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28.過干渉な生き証人

〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉


クロエが教師に正式採用されるのは今日から。

事態の深刻さを理解しているのは多分オレだけ。

大魔神のヤバさもだ。


とは言え初日の今日は説明や案内などがメインで授業もない。歴史学の担当なら明日がホントの教師初日か。


生き字引のクロエは中人族では閲覧不可能な希少書物を彼方此方で読込み、実際に出来事を見てきたことも数多(あまた)ある。

歴史を教える人として最上級の人選なのは疑いが無い。

これまで敢えて聞いてこなかったあれやこれやを直に学べる機会、オレにとっても貴重だ。


ところで、火の曜日はクロエの授業と武術の実技の時間が被る。


月単位で学生課へ提出する選択授業のスケジュール表には先月までと同様、武術を優先した。

今月からのクロエの授業は楽しみではあるけれども、剣術が得意なレギオス師の技が独特で面白いんだ。

彼もオレに目を掛けてくれているっぽいので尚更優先したい。

この日はいつも憮然としているレギオス師から褒められてなんかいい気分で寮室へ帰ると、クロエが待ち構えていた。

そして先週学生課へ提出したスケジュール表を見たといい、火の曜日のスケジュールに「誤り」があったので書換えておいたと。

当然歴史学選択だよね? と。


なにも言い返す気概が湧かず、ただ頷くしかできなかった。


剣でも振ってストレスを発散しよう。

オレなんかにはそれくらいしか出来ないのだから。


グスン。



二日目は朝から教室に来ているクロエ。

そしてオレの隣に座っているクロエ。


そりゃあ学院にくる前、再会からの1年間も丸一日ずっと一緒にいたし、それに嫌はないんだけどさ、学院ではプライベートな時間とか取れると期待してたんだ。

それなのに……二次性徴期をスポイルする母親か!


前世でエロ本はベッドの下に隠さない派のオレは母親からの過剰な干渉を受けていない。

今生でも母は忙し過ぎてオレに構う時間があまり取れていなかった。

悔やんではいたけれど。


一番オレをかまっていたのは乳母のヒルダを除けばハンナだな。でも彼女は母親っぽくはない。

強いて言うならばお姉さん。


そしてここへきてクロエママ爆誕。

過干渉の権現。

このところ移動時に手を繋ぎたがるんだ。


「クロエ、恥ずかしいから」


って離れようとすると、万力のような握力でさらにオレの手を握り込みながら……えっ? 今、パキッて音がしたよ?


「周りの目ですか? 気になるなら潰してしまいましょうか?」


真顔だ。血の気が引いた。

絶対に軽口の類ではない。


学院の全ての人々の視力維持の為に今日もオレはクロエと手を繋ぐ。

無辜(むこ)の民の為、自己犠牲を発揮している。

それなのに……

そこのクスクス笑っているお前!

お前が今も失明せずにせせら笑っていられるのはオレのお陰なんだぞ?

くそぉ。


昼も一緒に過ごし、選択科目の教室へ移動した。

なんかいっぱいいる。上級生はまだ分かるが、大人達がわらわらと。

学院長もいるし。


そして始まる裏知識爆裂の授業。


えぇっ! そんなこと言っていいの?

あの事件の裏にそんな事実が!

え? あの歴史上の有名人がそんな人!

ち、ちょっと待って! あの国ってそんな成り立ちなの!?


ハァハァ……マジか。裏取りなんて中人族には無理だから確認しようがないけれど、全て事実だろう。

きっと盛ってもいない。

そう確信させる語り口だ。

実際見てきた事柄もいくつかあるとのことだし。

今日からはクロエ師と呼ばねば。

心ん中限定で。


褒めると嫌な方向で調子に乗るからな。



クロエが終業の言葉を述べると、学院長が授業の延長を提言してきた。

オレも同意すると、クロエの目に光が宿る。

やる気になってる!


そのあとの1時間半も驚嘆と戦慄の時間だった。


夜、あんなに言って大丈夫か聞いたら、


「ダメだと指示されていることには触れていませんよ」


とのこと。

いやぁ、リテラシー的に自己判断で伏せておくべきこともあったのでは? との問いには、


「ワタシはなにも困りませんし?」


スゲェぜ、クロエ師。

そこに痺れる憧れる。



三日目もブレないクロエの位置取りはオレの隣席。

机に隠れて周りから見えないのをいいことにオレの腿や股間をお触りしてくる。

今すぐその手を掴んで立ち上がり、「先生コイツです!」と痴漢行為を告発したい衝動に駆られるが、我等が良識ある指導者たる担任教師は昨日からクロエにビビリまくりである。

無視して無かったことにされるか、仮病を装い逃げるかの二択だろうことは想像に難くない。

波風立てても置いてけぼりとか。


甘んじて触られるのだが、クロエ師よ、いくら今から高めてみても今日は安息日だぜ?


オレはその高まりに応えることはないのだよ。

あっ、ちょっと立ってきた。

隣のクロエを見るとなにやらウキウキした顔をしている。

オレにしか読み取れない微細な表情で。


なんとか午前を本日の貞操ともども乗り切り食堂へ移動。

お手々繋いで。


すると教頭がやってきて授業場所の変更を告げて去っていった。

大講堂?

数百人は収容可能な箱だが?

どゆこと?

まぁ、予想はできる。昨日の授業、国家上層部の連中ならば垂涎のネタだらけだもの。

外交にも使える情報てんこ盛り。


学生相手に披露するような内容ではないよね。

だから大人達が大勢来るのだろう。そりゃあ大きな箱が必要だよね。


ちとばかり懸念はあるが、大人達に披露するのに問題は無かろう。


そしてその懸念は的中する。

大講堂入口に最上級の近衛騎士団員達が陣取っている。

入場者の取捨選択を行っているのだろう。

こりゃあ国王も来てるな。

そして、その指示の元、学生を排除して大人達をより多く入れたのだろう。


案の定クロエがヘソを曲げた。


激烈に謝罪する学院長。

静まり返る大講堂。

渦中の人に手を握られ離脱できないオレ。

あぁ、ボク関係ないですからって、フェードアウトしたい。

させて。


結局最後までつきあわされてからその場をあとにした。


その日の夜は安息日にも関わらずボディータッチがねちっこい。

なんとか耐えて、安息を勝ち取った。

やれば出来る子なのだオレは。


いや、やらせないよ!

「やれば」出来るなんて、そんな軽いこじゃないんだからね!!

そんな簡単に出来るなんて思わないでよね!

プンプン!!

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