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47.初めてのお披露目(歌)

〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉


あんなに静まり返ってたけど、ぼちぼちガヤガヤしだした。


ここで学院長が立ち上がりアナウンス。


「本日はささやかな趣向をご用意してございます」


すると手に手に楽器を携えた楽士三人が現れた。


横笛とアコーディオンらしき楽器と……ギター?

いや、インドのシタールに似ている。共鳴用の弦が張ってあるやつ。

弦数は少ないかな? 寧ろリュートかな。

多分あれなら弾ける。


前世でピアノとギターは結構やった。


こちらにきてからこの手の弦楽器はミニハープくらいしか見ていない。

ちょっと興奮している。


大人しく楽士達の演奏を聴く。

日本人的感性だとインドや中央アジアを思い起こさせるような曲調が多いかな。

20分くらい流して演奏したら一旦休憩。笛の人とかしんどいだろうしね。


シタールもどきについ目がいく。

そして持ち主と目が合う。

にっこり笑って近付いてきた。

命知らず!


「この楽器に興味がおありですか?」


やっぱりちょっとくらいは触ってみたい。


「ええ、凄く気になります」


「どうぞ御手に取って下さい」


おおっ、マジか。

そんじゃあ遠慮なく。


「よろしいのですか? では遠慮なく」


立ち上がり、両手で受け取る。

肩掛け的なのが付いていないので、そのまま椅子に腰掛けて腿上に載せて弦一本づつを順につま弾き音を確かめる。

調整をするのは失礼かと考え、指押さえで音程を整えながらワンフレーズ鳴らす。

うおっ? 楽しいぞ?


何か弾いてみるか。

この世界にない曲は避けよう。

となると……あぁ、クロエが子守唄代わりによく歌ってくれたのを曲にしよう。


導入部を勝手に編曲して出始め部分を弾いてみた。


「その曲は……昔ワタシがユリアンに聞かせた歌ですか?」


「そうだよ。子守唄みたいによく聴かせてくれたよね」


目を向けると感極まった顔をしている。


「まさか覚えてくれていたなんて……」


もう泣きそう。


「ねえクロエ、あの歌詞ってエルフの言葉なの?」


「ええ、そうです。……まさか歌詞も覚えて……」


「一緒に歌おうよ」


めっちゃハニカミ顔。超可愛い!

そして小さく頷いた。


編曲した前奏からの歌入りタイミングで目配せ。

二人は綺麗にハモりながら歌い出す。

オレが高音パートでクロエは素のまま流し歌う。

後半へ行くに従って情感が込められ高まってゆく。

伴奏は出過ぎず、しかし歌を支えリードする。

最後は余韻を名残惜しむように引きを入れてエンド。


クロエの目に涙が浮かぶ。そして立ち上がり、オレを包み込むように抱きしめた。絶妙な力加減で。


なんだよ、出来るんじゃねーか。



ん? 周りが静かだな。

聞き入ってやがったか。オレのファンになってもサイン会とかやんねぇからな。ましてや握手会なんて。


「クロエ、楽器によくないから離れて」


素直に離してくれた。まだ目が潤んでいる。

楽器を返そうと楽士へ顔を向けると滂沱の泣き顔がそこにあった。

ってか、席に着く全員が、王子の従者が、姿を現したハンナが、給仕のメイド、執事までもがみんなマジ泣きしている。

そこまでか!?



10分ほどお待ち下さい。



やっと楽士へシタールもどきを返せた。

楽士はそれを脇に置き、土下座して弟子入りを頼んできた。


「無理です」


キッパリと一刀両断してやった。


いやぁ、久々の楽器は楽しかった。

コンクールだとか、商業だとか、詰まらん。どちらも断り商人になって撃たれて死んだ。


今更音楽で身を立てるなんて有り得ないさ。

たまにこうやってただ楽しむくらいが丁度いい。

とは言えリクエストがあればクロエやハンナのお強請りには応えるけどね。


王子が「嫁になって欲しい」と呟き、王女が「お嫁にして欲しい」と呟いている。

フィジカルアップに伴い五感も凄まじく感度アップしている。

オレのデビルイヤーに丸聞こえ。

他の参加者達も其々(それぞれ)に同じようなことを……お母様?


「フローラを嫁にして、わたくしとも不義の関係にどうにか持っていって……」


これ以上は聞かない知らない。


フローラ嬢は……


「女同士も尊いとは。そこにわたくしも加わるように……まずは学院でシンパを使って……」


謀略組立て中。


ってか、「女同士じゃないよ?」と言いたい。



「ハンナ」


呼ばれて飛び出て……


「はっ」


ほぼ忍者のソレ。


「金貨ある?」


「10枚あります」


「あの楽士の人達にあげて」


「お待ちなさい」


クロエ?


「ワタシにあれほどの歓びを与える切っ掛けを作ったのです。金貨10枚では足りません。金貨100枚です」


そう言って空間収納から金貨袋を出した。


学院長がめっちゃ取り繕った顔で


「クロエ様、それは?」


と聞いてきた。


「ユリアンが提案し、ワタシが構築した空間魔導術式です。空間収納と名付けました」


「原理を伺っても?」


「亜空間を作成し、身体の付近へ接続座標を固定、任意に開け締めできるように術式を組みます。あとは入れたモノのリスト化と取り出し時の整合をさらに細かく術式構築して重複設定出来れば先程のように指定のモノを簡単に選択し取り出すことが出来ます」


「それは我々にも可能でしょうか?」


「ワタシが知る中では中人族で可能性があるのはユリアンくらいかと」


「……収納できる量は如何ほどでしょう」


「拡げればいくらでも。今は、そうですね、この王国全土を球形にしたくらいでしょうか」


「……分かりました。ありがとうございました」


そうだよな、ショックだよな。めっちゃ便利! と喜んだら「お前らには無理」って速攻落とされるとか。



そしてクロエがオレ以外の中人族にもハッキリと分かる笑顔を向けて礼を述べ、金貨100枚のお捻りを渡していた。


そんで、この楽器を消耗品共々手に入れて持ってきたら金貨5,000枚遣わすとか言ってる。

そこにガンツが待ったをかけて

「ワシが造ります!」宣言。

いーよ。手に入れたら幾らでも弾いてやるさ。


無料でな。


だからそんなに散財しないで!

