様だけでなく、近頃はエイダ様とも親しんで居られるご様子。恐らくは侍女のハンナさんとも……」
ハンナにも気付くとは……まぁ、バレるか。
でもなぁ、オレはロリじゃない。エイダはオレを完全に性的な目でみているがまだなんもしていない。
する予定もない。
ホントだよ。
「正妻への望みはもう捨てました。ですが側室にでも迎えていただけるならば喜んでユリアン様の元へ参りたいと思って……」
「お嬢様、お時間も余りございません。本来の望みを果たされるならば速やかにご決断を」
「そうでした。ユリアン様。これからすることは私の自分勝手な嗜好に基づく行いです。とにかくユリアン様にお見せしなくては本当の充足が得られないと結論し、是非にとご足労頂きました」
え? なんだろう。歌とダンスとか?
「それでは、ロッテ、お願いします」
侍女がヘルガ嬢の後ろにまわり、屈み込んだ。
そんでヘルガ嬢のスカートをたくし上げるようにしてヘルガ嬢の下半身を露出させた。
未だにちょうちんパンツ愛用か。
相変わらず可愛さだけならトップクラスだ。下着のチョイスもな。
「ちょ、なにしてるの?」
視線は切らない。見られるのがご所望らしいし。
「はぅんんん!」
と力むような声をだすと……
音もなく、ただ白いパンツに濡れ染みが広がり、やがてパンツの腿穴から滂沱の如き水流が。
それは脚を伝い靴の内外へと流れ落ちる。
出し切ったのか、流れが止まると一呼吸おいてぶるるるっと身体を震わせた。
あの女騎士と比べてよいものか分からないが、匂いはややマイルドだと思う。あまり鼻にツンとこない。
色も透明に近い黄色で、真黄色だった女騎士よりは好感が持てると言えないこともない。
別に黄色が嫌いな訳ではない。昔はスズキのちょっと古い黄色いバイクに憧れたものだ。
失禁ではないな。ただのお漏らしだ。そういう意味では興を削ぐやりようだ。
が、しかし、伯爵令嬢としての性的嗜好の実践的昇華を目の当たりにさせられ、しかもその対象として単独指名されたことは栄誉といえないこともない。
その褒美としてご令嬢のあの解放感と究極の快楽の果てを体現したような顔が見られているじゃないか。
フフン、お漏らしソムリエを名乗っても何処からも否定されることはないだろう。
同業で唯一人のライバルはハンナくらいだろう。
あ、クロエもか?
だが、リアクションに困る。
第一声をどう切り出したらいいのか、皆目見当がつかない。
しかし無言はもっと辛い。
逝ってしまった彼女からは多分言葉は出ない。
えぇーい、ままよ!
「冷えるといけない、すぐに脱いで着替えないと風邪ひくよ?」
我が純潔のユリアンの御心のままに。
「では脱がせていただけますか?」
侍女? お前……
「わたくし、両手が塞がっておりますので」
ご、ご尤も。
とはいえ躊躇していると。
「ユリアン様もあまりお時間がないのでは?」
その通りだ。クロエの講義に行かなきゃならない。万難を排して。
「下着のみ脱がせて頂ければ結構です。あとは手が離せますのでわたくしが」
覚悟を決めた。即実行。
ヘルガ嬢の前で濡れていない部分の床面に片膝をつき、両手でちょうちんパンツに手を掛ける。横は濡れていないから躊躇はない。
中身はどうせ見慣れたアレだ。今更ドキドキもしないさ。一気に膝下まで引下げてその無毛のスジが目に止まった。
12歳で陰毛が生えていないだと?
いや、きっとこの時のために剃って……剃り跡などない。
本物のパイパン。初めて見た。
近付いたゆえの強めの匂いも気にならない。
性器の在り処なのに一切の邪悪さが感じられない。むしろ聖性すら感じさせるではないか。
世界は広い。今生で僅かに二人の女とまぐわった程度でこの世界の女がみんな婬獣だと決めつけてしまっていたとは……目が覚めたよ、ヘルガ嬢。君に本心からの尊敬と感謝を。
「まだ終わりませんか?」
あ、時間ないんだった!
急いで足元まで下げて片足ずつ外してパンツをテーブルの上に置いた。
結局手は濡れてしまったが後悔はない。
いいものを見させてもらったよ。
「それではボクはこれで」
スカートをやや下ろした侍女が一礼している。
挙手で応えてその場をあとにした。
強化を掛けて疾駆する。20分くらいなら約60km/h程で走り続けられる。数秒であれば100km/h超えも可能だ。公道で原付スクーターを追い抜ける足。超便利。
因みにこの世界、いや、この国か? は、度量衡が日本とほぼ一緒。長さの単位もメートルだし。どこかにフランス的な国もあるのだろうか。基準器使用時代は確かオリジナルがフランス保管だったはず。
いや、そんなんいいから急げ!
本校舎まで来て建屋外に掲げられた時計を見る。
あと3分。
よし、間に合う。
時計は普通に機械式だ。結構正確。お高いから庶民には手が出ない。
だからどこの領でも領主が鐘楼を使って午前6時から午後6時までのあいだ、1時間ごとの時報を鳴らして周知する。
学院ではさらに30分毎に1回、時報する。だから午後1時30分開始授業とかが可能なんだな。
大講堂内へ入るところで走るのを止めて徒歩でいつもの椅子に座って講義を……手、洗ってない。
乾いてはいる。匂いは……鼻をかくふりをしながら嗅いでみる。
薄っすらと匂うが、嫌な匂いではない。
そのまま講義を受けた。
終了後、クロエがこちらへ来た。
「時間間際でしたね?」
「うん、ちょっと用事があってさ」
「どのような……なにか……匂いますね?」
え? そんな、わかるの?
あ、五感強化か!
迷うことなくオレの手を取り匂いを嗅ぐクロエ。
「未成年くらいの女の小便ですね」
ドンピシャ!
「後で説明するよ。ここではちょっと勘弁して」
まぁ、隠す必要もないしな。
下手に誤魔化して追求される方がヤバい。
寮室までの道中、自分で出した水で手を洗った。水魔術……魔法? 近ごろこの境目が曖昧だ。
洗い流しながらホンの少しだけ勿体ないとか思っている自分がいたりする。
寮室、結界、説明。
包み隠さず話しましたとも。
それにオレは同い年の女の子には性的に興味がないことと、ユリアン実年齢から見て年上好きだとも言い添えた。
眉間のシワがチョイ怖だったけど納得はしてくれた。
そして妖しく微笑んだ。
あ、これダメなやつだ。
身体だけでなく心もいっちゃってるやつ。
何故かジリジリとにじり寄るクロエに圧倒されながらも辛うじて最後の言葉を捻り出した。
「優しく……してね?」
婬獣が牙を剥いた。
そのうちヘルガ視点も書きます。
需要があるかはわかりませんが。




