35.その野心の行方
〈クロエ・ルセル〉
とある土の夜。寝落ちしたユリアンの脇でハンナがぽそりと呟いた。
「もしワタクシにペ◯スがあればユリアン様のア◯ルにもっとご奉仕できるのに」
それは……不可能ではないですね。
「希少材料がいくらかは必要ですがそれに限りなく近いことは可能です」
ハンナのライトブラウンの瞳に暗い炎が灯ります。
「それはワタクシの実力でも得られる素材でしょうか?」
「可能だとは思いますが、時間が掛かりますね、そう、2年くらいは見たほうが良いでしょう」
「2年ですか……そんなに長くユリアン様から離れられません。残念です」
「いえ……場合によっては金で解決するかも知れませんよ。勿論そういった用途ならば金はワタシが出します」
やや怪訝な顔をするハンナに説明をしました。
とある伝を使い、王都内でどこの誰が何を持っているか。の情報を持っている組織と接触した。
なんとかギルドの職員をしている勤め人だそうだ。
紹介者はガンツだ。
ガンツの工房では様々な資材、素材が必要になる。その都度自前で狩るか、ハンターギルドへ依頼する。
しかし、レアモノともなれば入手に時間が掛かる。
そしたらある日、アチラから声を掛けてきたという。
「オタクが探しているリヴァイアサンのウロコを所有している人、知ってますぜ?」
という具合いに。
所有者を教えるだけで紹介は出来ない。
今現在も所有していると保証も出来ない。
確信度を上げる調査はある程度可能だが金額はかなりかかる。
などなど説明され、思案するまでもなく依頼してみたところ、当たりだったそうだ。
320年程前のことらしい。
以来、今も付き合いが続いているというからかなりの老舗である。
ガンツを通しての依頼でも良かったのだが、細々したことや、他の情報も可能ならば買いたいので自分で出向くことにした。
交渉の場には何故かガンツも同席している。
先ずは目的物を製作するための8種類の素材の情報を依頼。
三日も待って貰えれば情報が揃うだろうとのことだった。
後日所有者リストを貰い、ハンナが主となって買取交渉を開始した。
彼女、平日は時間がありますからね。
ハンナはワタシの指導もあり、今やユリアンの父と遜色ない強さです。
言い換えればユリアン並み。
トラブルとなっても自力で切り抜けるでしょうけれども念の為、ワタシの眷属の証を持たせました。
いろいろと便利な品です。
これまでに渡したのは五人。ガンツもその内の一人です。
ハンナが六人目ですね。資格者として申し分ありません。
ユリアンにはあげません。
むしろワタシがユリアンの眷属になるのですから。
リストの中に見知った中人族が二人いました。あともう一人、この姓は……
これらとの交渉はワタシが引き受けました。
先ずは学院長です。
「それではクロエ様は水棲植物であるカマランの乾燥体がご所望であると?」
「そうです。ある筋から学院長、貴方が所有しているとの情報を得ました。まだ手元にあるならば譲って頂けませんか」
「わかりました。お譲りします」
一切躊躇なく即決して貰えた。
このところ彼への評価は上がる一方だ。
また加点1。
「もしよろしければどういったことに使うのかお聞きしても?」
少し考える。
ワタシとて貴種とされるエルフだ。ここで「疑似ペ◯スを製作する」とは言い難い。
結局はユリアンの為の行動なのだ。
ユリアンに悦んでもらうためにハンナが提案し、ワタシが作る。
ならば、
「ユリアンの為の新しい装備を製作しようかと」
「ほう、ユリアン殿用の。噂に聞く処では武装はガンツ師手製の最上級品一式を所有しておられるとか。更に追加装備を?」
「正確にはユリアンが装備するのではなく、ワタシや戦闘侍女のハンナが装備してユリアンのサポートを行います」
「ほう、クロエ様が今以上の装備など必要としますか」
「ええ、新たな試みの為には必須となる装備です」