こちらの心臓が保たないから。


何故か有意義となった時間は過ぎお茶会はお開きとなった。


フローラ嬢の部屋でクロエとハンナに手伝ってもらい全裸になってから着替えを済ます。


ここで問題になったのがいつの間にか履き替えさせられていたショーツだ。

一先ずは履いてきたパンツに着替え、服も着てからショーツを見て腕を組み首を捻る。

みんなで。


持参したモノでもクロエ達のモノでもない。

であればフローラ嬢のモノとするのが正解か。

ならばこのままドレスと共にここに残していくのが正しいはずだ。


だが、ここでクロエから待ったが掛かった。半日弱とはいえオレの体臭が染み付いた、しかもショーツを残していってもよいものかと。

クロエ曰く、ユリアン好きにとってコレにまさるご褒美はないのだとか。

ハンナも激しく同意とばかりに複数回頷いている。


「この屋敷の母娘がユリアン推しなのは確定している。しかも二人共にユリアンを女として狙っていることも確定している」


あ、クロエにも聞こえてたのね、アレ。


そこにこのショーツは余りにも危険ではないかと。

最悪、母娘で血を見る事態もあり得るのではないかとの憶測は納得のいく話しでは……ないな。


オレがいかに突き抜けた実力派の男の娘だったとしてもだ、自身の使用済み下着にそんな付加価値を定義されてハイそうですかとはならんだろう。

そんなどうでもいいことを深刻な顔をして話し合う二人がなんだか馬鹿らしく見えてきた。


「もういいんじゃないかな。2人共。このショーツがボクら誰のものでもないのならばここに置いていくのが正しいよ。普通に考えればゲストが履いた下着なんて廃棄するだろうし、処理は家人にまかせればいいだけでしょ?」


多分正論(せいろん)だ。今はスリランカだ。


しばし考えてから、


「そうですね。これ程のモノが必要かは疑念が残りますが、あの母娘にも褒美は与えられるべきでしょう」


そうして学院長の元を辞去した。




翌週水の曜日、学院長がどこか疲れた顔をして昼食終わりのお茶中のオレ達の元へ来た。


「先だってはご来訪有難うございました。ところで少々伺いたきことが御座います」


「なんでしょう」


「あの日以来、妻と娘の様子がどうにもおかしいのです。あの日の夜、二人の言い争いがあったと家人から聞いていたのですが、光、火の曜日と妻が学院の寮へ赴き娘となにやら遣り取りをしているようでして。妻が学院へ足を運ぶなど常にないことです。何か心当たりは御座いませんか?」


クロエと顔を見合わせる。

オレは嫌だ。自身の体臭にまつわる話なんかを自ら説明などしたくない。

お願い、クロエもん!


「アウグストよ、あの日ユリアンの身を(よそお)った衣装や着衣は全て置いて行った。ドレスだけでなく、手袋、コルセット、ストッキング、そしてショーツもだ」


「ショーツ?」


「どういう経緯かは判然とせぬが、用意されていたらしいショーツにいつの間にかユリアンは履き替えていた。そしてそれは我々のものではないのでな、他同様置いていったわけだ」


「……ユリアン様に履き替え時の記憶は?」


「あの時は一心不乱に他のことを考えていましたので……すいません」


「言い難いことだが、お前の妻子は二人共がユリアンに夢中だ。それ自体はやむを得ん。ユリアンは尊いからな。だが、崇拝や好意は高じると歪むことがある。そうした発露が原因ではないのかな?」


なんだ、この女、ちゃんと分かっていたのか。

自身に落し込みができていないだけで。

惜しいなぁ。


「……なんと」


「先に申し述べておきますが、ユリアンに非はありませんよ。それは承知しておきなさい」


(しゅ)よ、勿論にございます」


主? 今この人クロエに主って言ったよね?


コイツもじゃねえか!

みんなして(こじ)らせてる。



その後、学院長が間に入り、ユリアン着用品全てを没収して事態は沈静化したらしい。



後日教えられたのだか、どうやってオレにショーツを履き替えさせたのかだが、奥さんが自分の侍女と組んでの犯行だった。

コルセット装着前にズボンを脱がせるタイミングで、侍女にドレスに合わせる装飾品選びを持ちかけさせクロエ達の視線を外させた。

その隙にパンツごとズボンを脱がし、用意した「自分のショーツ」を履かせたのだとか。


あの人のだったのか。


フローラのではない気はしてた。

流石に年頃の娘は自分のパンツを他人に履かせないだろう。


そしてコルセット前なら一番飛んでいたタイミングだ。



ジュラシ〇ク・パークの島ってこの辺の海だよね、とかの辺りだったと思う。

確かエクアドル領海内。



妙齢の、しかも割とタイプの御婦人にパンツ脱がされフルチン晒しても気付かないオレ。

むしろ自分が心配になる事案だ。



本来ならば不義を(とが)め離縁もあり得る今回の出来事。

学院長としては特にお咎めなしだそうだ。


「他ならぬユリアン様が相手では致し方なし」


だそうだ。

他ならぬの意味が分からん。

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