4.こつこつユリアン
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
まだ身体ができていないからとの理由から武術の稽古はほぼさせてもらえなかったのだが、魔術の師が居なくなったことと、すでに一般兵士よりも強いフィジカルを備えていることからまずは体術から始めようということになった。
魔力錬成から保持に掛けての工程の途中で身体強化が、それも一時的なものではなく基礎体力の底上げができることがわかった。
破裂防止の日課ついでにフィジカルアップ。素敵だ。
メインの師はもちろん父様だ。
お出かけなんかで数日屋敷を空けるときは父様の友人でハンターをしているというハインツさんが稽古相手をしてくれる。有料で。
ハンターとはなんぞやとの問に彼はいろいろと教えてくれた。
曰く、領内どころか国内外、大陸のほとんどを活動エリアとして様々な依頼を受けて報酬を得る仕事をする自由人をハンターという。
依頼者とハンターの仲介をし、死亡率や依頼失敗率を下げるためにランク制や教育制度などを長い歴史の中で創り上げてきた謂わばハンター達の互助組織ハンターギルドに所属するのが正規ハンターだ。
もちろん闇ハンターや非正規ハンターもいる。
大小数多の国々の街々に支部を置き、あらゆる権力や財力に支配されずに中立と独自性を堅持する組織は当然その後ろ盾となる暴力装置を保持している。
初級から始まり下級、中級、上級、特級そして極級を頂点とするランク制の中で特級ハンターは単独で高危険度の魔獣を討伐し、中隊単位の傭兵部隊と互角以上に戦えるとの実力を認められた、もはや人ならざる者だ。現役の特級ハンターはギルドに20名登録されている。
そして極級ハンターは単独でドラゴンと戦い勝つか引き分ける超越者だ。中人の軍隊ならば万人を擁する師団を撃滅する圧倒的戦力。
現役登録者数はわずかに3名。
彼ら圧倒的暴力がギルド中立の背景となっているのだそうな。
こんな大人の事情も聞けばつらつらと語って聞かせてくれるハインツさんは特級ハンターだそうな。
そして父も成人後5年程の期間ハンターをやっており、ハインツさんと母と乳母のヒルダとパーティーを組んで当時みんなが上級に至った強者詰め合わせの暴力集団だったのだとか。
ちなみにヒルダはハインツさんの奥さんだったりする。
あれ? ヒルダの旦那って家臣じゃなかったっけ? と思ったら今は領軍は休職中でギルドの仕事を請け負っているのだとか。
乳母を免ぜられたヒルダと一緒に。
自由な職場だな、結構なことで。
数年が経ち10歳を過ぎた。児童相手に当然手加減はしているのだろうが投げに容赦がない。
魔術による一時的身体強化は禁止されているので普通に痛い。
ていうか魔法魔術の類は全部使用禁止。
2年前から武器の鍛錬もしていてちょいちょい怪我もする。
怪我した時だけ癒しオッケーというルールだけど、あくまで当家に仕える魔導士による施術前提だ。オレはまだ魔導士に至っていない前提なので自分では使わない。
癒しは水魔導系か光魔導系で特に才能ある者だけが習得可能な特殊系だ。ちょっと前にそんな治癒にも開眼してほぼほぼオールラウンダーと化している。
クロエが辞して後約4年、3元素魔術上級まで取得し、すぐに光、闇、空間が会得できた。
クロエが不得手であったため遅れ気味な火を引き上げていけばあと数年で賢者も夢じゃないだろう。
これで武術を高次元で習得できれば中人族最強も見えてくる。
って、そんなに強くなる必要があるのかはまだわからないんだよな。
破滅さんとバトルすることになるのかどうかもわからんし、そもそも人族の力量で対抗できるような存在なのかもわからない。
2年くらい前からかな、なんだか無目的に強化しているかのような不安感がある。
あまりに周りからかけ離れた強者って大勢から避けられる対象にされてしまうのではないかという半ば確信がある故の不安感。これからも常に付きまとうであろうもやもやだ。
12歳から3年間の学校通いとかもうね、憂鬱でしかない。
ご入学まであと1年とちょいか。それでも強くなるしかない。他にやりようを思いつかないし。
乳幼児の頃に比べたら睡眠時間はだいぶ削れるようになった。
魔導も武術も鍛え抜き、身に付いた強さを極力隠蔽しながら生きていくという凡庸極まりない方法論でなんとかやっていく……のさ。
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