43.初めてのお披露目(武)
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
翌週光の曜日。
午後になり、フル装備で修練場へ向った。
クロエも珍しくフル装備。そして何故か同じくフル装備のハンナが同行している。
二人共凛々しい。
惚れそうだ。
常時そうしていれば。
修練場へ近づくとざわめきが凄い。
植込みを抜けて広場へ出るとそこには「観衆」がいた。
三人立ち止まり固まっているとルッツ師が駆け寄ってきた。
「いやぁ、すまんな。希望者を募ったら次々と増えて行ってこんなこととなった」
ざっと見積もって200人超えてる?
しかも高級将校みたいな人や官僚?
っぽい人に貴族……またいるよ。
陛下。
ヒマなのか?
「まぁ、いいじゃないか。やることは変わらんし」
ルッツ師の目が泳いでいる。
キャパ超えの自覚はあるらしい。
「クロエ、どうする?」
「構いませんよ。ユリアンのお披露目だと思えばまぁまぁの舞台です」
あぁ、そういう捉え方か。
ハンナを見ると、相変わらず凛々しいお顔で小さく頷いている。
「国王以下、皆に見せつけましょう。ユリアン様の武を。そしてその麾下にある我等が武を」
「あら、それは宜しいですわね。ユリアンに仕える我等の力、存分に見せつけてやりましょう。恐怖と共に」
なにさ、麾下にある我等って。
ハンナはまだしもクロエは妻だろうに。ハンナだって父の家人だし。
……恐怖?
陛下にご挨拶。
知り合いになった閣僚とかにもご挨拶。
きりが無いから適当に切り上げて、先ずはハンナが演武を行なった。
双刀のショートソードを流麗な舞の如く振り回し、試技用の丸太に無数の斬撃を舞いながら入れる。でも丸太は微動だにせずそのままに。
……辺りから失笑が聞こえる。
約5分程の演武の締めにスローイングダガーを腕の一振りで5本投げ打つと、丸太に縦列に刺さり……丸太が10にバラけて落ちた。
シンとした。
ハンナは陛下へ向けて一つ礼をすると、オレの元へと引き上げる。
そして何事もなかったかのように澄まし顔でオレの斜め後方に控えた。
カッケェー!
流石は我が家きっての戦闘侍女! イカス! 痺れる! 惚れなおす。
……抱いて。
やっと時間が動き出したかのようにざわつきだす。
「あれもシュワルツクロイツの家臣だというのか?」
「どんな鍛錬をすればあんなことができるというのか」
「美しい」
「是非我が家へ迎えたい」
「後であの子息へ交渉しにいくか」
なんて聞こえてくる。
やらんよ。ハンナはオレのだ。
オレ専用のボーリングマシンだ。
あ、クロエのも掘ってたな。専用じゃなかった。
特にプログラムがあるわけでなく、流れ的にはオレかなと思い、前へ進む。
「アレが噂の黒騎士か。見目麗しき乙女だったとは」
「凄まじき使い手と聞くが、あのような細身で何ができようか」
とか聞こえる。
ちっ、よおし、わかった。
見せてやんよ。オイラの冴えわたる技のキレをな。
目ぇかっぽじってよおく見やがれ!
かっぽじるのは耳である。あとは精々鼻の穴。
ガンツん時同様に丸太の前5m程の位置に立ち、踏み込みつつ槍を斜めに「振った」。
ズレ落ちる丸太へと更に踏み込み、突く突く突く突く突く。
落下する迄に5個の穴を穿つ。
後ろを向き、ハンナへ向かって槍を投擲する。
それを難なく掴み取るハンナ。
次の丸太へと歩を進め、3m程の間合いを取る。
腰溜めに構え柄に手を掛けた瞬間に常人には不可視の抜き打ちと納刀をする。
変哲もなく立ち尽くす丸太へ掌を向けて小さな風弾を撃つ。
斬撃は3回、根本を残し三つの輪切りが落下した。
不可視って早さで納刀までするなら今はこれが限界。
おお、オレ程度の試技でも静まり返ってくれている。
ありがとね。
レギオス師が近寄ってくる。
「ユリアン。お前、謀っていたな?」
え? 何を?
