42.そうした試技となりました
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
正に一世一代の大勝負。
勝った、大勝利だ。
鏡開きとシャンパンファイトの準備をしなきゃ。キャッキャッ。
あの真正ど変態どもを纏めて良識の地平の彼方へ叩き込んでやったぜ。
きっと向こう側からホワイトになって出現してくるに違いない。
マジで今世紀最大のピンチだったぜ。
ん? 今何世紀? 某宗教不在の世界にその概念はないか。
そりゃそうだ。
まぁ、ええわ。
いやあ、頑張ったわ。逆転サヨナラ満塁ホーム号泣。
あ、家で泣いたからね。ホーム号泣。
泣かしたったわ。まさか泣くとはおもわんかったけれども、遂にいわしたったわ。
大勝利〜!
さぁてどうしよっかなぁ。
先ずは一人風呂でしょお。
それから、あ、一人寝もいいな。
それからぁ、ん~~とぉ、一人エッチ!
もぉねぇ、何年やってねぇんだよってレベル。
あれ? 11歳まではしてたから……まだ1年ちょいか。ノーオナニーは。
自慰するヒマも体力も残してくれないっていうね。
本番遣りまくりだろって?
違うんだよ。
それはそれ、これはこれ。なんだよ。
いそいそとおかず準備してさぁ、エロ動画もエロ本もないから妄想ふくらませてさぁ……いまさら膨らませるエロの分野ってなんかあるか?
風俗に例えればかなり高度な……赤ちゃんプレイも正逆アナルプレイも女装プレイも痴女プレイも……あれ? ほぼ制覇してない?
全オプション付きで。
じゃあおかずは……ヤツら関連しか思いつかん。しかも有用そうなのが悔しい。
……対象物、その用法もきっとヤツらと同じ。
あー、もういいや。
たださ、一人で黙々と素振りする時間とかあってもいいとおもうんだよね。
この先さ、娼館なんかでの練習試合の機会とかも無さそうだし。
ガチンコリーグ戦で削られる試合ばかりじゃ疲れちゃうんだよ。
そんな時、無心になれる素振りは初心にかえれるし、基本にたちかえれるっていうかぁ、うん、大事。
さぁ、真面目に武術、今日は剣術の実技鍛錬だ。レギオス師が見守る中、剣の素振り1000回を約20分で終了。
考え事しながら時間潰すのにとってもよい。
他の子達は遅い子だと1時間位掛かる。なかなか苦行だね。
オレは本気になれば10分も掛からないけど誰が数えるんだって話。
だって普通の人にはオレの素振り1回が見えない。
見えないスイング。
あれ? 素振りでチ◯コもげたりしない?
終わった人から順にレギオス師と模擬戦ができる。
さぁ、やっぞ。
木刀……ではなく、木剣を構え合図を受けて常人には見る事さえ出来ない高速の攻防を風斬り音だけ鳴らして繰り広げる。
オレはクロエに倣って剣で剣を受けない。全て躱す。
レギオス師は躱すし、受け流しもする。ハッキリと受けることはしない。
人それぞれだなあと思う。
もともとは父の流派を修練していて、上級までは進んでいたのだけれども、クロエに師事してからは全くの別流派になった。
とはいえクロエの剣技は自己流に戦った相手の技術や技を取り入れて練り上げたもので雑技だ。
強いて言えばクロエ流。
剣術以外も全部そんな感じ。
ハッキリ言ってクロエのフィジカルが無けりゃ成り立たないような技ばかりで伝授には向かない。よって習得には程遠い。
でもクロエからは中人族のランク分けに従うならば特級には既に至っていると言われた。もうすぐ極級だとも。
ゴッ! ボッ、ガガッ
剣術鍛錬なのに徒手を撃ってくる。
この油断ならなさが良い。
互いに繰り出した蹴りがぶつかる。
ガオンッ!!
人体がぶつかった音じゃないな。岩を砕き、大木をへし折る強さの蹴りだ。
クロエの過保護結界があるんで全然痛くはない。
師は痛そう。
「ユリアンよ。魔導はなしだと……」
「これはクロエの加護ですよ。ボクにはなんとも」
と言って苦笑した。
レギオス師も苦笑だ。
次の学生が素振りを終えてきた。
交代だ。
「ありがとうございました」
挨拶して下がった。
一人型稽古をしていると槍の上級師範であるルッツ師が寄ってきた。
「やぁ、ユリアン。相変わらずキレてるね」
キレてないよ?
