40.真昼の対決
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
あんなことしたんだから三人ともすっごいことになっている。
ベッドもな。
但し、ベッドには防汚シート?
が掛けられており剥がせは処理完了らしい。
何から何まで準備済。
因みに、折角の純白のドレスは純白ではなくっていた。
とにかく湯浴みだ。
そしてもはや昼食? を食べる。
毎週そうなのだが闇の曜日はオレ達の動線上に召使いや従者の類は居ない。殆どの人は休日にしているらしい。
大体この日に働いているというと料理人が一人いる程度だ。
人払いができているとして新たなワンピースを着せられている。
ワタシ達以外には見られないからと。
勿論新作だ。
ロングヘアーのカツラまで被せられている。事前準備の幅の広さと質の高さよ。
悪化の一途だ。
食後のお茶を頂いているとハンナもやって来た。
晴れ晴れした顔してやがる。
「おれ、昨日童貞捨ててきたんだ。マジいい女だった。またやれっかなぁ」みたいな顔だ。
オレには分かる。
「二人とも、話があるんだ。ハンナもそこに座って」
通常、ハンナはオレに侍る際、必ず起立している。
なにするでもなく部屋にいる時もだ。
だから改まった指示をする。
躊躇することなくクロエの横に座る。
お茶を少量啜ってからひと息吐く。
「ボクはね、普通がいいんだ」
二人してやや左へ頭を傾げる。シンクロしてるし。
キョトンとした表情と相まってなんだか可愛い……今は置いとけ。
「なにを持って普通かは人それぞれだとは思うけれどさ、少なくとも……もうじき成人する人にオムツ着けて無理矢理排泄させてさ、その処理をされたり、女の子の格好させてお、お尻の穴にあんなモノ入れたりとかは普通じゃないよね?」
二人を見る。
クロエはまだキョトンとしてる。
「え? なにが? なんかおかしかった?」とでも言いたげな様子。
ハンナは……
ダメだ。「ハァハァ……」してる。
昨夜、というか今朝を思い返しているようだ。
「ボク……たちの行為は絶対に、断じて普通じゃない」
一呼吸。
「三人でするのは甘んじて受け容れるから、もうさ、道具や見た目とかにかまけた行為は止めて欲しい。そうじゃないとボクの身体……うぅん、心がダメになっちゃうよ」
今朝から懸命に考えた説得文句。
こいつ等に僅かでも良心や良識が残っているならば何らかの良レスポンスがあるはず。
まだ12歳の見た目手折れそうな美少女に、涙目かつ上目遣いで弱々しい懇願をされて心動かぬは人にあらず。
おっと、美少年だった。
「美」はゆずれねぇな。
会心の一撃!
結果は?
恐る恐る仰ぎ見る。
あっれぇ? さっきと同じ表情。
二人とも。いや、ハンナはさらに劣情感丸出しのお顔になっちゃってるよ?
効かぬのか。これ程の破壊力ならば国崩しも出来ようハズの攻撃を……一顧だにせず躱すのか?
「人でなし」と言う言葉が脳裏に浮かんだ。
「ユリアン。ワタシは1,000年生きてきました」
なんだ? 自慢か?
「その間に多くの人と出会い、そしてそれ以上の多くの人との別れがありました」
別れのほとんどはアンタに殺されたのでは?
いや、待て。出会いより多くの人と別れた? 算数的におかしくないか。
あ、一瞥もくれずに殺った人も含めた感じ?
確かに出会ってはいないのか。そしてこの世からの別れ。
「満足して死んでいった者もいれば、沢山の心残りを抱えて苦恨のうちに死んでいった者も数多くいました」
だから、アンタに殺されたからだろ?
沢山。
「ワタシはそんな人生の中でこれだけは譲れないと心に決めた誓いがあります。それは……やりたいと思ったことはやり抜くと。けっして後悔しないために」
一人称な決断。オレの後悔とかは入る余地なし?
お? 一人称な決断、いいねぇ、自作慣用句辞典に追加しておこう。
「それだとボクの主観は無視するって言ってるよね。ボクがどう思おうとクロエのしたいようにすると」
お? クロエに戸惑いの表情が!
「ユリアン。貴方にこそ分かって頂きたいのです。ユリアンを溺愛し、ユリアンと生涯を共に歩むと決めたワタシがユリアンの為にならないことをするわけがありません。貴方が先程言った全てがユリアンには必要なことなのです」
え? 待って、何言ってるのか分からない。
「本当はユリアンにもわかっているはずです。だってあんなにも何度も上り詰めて、可愛らしくも淫猥な声を何度もあげていたではないですか。ワタシもハンナも素直になりきれないユリアンの為に小さな障害を取り除くことに腐心したのみです。最後に一歩踏み出し、扉を開けたのはユリアン自身ですよ」
オレ、さっきハッキリと嫌だって否定したよね?
なに? その、オレの妄想を実現してやった的な発言は?
バイアス……合意性バイアスってやつか?
自分に自信があるやつほどハマりやすい。
「私はこう思う。だから貴方もそう思っているはずだ」っていう根本的誤り。
ヒューマンエラーってやつだ。
ダークエルフもなるのか。
勉強になるなぁ。
「昨日は錯乱してたんだよ! 今朝だって。ホントはいやだったんだ。さっきも言ったよね。止めて欲しいって」
クロエが何だか憐れなモノでも見るような目でこちらを見ている。
「ユリアン。錯乱しているというのならば今がそうなのでしょう。大丈夫ですよ。ワタシ達は貴方の味方で貴方の庇護者なのですから。さぁ、落ち着いて」
あぁぁぁぁぁ……ダメだ。言葉が通じない。
思い込みと決めつけで勝手に型に嵌めている。
型通りじゃなけりゃ心配されてしまうレベル。
精神疾患でなけりゃ、もうこう言う性格ということなのか。
今こいつに思うのは落胆っていうより諦観か。
「だめだこりゃ」だ。
いや、待て。まだだ、まだやれる。ラストチャレンジ!
「勝手にボクのこと決めつけないでよ! こんな扱いされてこの先生きて行けないよ。それなら死を選ぶよ」
お願い。世間的に正しい反応を!
ヨロ。
「死ねませんよ」
ん? 死にませんでなく、死なせませんでもなく「死ねません」?
どゆこと?
「なに言ってるの?」
「ユリアンには必要にして充分な魔力が常に滞留しています。これを利用しワタシの術式で防御結界が常時展開されております。これは一定以上の物理衝撃をほぼ無効化します。魔力による攻撃も同様です。仮にユリアンが自傷しようとしてもその自動結界が防ぎますし、毒物などの身体影響を緩和もしくは無効化するための身体強化と一部改造も概ね完了していますから薬物全般もまず効きません。活火山のマグマへ身投げでもすれば可能性はありますが、ワタシが止めますので。文字通りの意味でユリアンは死ねません」
さっき言ってたっけ。溺愛してるって。そんで突き抜けて行き過ぎな過保護。
逃げられない。死ねない。独立独歩なんて夢の中。
オレの今生での主体性が完全剥奪された。
いや、今明かされた。
無言で立ち上がると、ダイニングの壁に掛けてある緊急時用バスタードソードを手に取り。強化を掛けて自分の首を刈るべく振った。
瞬間ハンナが叫ぶ。
「ダメェ!」
刃は不可視の薄い膜に阻まれて首筋に届かなかった。音もしない。
クロエが近付いてきて剣を取り上げオレの頬を平手で打った。
首から上が吹っ飛んだかと思う程の衝撃。
そして抱きしめて…………声をあげて泣いた。
その後、話しをした。