「俺でもニ太刀までしか分からなかった。踏み込み早さもだ。あれをやられたら俺は何も出来ずに敗北する。何故隠した」
「この防具に掛けられた術式は魔力滞留に比例して装着者が強化されるんですよ。速さと力がね。ボクの場合、クロエの申し付けで常時魔力錬成と滞留を纏っていますので、特に注力しなくともあれくらい動けるんですよ。まぁ、速すぎて慣れるのが大変でしたが」
考え込んでいる。
「分かった、すまん」
そう言い残し立ち去っていった。
うん、ほぼ嘘はいっていない。
言っていないことがいくつかあるだけだ。
陛下へ一礼し……なんか妖しげな目で見てる。
さっと視線を切りハンナのもとへ移動した。
さて、クロエだ。
全力は出さない。ソコソコに抑えての恐怖を演出するとか言っていたが……
それがどんなもんなのかオレは知らない。
だからオレすらも緊張しつつ固唾を……おや? あん時の女騎士がやってきた。
「お見事にございました。ユリアン様。あの時、貴方様の美しさのみに惹かれていた自分を今は恥じ入るばかりにございます」
はぁ、あん時ふっ飛ばされた人だよね?
そんで?
「改めまして、貴方様の突出した武に圧倒されました。正室がエルフ様なのは承知であります。わたくしを側室に迎えて頂くことは可能でしょうか? わたくしは男性相手にはまだ……」
クロエが僅かにこちらを見たが、そのまま丸太の10m手前まで進み立ち止まった。
瞬きの間で抜き放った。縦一閃!
同時に巻き起こる凄まじい土煙!
陛下に帯同する魔導士により土煙が晴らされる。
地面に刻まれたキズ跡は鍛錬場の端まで続いていた。
いつもの二次元的斬撃ではなく、三次元的破壊力を持ってソレは放たれたのだ。
推定、幅0.5m、深さ2m程の斬撃跡。
それが約200mにわたって鍛錬場の地面に刻み込まれている。
オレを含めたその場の全ての者達が等しく理解した。
圧倒的などという表現は比べるべく対象に供される表現だ。
「コレ」は違う。間違っても比較対象のグループに供されるようなナニカではない。
世界線、立場、生息域、どんな表現を用いても「違う」のだ。
家屋を破壊し人を吹き飛ばすような暴風雨に立ち向かおうとするだろうか。
巨大な地震、津波に立ち向かおうとするだろうか。
宇宙から落ちてくる巨大な光る岩に立ち向かおうとするだろうか。
否だ。
神の意志としての、その抗い得ない圧倒的破壊にただ頭を垂れて通り過ぎるのを祈るのみだ。
彼等にとってのクロエは正にそれであった。
抗い得ない圧倒的自然の暴威を振るう者。
人はそれを神という。
しかし、この世界には創造神という明確な絶対者が存在する。
故に神認定は出来ない。
ならば残るは対極の架空の存在。
だが、過去に自称魔王を単独で取巻きごと倒したその本人を魔王とは呼称出来ない。
この、一見どうでも良いような命題はこのあと王国上層部で激論の素地となった。
平和だねぇ。
それはそれとして。
オレですら腰が引ける殺気と威圧感を醸してこちらへ歩み寄るクロエは、迷いなく女騎士へ相対し、胸部と腹部の鎧の可動部隙間へ右手指4本を打ち込み軽々と持ち上げる。
女騎士の足元に液体が滴り落ちる。
ツンとした匂いが辺りに広がった。
斬撃跡へ向き直ると、躊躇なくスローイングからの人体投擲。
女騎士は弧を描くことなく直線的に飛んでゆき、約200m先の斬撃の終わりのV字終点に身体ごと撃ち込まれた。
そして、それでも生きていた彼女は不死身の騎士として名が知れる事となる。
そうして試技は終わった。
あまたの失禁者を残して。