ではなく、
「さっき模擬戦したばかりですから」
身体が動くのだよ。ウォームがアップしている。
「明日の槍術はやはり来られない?」
ははは、やっぱそれか。
「クロエ師が許してくれませんから」
苦笑いである。
ルッツ師は落胆顔。
「来週ルッツ師は光でしたよね」
「あぁ、そうだな」
「その日は出ますから」
ん? なんか考えているな。
「君はガンツ師作の装備一式を持っていたよな? その中には槍もあると聞いたのだが」
「ええ、有りますよ」
「それを見せてもらうわけにはいかないか?」
黒騎士装備を?
あんまり人前に公開するのは……あ、既に王都では有名な話しだったっけ。
あの時あそこに居た客らが惜しげもなく吹聴してて、学院の職員からも問われたくらいだ。
「貴方が黒騎士なのですか?」
ってさ、キラッキラした目で質問してきて、
「ボクはユリアンです。黒騎士は装備名ですよ」
と、平静を装い話した。所有の否定はしない。無意味だからね。
「……うーん、まぁ、構いませんよ」
「では来週光の曜日、黒騎士装備で来てくれ」
「え? 防具もですか?」
「そのほうが凄さが伝わるじゃないか。他の学生たちにも見せてやって欲しい。国宝級の装備というものを」
えー、かったるい。まだ一人じゃ装着出来ないからクロエに手伝ってもらわなきゃだし、そうするとついてきそうだし。
光の曜日はクロエの授業がない。
だから武術の実技授業に来る気満々だったのだが、初めの頃にやらかしてオレが出禁にした。
師範達の自尊心ズタボロ事件。
居合のように不可視の手技で武装した師範達を纏めて倒し、さらに学生達の前で師範を指導するというね。
自尊心にパラメーターがあったらゼロどころかマイナスまで凹んで見えただろう。
酷すぎる。
レギオス師とゴドルフ師はまだマシ認定されてたけれども、
「ユリアンの師としては力不足です」とか言って凄む始末。
「暴力でひとを抑えつけて貶すとか、最低だ!」
クロエの手を取って目を見て言い放った。
ヤツはボディータッチしながらの説教には割と反応しがち。
商社勤めだった頃、よく取引先の人に連れて行かれた銀座のお高いお店のお姉さんから聞いたんだ。「だいたいみんな言う事聞いてくれるよ?」ってさ。
本職の人心掌握術の怖さよ。
しゅんとしたクロエは、
「出過ぎてしまいました。申し訳ありませんでした」
素直、可愛い。
「相手はボクじゃないでしょ」
すると師範達へ向き直り頭を下げて謝罪した。
その時に
「見てると手や口を出したくなるでしょ? だからクロエはここへは来ないほうがいいよ」
と言い含めた。
以後、来ていない。
あの時の師範達の尊敬の眼差しが忘れられない。
破国の闇女帝を説教する12歳児。
うむ、これからも困ったことがあれば言ってきたまえ。
但し、クロエ関連のみとなります。
「防具はクロエの協力がないと装着できません。そうなると多分来ますよ、クロエが」
一瞬にして曇る顔。
下を向き何か考えている。
数瞬して、
「構わないよ。いっそのことクロエ様にも帯剣してご参加願おう。どうだろうか?」
嫌はない。
「あ、あと頼みがある」
「何でしょう」
「私は近衛騎士団の部隊長でもあるのだが、同輩を何人か呼んでもよいだろうか、クロエ様に確認して欲しい」
ん? 何故に?
「呼んでどうされるのですか?」
「君と黒騎士装備、クロエ様の試技などを披露して貰いたいんだ。それを武人として見学したい」
あぁ、そういうことね。
まぁ、いいんじゃね。
「わかりました。聞いておきますよ。返事は学生課に伝えておきますね」
「あぁ、宜しくたのむ」
安請け合いは事故のもと。
後日、歴史学授業を思え! という事態に。




