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26.新任教師

〈クロエ・ルセル〉


一日目 光の曜日


ワタシの教師としての生活が始まった。


といってもユリアンの選択科目である歴史学の授業は今日はない。

火、水、土の曜日で午後1時30分開始となっている。

ユリアンは光、火、風の曜日は武術の実技を取っているが、開始時間は歴史学と同じだ。

従って火の曜日だけ重複がある。

学生主体を掲げる校風だとかで、どちらの授業を選ぶかはユリアン次第だ。

勿論ユリアンはワタシを選んでくれるはずだと確信していたのだが、彼の月間スケジュール表には「火 武術」と記載されていた。

何をどう間違えたのか。

学生課に提出されたそれを担当者から取り上げて「火 歴史学」と書き換えておいた。

間違いは正さなければならない。


その後、学院長に誘われて通常授業の教室へ行くと生徒達への紹介をされました。

ユリアンがいます。これからは午前中ずっと一緒ですね。


なにやら小娘が一人、高慢な態度でワタシや学院長にどうでもよい物言いをしていますが……

学院長にさんざんに言い返されて謝罪を始めました。どうでもいいです。

そこでユリアンが「ボクの愛しいクロエ」と……

もう、ユリアンったら。みんなの前で愛を告げるとか……素敵。


どうでもよいので許しました。

ただ、その高慢小娘がユリアンに抱き着いたのは許容できませんね。僅かですが殺気が漏れてしまいました。


そうですね、ユリアン。この件についてあとで話し合いましょう。



夕刻、ワタシは寮室に戻ってからユリアンの帰りを待った。

夕食を済ませどこか明るい雰囲気を醸すユリアンへ事の次第を話して聞かせた。

月間スケジュール表の記入間違いを訂正しておいたこと。担当者も快く受理してくれたことを端的に説明した。

ユリアンはなんでもないこととでも言うように無表情に小さく頷くと、


「ちょっと一人で型の練習してくる」


と言って黒騎士の剣を片手に部屋を出ていった。

そうですね。今日は朝の組手以降運動していませんでした。

武術の実技があったようですが、あの程度の講師相手では運動にもなりません。


だからワタシのためにひと汗かきに行ったのでしょう。

本当はワタシと模擬戦でもしたほうがより効率がよいのですが、せっかくユリアンが自らワタシの為に申し出てくれたその心意気をムダには出来ません。

ここは心静かに待ちましょう。


勿論この日も神の恵みをユリアンからいただきました。

少々の小言を交えてですが。



二日目 火の曜日。


午前の通常授業を見学します。

昨日は案内やら説明やら、手続きやらで来られませんでしたから。


担当教師は何やらギクシャクとした態度で言い間違いも多々ありましたが、概ね間違ったことは教えていません。

まぁ、学院での授業内容は卒業までのさらにその先までワタシにより履修完了しています。5歳のときに。四則演算などは何故か教える前に身についていましたし。

今更ユリアンが、ここで学ぶことなどありません。


仮に教師が間違ったことを教えていても他の学生に対するミスリードなどワタシには関係ありませんし。


ワタシは授業中もユリアンと同じ空間に居られるだけでよいのです。それだけの為にここにいるのですから。

因みに授業中、ワタシはユリアンの隣に着座しております。


昼食をともにして、昼休憩を一緒に過ごし、選択科目の教室へ向かいます。


ん? 沢山いますね。

一学年以外の学生も散見されます。

それに教師も数人。おや? 学院長もいますね。

良いでしょう。学習要領に従って初回授業の区切りまで進めるだけです。

教科書の間違いを訂正しつつ。


世界の成り立ちについてはエルフとして秘する部分が多々ある為、それ以外の真実を語り、各人族の集団化と国家の成り立ちは各地で手にした禁書と呼ばれる書物から得た知識による補正を加えながら、各種族の相克と国家の離合集散については中人族のどの文献にも記載されていない実体験に基づく裏事情を交えながら……といった具合いに授業を行いました。

皆さん興味を持って聴いているようです。

ユリアンも。

やりがいとはこういうことか。


と、そろそろ時間ですね。

「それではこれで本日の授業を終わります。お疲れ様でした」

そうして教卓を離れようとしたところ、学院長から声が掛かりました。

「このままもう一時限継続願えませんか?」と。

お断りです。これより先はユリアンとの時間です。

有象無象の相手など、


「クロエ、ボクも聴きたいな」


良いでしょう。

とっておきのやつを披露しましょう。


夜、タップリと課外授業を施しました。ユリアンも満足したことでしょう。

それ以上にワタシも満足しました。

素敵。



三日目 水の曜日


今日も午前はユリアンの通常授業を見守ります。隣席で。

学生同士が戯れる休み時間もユリアンに寄り添います。

まぁ、ワタシも授業中、隣のユリアンと戯れていたのですがね。周りには内緒で。


昨日同様に食堂でユリアンと昼食を取っていると、教頭がやってきて告げました。

「本日の歴史学の授業なのですが、大講堂で行う事となりました。昨日の教室ではありませんのでお間違えなく」

急ですね。まぁ、別に構いませんが。

了承した旨伝えると教頭は急ぎ足で引き上げて行った。



昼休憩を終え、ユリアンと大講堂へ向かう。

大講堂入口には兵士がたむろして通行の妨げとなっていました。


「邪魔です。道を開けなさい」


と言うと、怪訝な顔をしてこちらを向き、ワタシの顔を一瞥するや飛び退くように道をあけ大声でを出します。五月蝿い(うるさい)

「エルフ様のご到着だ! 総員下がれ!!」

10人ほどいた兵士たちが一斉に飛び退きます。

それで良いのです。


ワタシとユリアンは兵士達の合間を通り抜け大講堂内へ入ります。


どういうことなのか、聴講生の席を数百人の大人達が埋め尽くしています。

それに反比例するように学生の姿が殆ど見られません。


学院長と目が合いました。手招きをすると直ぐに駆け寄ってきます。


「授業を引き受けた際の取決めに人数の多寡(たか)はありませんでした。よって受講人数については不問としましょう。しかし、本来ワタシが講義する対象であるはずの学生達の姿が殆ど見られませんね。直ちに部外者の大人達と学生を入れ替えさせなさい」


当惑気味の学院長。


「しかし学生たちには手違いから事情説明の上引き取らせてしまいましたので、今から入れ替えとなりますと……」


ワタシは双眸をすぼめ吐き捨てます。


「では条件不履行と見なし本日の講義は拒否します」


そのまま(きびす)を返してユリアンの手を引きその場をさろうとするワタシの前に回り込んだ学院長はなんの躊躇(ちゅうちょ)もなく土下座をし、額を床に打ち付けました。

静まり返る大講堂内にゴンッという衝撃音が響き渡る。

一拍おいて顔を上げた学院長の額はパックリと割れて顔面血塗れになっていました。


あの高慢小娘に強要していたのは本気だったのですね。

自他共に厳しさを強いるその姿勢にはちょっとだけ共感します。


「お許しを! そして今一度の機会をお与え下さい! 伏してお願い申し上げます!!」


そしてもう一度額を床に打ち付けました。

床面に血溜まりが広がる。


ふむ。


「一度だけです。二度目はありません。条件を満たした上で再度乞い願いなさい」

そのまま場を後にした。

ユリアンの手を引いて。


どうにも気分が悪いのに本日は神罰の日。同衾しつつ、ユリアンにちょっかいを出してしまいます。

意志の強さを貫く姿は尊いながらもたまに見せる弱さを今日くらいは……

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