「なるほど。全ての中心にユリアン殿を置かれるクロエ様らしきお考えでございますな。他にご必要な素材などはごさいませんか? 可能であればご協力させて頂きますが」
なるほど。この男は分かっているな。ユリアンの重要性が。学生と侮らず、殿と敬称を着けて呼ぶのも好ましい。
加点5をやろう。
残りの素材と所有者を明かしたところ全面協力を約してくれた。
しかもあと二つの素材も所有しているからと、併せて提供して貰えることになった。
ハンナの仕事はあと三箇所となった。
因みにあとの見知った一人とは国王で、聞き覚えのあった姓は財務卿のミュラー公爵。
王家の所有確認は宝物庫の目録を確認すれば直ぐに判るのだか、担当責任者が財務卿であり、彼はあの高慢小娘の父親であるとの事。
因果は巡る。長く生きているとよくあることです。
一先ずそちらの件は学院長へ任せることとした。
なにかあれば声をかけよと指示して。
この処ワタシに対する学院長の応対が臣下のそれのような気がするのだが? 文句はない。ワタシとしても便利使いしているので助かっている。
20年くらい様子を見てから七人目にするのもありか。
あ、20年後だと学院長の歳なら生きていないか。
三日後、学院長から相談があると持ちかけられた。
この男の偉い処は使いを寄越して呼びつけることをしない点だ。
必ず本人が来て、応接間か執務室へ誘い、ワタシを上座へ座らせる。
全く下に置かない対応である。
因みに、そのどちらの部屋にもワタシと思しきダークエルフの巨大な絵画が掲げられている。
上座側に。
ワタシが座るとワタシのバックにワタシがいるわけだ。
少々居心地が宜しくない。
着座し、雑談もなく学院長が話を切り出してきた。
「結論から申しますと、どちらもございました。宝物庫保管品の方は既に陛下より許可を頂いております。問題はミュラー卿のほうでして」
高慢小娘の父か。復讐でも画策するか?
受けて立とう。
「お譲りすることに嫌はないとのことですが、是非とも娘に会って欲しいと強く望まれまして」
やはり復讐……いや、あの場で小娘を罰しようとしたのは学院長であってワタシではない。
「それは構わんが。なんの用なのか?」
「主たる目的は謝罪だということです」
「…………良かろう。そうだな、次の闇の曜日でどうか?」
「そのように伝えます」
その間も含めハンナとは書簡のやり取りをし、情報の共有を密にしていた。平日は離れ離れだからな。
配達員は双方に1名ずつ、2名が常時待機。
充分な報酬を用意したので非常に真面目に仕事をこなしている。
ハンナの担当先三か所は既に全て落としたとの事。
あとは高慢小娘との会合を済ませれば全部揃うことになる。
ここでハンナから一つ提案があった。
書簡にはこうある。
「ユリアン様にはワタクシの舌は受け容れていただけていますが、擬似とはいえペ◯スをその身に受け容れていただけるでしょうか。ご存知の通りユリアン様は可愛いらしいお姿ではありますが男色家ではごさいません」
その通りだ。ユリアンは女好き、いえ、ワタシ好きです。
もしユリアンが今後そちらへ開眼したならば人類はその半数を失うことでしょう。
ワタシによって。
続きを。
「ですので、先ずは心理的な拒否感を取払うべきではないかと愚考しました。女ならば愛した男性のペ◯スを受け容れられることはワタクシやクロエ様が身を以て証明しております。ならばユリアン様にも一度女になって頂ければ、愛するクロエ様やワタクシのペニ◯を受け容れて頂けるのではとの考えに至りました」
天賦の才とはこういうことか。
ワタシは自身の自惚れを恥じました。
ユリアンを女にですって!?
あ、いけない。鼻血が……
ハンナ、貴女ほど野心に満ちた策略家をワタシは他に知りません。
これは……戦略の組み直し待ったなしですね。
ん、まだ続きが。
「ワタクシごときの稚拙な提案ではごさいますが、ご一考いただければ光栄に存じます」
決行です。




