33.これがワタシ?
〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉
5月も下旬になり、学院にもだいぶ慣れてきたように思う。
しかし、慣れないこと、慣れてはいけないこともある。
様々に増えてきたクロエとの日課、死守出来ない安息日、寮室にまでも侵食し始めたオムツ。
近頃思うんだ。オレってクロエの性奴隷とかなんじゃないかって。
身体の何処かに謎の紋様が刻まれていて主の意志に従って勃起させられ、もう無理だという回数を強要されても身体が応えてしまう。
自覚がないだけで既に心身が支配されていて、自身の認知の埒外の処で何かしらの開発がされていて……
そうでなきゃ、そうでも考えなければこの状況は承服出来ない。
断じて!
目の前の姿見、まぁ、大きな鏡には正しく天使といって差し支えない、正統派美少女が映しだされていた。
輝きを放つ艷やかな、ややウェーブが掛かった金髪は肩に掛かる程度のショート。今は横髪をピンで留められていて、スッキリとしたシルエットを披露している。
同色の涼やかな眉と少しカールした長いまつ毛。瞳は深いスカイブルー。
田舎で見た、あの頃の夏空って感じ。
鼻筋は通っているが強くは主張しない。鼻腔開口部は鼻糞ほじれるのか心配になるほど小さくて可愛らしい。
そして赤というよりはピンク寄りな発色の唇は一見薄い印象を受けるが、下唇はよくみるとプルンとしてて、やっぱり可愛らしい。
全体を包括する相貌は美形な父母の良いとこ取りがうまく行きましたと言わんばかりに整った端整なお顔立ち。
12歳の同年代の女の子に比べやや高めの身長ながら、まるで何かに栄養的なモノを捧げ過ぎて成長が遅れているかのように四肢が細く体躯も細め。指も細くて長い。
一見して儚げで庇護欲をそそられる体躯だ。
従ってバストは貧弱の誹りを免れない。
だが、これはこれでどこかに需要はあるものだ。
だがしかし、僅かばかりの欠所などはこの、神が造り給うた至高の造形物の美しさを些かも損ないはしない。
その証として、この場にいる全ての学生とその従者、教師、教頭、学院長、何故か陛下と近衛騎士までもが見惚れているのだから。
創造の美に於いては、かのクロエ・ルセルにも匹敵するかも知れない、もう一方の美の頂き。
10年後あたりが楽しみだ。
以上、女装させられたオレのセルフ評。
今週から学院に復帰した高慢少女エイダちゃん。
クロエとオレにキチンと謝罪をして、さらにお詫びの品を贈りたいとか言い出した。
断わったのだが、手広く商売をしている彼女の実家では特に衣服関連が強みだそうで、是非、「美しいクロエ様に捧げたい」と押し押しで押してきた。
最後は押し切られた。
怒涛のがぶり寄りだ。
そんで、彼女の「侍女に採寸された」のがその日、光の曜日。何故かオレの採寸もされた。
侍女がどこか楽しそうなのが印象に残った。
そして土の曜日の今日。昼前頃に「衣服が届けられた」とか。何故学院へ?
午後はクロエ師の歴史学講義がある。
何故か今日は「段取りがある」とかで昼食を一緒しなかった。
恒例化しつつある講義の延長は無しで大講堂を後にするが、どうしても今知りたいという質問を携えた「陛下が近衛騎士共々」追ってくる。
学生課に用事があり立ち寄ると、「何故かハンナ」がいた。
荷物関係? の用事があってきたのだと。
学生課の偉い人に確認したら入れても良いとのことなので、「即座に許可票をもらい」一緒に寮室へ行こうとしたら、「エイダちゃんと侍女さん」と出くわす。
衣服が届いたので、是非試着してもらえないかと申し出てきた。
まぁ、折角のご厚意だし、クロエが普段着ないようなセンスの服着るとか割と興味があって承諾した。
準備がよいことに本来の歴史学授業をする「教室を借りる申請がしてあって」、そちらへ移動。
後から思い返せばここまでの予定調和がえげつない。
何故か陛下も同行することになり、そうなると近衛騎士も付いてくる。
あとはあの件で株が暴騰したらしい学院長と取り巻き達が付き従い、まるで白◯巨塔ばりの行列を作りながら学内を行進する。
集団のαを務めるのは当然クロエ教授……と手を繋ぐオレ。
教室へ入ると衣装掛けの用具なども用意され、さながら即席の販売所だ。
だがなんだろう、違和感がある。なんだ?
あ、女物しかないからか。
オレの採寸もしてたのに。なぁーんだ。オレのは無しか。エイダちゃん。
オレがっかり。
直後に侍女が信じられない事を言い出した。
「もう間もなく他の学生の方々もまいられます。その前にクロエ・ルセル様、シュワルツクロイツ様にはお着替え頂きたいと存じます」
何いってんのオマエ。
「え? 女物の服しかないよね? あ、まだ別室に用意してあるとかかな?」
「こちらにあるもののみとなります」
だから何いってんのオマエ?
「いやぁ、線が細いとは良く言われるけどボク男だからさ。冗談でもこういう服を人前で着るとかすると貴族の沽券に関わると思うし、ちょっと無理かな」
ん? 陛下がオレの方を見ている? オレではなくオレの付近……クロエか?
「ユリアン・フォン・シュワルツクロイツよ、良いではないか。これらを装い夜会に出よというわけでもなし。学生生活の中での息抜き、余興と考えよ。うむ。朕も観てみたくなったぞ。クロエ殿と共に着替えて参れ」
陛下、テメェ。
グルだろ? こいつ等と噛み合ってるだろ。
いくら王国貴族とはいえ何言われてもイエスマンじゃねぇんだよ。
「陛下、恐れながら申し上げます。臣は武を持って王国にお仕えする身にて、このような真逆なる戯れに身を委ねるなど我が矜持が赦しません」
ここで斜め後方の大魔神から発言が。
「ユリアン。貴方はワタシから見れば未熟ですが、今この教室内の中人族の内において最強です」
騎士達が身動ぐ。
「あと数年もすればまぁまぁ強い貴方のお祖父様にも匹敵しましょう」
騎士達の目と口が全開。
「現状、この国で上位10人以内には入るであろう武人のユリアンがなにを恥じることなどありましょう」
纏めに入りつつあるか?
「そして武に於いてこの世界の頂きにあると自負するワタシを、いつも敗者とし続けているのは他ならぬユリアン、貴方なのです」
オレがいつアンタに勝ったよ!
あ、ベッドの上か?
タイマンならまだ負けねえよ?
毎度辛勝だがな。
二人がかりだとボッコボコにされてる。
今夜も……
「恐らくは、ここにある衣装を着て身支度を整えたユリアンを見た時、ワタシは地に臥すほどの敗北を喫することでしょう」
絶対にやらないもんね、そんな口車にのるものか……
「しかしワタシとて創造神が造り給うた美を象徴する種の末裔です。その分野には一廉の自負があります。さぁ、ユリアン。勝負です!」
珍しく人前で興奮気味!
なんだよ、一廉の自負って。
自作慣用句か? ライバル出現。
すると左右をクロエとハンナに固められ、某宇宙人のように隣にある教師準備室へと連行された。
問答無用。




