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25.至高の剣技

〈ユリアン・フォン・シュワルツクロイツ〉


槍をハンナに手渡してから腰の剣を抜く。そして鞘に収める。

これを3回繰り返してから丸太まで3mくらいの位置へ。

再び腰溜めの姿勢を取って一呼吸。


間合いを潰し一気に剣を抜き放ち斬り上げる。返す刀で両手持ちにして斬り下げる。

振り切ってから刀身を軽く一振りし、鞘へ納刀した。

すると、丸太がゆっくりと「二重に」ズレ動き、そしてポトリと落ちた。先が鋭角なためか、地面に突き立った状態で。


誰もいないかのような静寂が場を支配している。

え? みんなどした? と周りを見渡すと、誰もが愕然とした顔をしていた。

ガンツもだ。

クロエとハンナは普通にしている。


騎士らしき中年男性がオレに対して絞り出すような声で語りかけてきた。


其処許(そこもと)はどちらの騎士であられようか。もし士官されておられぬ様ならば王宮の近衛騎士団に参られぬか?」


勤め人になる気はない。


「ボクは子爵家子息ですよ。強いて申し上げるならばマルキアス辺境伯の麾下となりますね」


中年騎士はさらに驚愕の表情となった。


「かの戦鬼殿の麾下であられるか。なるほど、納得であるな」


納得したらしい。



それにしても凄いなこれ。

鎧と言ってもよい全身防具は一切動きを妨げない。むしろ踏み込みの速度が上がってるから間合いを間違えそうになる。これ多分魔力滞留を流用して身体強化へ変換してるな。

最初の槍突きで分かったからその後は補正したけどね。

槍の刺突力は殆ど抵抗を感じないくらいの手応えで、でも反力が全くない訳でもないから次動作の切っ掛けが取りやすい。柄の太さとか強度とかも申し分ない。ただの木とかだと握力に負けて潰れちゃうんだよね。

そして突きやすい、振りやすい。これまでで最上の槍だ。

父のやつより上。


そして剣だ。

ただのロングソードではない。柄に近い剣の根元に刃が付いていない。

これは変則的だがツバイヘンダーだ。

敵に当っても斬りきれない場合、刃がない根元部分に手や腕を添えて押し切ることができる。

使い方に幅がありユーティリティ性が高い。

それ以前に異次元の斬味は驚嘆に値する。

槍とは違い、対象の手応えがないレベルで斬れる。素振りしているのと変わらない。

槍と剣、これらも魔力滞留を吸っているのだと思う。今のところファンタジーな金属素材の話は聞いたことがない。ただの鉄でこの「分断力」はあり得ないだろう。刀身が魔力を纏う(まとう)か。


一呼吸おいてガンツへ話し掛ける。


「感動しました。防具は動きを抑制するどころか底上げしてくれる。踏み込みや腕の振りが何時もより早すぎて調整するのが大変でした。槍は穂先の突破力の素晴らしさ以上に柄の強度と歪みのない直線性、適度なしなりがありながら剛性も備えている。こんなに扱いやすい槍は初めてです。そして剣ですが、ただのロングソードではなく、これはツバイヘンダー仕様ですね。今回は応用の機会がありませんでしたが、実戦では役立つことに疑いありません。そして振りやすさと手に馴染む柄は特筆ものです。刃の斬味に至っては最早一切の抵抗感がなく、素振りと変わらぬ感覚でした。鞘も抜き差しの手応えが心地よくて抜き打ちが凄く楽しめましたよ。本当にあの値段で宜しかったのでしょうか? それが不安になるほどの素晴らしい武具達です。ありがとうございました」


オレのロングな語りを聞きながら始めの驚愕の表情から次第に感心するような顔になり、最後は感極まったように紅潮し目を潤ませている。


「旦那様はたったあれだけの試技にてワシの作品の意図するところを余すこと無く把握してらっしゃる。さらに驚くべきはその身体のキレと信じ難い程の技前。寸分の狂いなき槍さばき、もはや天上技の域にある剣の抜き打ち、どれもこれもがワシを陶酔させるに充分なもの。自身の作を献上できること、無上の歓びにございます」


「いえいえ、献上ではなく買い取りですよ。そこはお間違えなく。それにボクではクロエの足元にも及びません。そんなに褒められると却って恥ずかしいですよ」


「クロエ様は別枠のお方ゆえお気になされますな」


「それは……そうですね」


ここで二人して苦笑いだ。


やっと周りがざわつき出した。


ガンツが部下の人に指示を出している。


「ワシの部屋の飾り棚に掛けてあるレイピアを持ってこい。それと、お前」


と言ってからさらに他の人に向かって、


「ゴドルフ用に拵えたショートソードがあっただろ、確か予備でもう一本同じのを作ったはずだ。それを両方持ってこい。あとお前、店に置いてあるナイフで全長22〜25cm、細身で肉薄な刀身のもので5本以上おなじのが揃っているヤツを見繕ってこい。革製のシースも忘れるなよ」


などなど、指示を飛ばしまくっている。

すると職人? の一人が


「ゴドルフ様の品の引き渡し予定が明日になっておりますが?」


それを聞いてガンツが


「ヤツには待ってもらえ。その代わり鞘くらいはワシが拵えてやると言え」


またしても周りがざわついている。


ゴドルフさんって学院の実技師範、ドワーフのゴドルフ師?

ハンナにショートソードを横流し?

いーのかなぁ。

あ、でも引き渡しした訳でもないしモノを見たこともないはず。

そんならいいか。

ハンナの腰にぶら下がっていても分からないでしょ。

よし、セーフ。


ん? ガンツさんがまたオレを見ている。


「旦那様が先程仰っしゃられていた黒騎士なる表現はこうして装備して見返してみるとピッタリとした言い表しですな。ワシは自身の作に銘をつけたりしない主義なのですが、黒騎士の防具と黒騎士の槍、そして黒騎士の剣と命名してもよろしいでしょうか?」


んー、別にいやじゃないな。いや、むしろ厨二心をくすぐる良い銘じゃなかろうか。


「いいですよ」


快諾した。


「ではそれぞれの武具に銘を刻みましょう。装備解除後、ワシにお預け下さい。直ぐに仕上げますゆえ」


また二人に手伝ってもらって装備を外した。

これで開放感を感じないのがこの装備の凄いところだ。

蒸れてすらいない。


ガンツさんに引き渡したところでクロエのレイピアが届けられた。

クロエは受け取ったそれを腰に佩き()、実に流麗な捌きで抜き打ちを一つ。

やっぱスゲェ。

見惚れていると、クロエと目が合った。

珍しく誰にでもわかるくらいはっきりとはにかんだ顔をする。


なんて破壊力。恐怖の大魔王が恥じらいの女神にジョブチェンジ。

何気に脇を見やると、ガンツまでもがトロンとした顔をして見惚れている。

その他大勢は言わずもがな。


「ねえ、クロエも試し斬りして見せてよ」


クロエは軽く頷くと立ち丸太の5m前くらいまで進み立ち止まる。

腰溜めするでもなく、構えるでもない。

ただ自然体で一枚の絵画のように(たたず)んでいる。


ほんの一瞬クロエの右手の像がブレた。

こちらへ向き直りゆっくりと歩いてくる。


「いかがでした?」


そう問いかける彼女の後ろで丸太が細切れになって崩れ落ちた。


いったい何太刀入れたんだ!?

やっぱりオレはこの大嶺の麓にすら辿り着けていない。

多分生涯追い付けない。


彼女への心中での呼称を大魔王から大魔神へクラスアップしておこう。

そして今まで通り、絶対に逆らわないと誓いを新たにするのであった。


さっきのオレ以上に周囲が静かだ。なにせ鳥や虫すら鳴くのを止めている。

殺気は放っていない。

なのに有無を云わせぬ威圧感のようなナニカを感じ取ったのだろうか。


まるで全ての生ある者たちの天敵であるかのように。



後ろから声が掛かる


「相変わらずの技前でございます。いや、以前よりもキレが増しましたかな? 刀身で斬らぬがゆえに刃こぼれなど一切ない。先ごろ数百年ぶりに拝見した時に承知しておりましたが、やはり貴女様は至高に御座いますな」


うん。手合わせの時も、剣を剣で受けるとか全くしないもんね。借り物の剣でもしない。

いやんなるくらい躱すんだよ。

帯剣する意味なくない? との疑問とも戦いながら模擬戦を延々とやらされる。

オレが汗だくになるまで。


その後ベッドで更なる戦いがオレを待っている。


太刀筋もオレに対する扱いも全くブレない完徹の人、クロエ。

恐ろしい子。



奥の応接間へ通されて、お茶をいただき小一時間。

武具一式を運び込む職人達とガンツさんがやってきた。

早速打刻された銘を確認する。

そこにはほぼドイツ語の体でこう書かれていた。

「シュワルツレイター……」

黒槍持ったら「シュワルツランツェンレイ……」ダメ! これ以上は大人の事情で言えない!!

そうじゃん。黒槍の騎士をドイツ語にしたらアレじゃん!

そうかぁ、オレは今後ずっとこの業を背負って生きていかなきゃいけないのか。

学生のとき彼女の一人に勧められてハマった銀河なんちゃら。

ビッテ〇フェルト提督の御名は穢しません。


黒十字な家名を背負い、黒騎士の銘を刻み、暗黒大魔神と生きて行く。

せめて我が未来に光あらんことを。

あとホワイトな性生活も。


工房を後にして街ぶらして帰宅した。

今日は安息日。お風呂入ってのんびりしよう。

と思っていると、二人ともが浴室へきて洗体に名を借りたセクハラボディータッチについ………


だんだん安息日のルールが曖昧化されつつあることに危惧を覚える今日このごろ。

守られないルールの標準化は組織退廃の第一歩。


規則を守らせる為に断る勇気が欲しい。

あと起立させない強い意志も。

うまく分割できずに長文になってしまいました。

まだまだ不慣れです。

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