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41.号泣

〈クロエ・ルセル〉


出生時を除けば、初めてであろう。

泣いた。

大声を出して。

止めどなく大量の涙が溢れ出る。


腕の中に在る人が、こんなにも愛おしい大切な大切な愛し子が、ワタシを死を持って否定しようとする。

こんな苦しい、辛い、悲しい、切ないことがあるものか。


ワタシは彼を理解したつもりでいた。

彼のことなら全て知っている。

ワタシが彼を一番に愛して……


何も解っていなかった。



嫌われたのだろうか?

もう触れさせてくれないのだろうか?

もう笑いかけてくれないのだろうか?

もう…………一緒にいてはいけないのだろうか。


死んだほうがましだ。


ユリアンに嫌われ避けられる人生なんていらない。


でも、それと同じだけの苦痛をワタシはユリアンに与えていたのだ。死を選ばせるほどに。


それなのに賢しら(さかしら)な言葉を(ろう)して彼の本心を真摯に慮ろう(おもんばかろう)ともしない。


さっきのワタシは明確にユリアンの敵、迫害者だったのです。


こんなの。

こんな……


あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………………



狂う……狂ってしまう……巻き込んではダメだ……


ワタシこそが死なねばならない!


その場を離脱しようとした時。


キスをされた。


ユリアンだ。


ユリアンが、自分を苦しめた敵であるはずのワタシなんかに施しを?


顔を離してからユリアンがクスッと笑った。


「酷い顔だよ? エルフなのに」


もう一度泣いた。



ユリアンと話し合った。

今度こそちゃんと聞こうユリアンの声をユリアンの気持ちを。




〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉


雨降って地固まる。

あのクロエがまさかあんなマジ泣きするとは思わなかった。


間違って死ぬのならそれも仕方なしと覚悟を決めて、本気で首刈りに行った。

止まったけどションベンちびりそうだったよ。


そのあとのクロエのビンタでちょっと漏れたのは秘密だ。

あ、パンツは回収されるから即ばれか。

喰らえ、新商品!

シッコのフレーバーだ。新たな地平を開くがよい。


あ、旧作のおしめがあった。



まぁね、細かい取決めしてもいずれなぁなぁにされるのはわかりきってる。

だからさ、オレが本当に嫌がることは速やかに止めてくれと頼んだ。


たまになら女装は付きあう。

オムツは屋敷でだけ。

ンコは禁止。

疑似ペ◯スは……ケースバイケースということで。

新規の扉に手を掛けたくなったら、その前に申し出てほしいこと。


などなどだ。


まだ目を腫らしたクロエと青褪めたままのハンナは小さな声で「はい」と返事した。


ま、こんなもんだろ。

なんとかまとまった。




〈ハンナ・フェルナー〉


クロエ様の術式ならば万が一も有り得ないと安心しておりました。


それなのに、躊躇なく自死を選び、本気で振り切って首に剣を当てた動作には一切の迷いがありませんでした。


ユリアン様はあの時確かに死を覚悟されたのです。

そしてそこまで追い詰めたのはワタクシ達です。


まだ12歳の幼子に死を覚悟させた…………クロエ様だけではありません。ワタクシも同じ罪人なのです。


ワタクシこそが死するべきなのです。

赤ん坊の頃より片時も離れたくないと侍り(はべり)慈しんできた愛し子。


あの頃からワタクシの生きる目的となり、この子の為に命を使おうと定めた真の主。


そんな方を己の醜い性欲の捌け口にしていたなんて。



詫びねば。


もはや生きて仕えるなどと厚顔な甘えは許されない。


ユリアン様は新たな取決めをなされています。しかし、それを守りながらこの先も側仕えするなどできようはずもございません。


ひっそりと職を辞して、人知れず自らを滅しよう。

我が亡骸で迷惑が掛からないように。


離れた、知らない土地で、なるべく寂しく、孤独に、悔やみながら、自分を責め潰して、苦しみながら死のう。


そんなことがお詫びになるのかは分かりません。

しかし、それでも気が収まらないほどにワタクシはワタクシが赦せないのです。



死が解放だと言うのならば、娼館にでも身を落とし、気に染まぬ見知らぬ男共に抱かれ、悍ましさに身を、心を穢しながら罰を受け続けましょう。何時までも悔いながら詫びながら、何時までも……


考えうる最悪の罰を受けなければ……ワタクシはもう顔向けが出来ないのです。


我が最愛の愛し子に。



涙を流すことすら出来ずにただ震えているワタクシの頬に小さな温かい手が触れます。


「ハンナ。君はボクの最初の友達で、一番近くに居た母で、多分初恋の人でもあった。君がボクの為に婚期も投げ打ってまで仕えてくれたことを知った時は感謝と申し訳なさで心が張り裂けそうになったよ。でも今はね、ただただ愛おしいボクの女だ。これからも側に居てくれるよね?」


いけません!

ワタクシなど…………

側に居てよい資格がありません……


涙が、どうしたことでしょう。

幼少期以後涙など流したことはごさいませんのに……涙が……止まりません。


「ワタ……ワタクシはぁ……ユリアン様のお側に……いても、いてもよいのでしょうか?」


鼻水が、よだれが、涙が、止めどなく溢れて止まりません。


クロエ様がワタクシにしがみつき号泣なさっておられます。



身を堕とさずとも良いのですか?

荒野で一人死さずとも良いのですか?


ユリアン様のお側にずっと侍りつづけても良いのですか?


本当はどこにも行きたくなんかない。ここに、ユリアン様と一緒に、何時までも一緒に居たい!



うぁぁぁぁぁぁっっっ………


幼子のように大声をあげて泣きました。


クロエ様と抱き合って泣きました。





ワタクシは今日ユリアン様から天恵(てんけい)を授かったのです。


ワタクシがユリアン様のモノなのは当たり前です。

なればこそ誇らしい。

なぜならば、ユリアン様は救世の御子。神の化身。



ワタクシの神、ユリアン様。

生涯を懸けて全身全霊でお仕え致します。

貴方様の使徒として魂となっても尚、お仕えいたしましょう。


クロエ様と共に。




狂信者誕生。


後日知ることになる。

その真の恐怖を。

主にオレの周りの人達が。

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