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1.産まれたからには生きてみる

ここから本編です。

暗く暖かな、そして浮遊感のあるそこでは聴覚のみ機能していた。


聴いたことのない言語による会話が耳になじむ頃にはなんとなく意味が理解できるようになっていたが、全く意味不明な単語も複数あり完全な理解には程遠い。

それでも最も高頻度で語り掛けをしてくれる女性の声が母のものであろうことは認識できたし、ちょくちょく母との親し気な対話をする男性の声がおそらく父であり、断片的に読み解ける言葉の意味から自身が望まれて授かった赤子であろうことは伝わってきた。



それにしても前世の記憶を持ったまま生まれ変わるとは……そうした説や伝承にふれたこともあるが大抵は産道を潜り抜けるまでにリセットされるか、そのまま産まれても幼児期までに新生児としての新たな人格に主人格が移行してただ記憶のみが残渣物として残りやがてそれも消えていくとか。

なんだっけ、そんな内容の本? を読んだことがある。

だから今ある前世主観の人格はやがて消えて無くなるのだろう。


本来死んで終わったはずのわが身なればやむなしであるし、いい歳したオッサン入りの我が子とかご両親に申し訳がなさすぎる。

両親とも若いみたいだし、初子ならばなおさらだ。


たゆたうようにただそこに在るだけのような、半分寝ているような意識下で次第に初期化されてゆくような感覚をおぼえながらもそれでも自意識を失うことなく黙々と言葉の解析を続けているうちに時は流れて……産まれた。


あれ? リセットされていない? そういうところなのかな? ここは。

既知の言語でないことはだいぶ前から解っていたし、どうやら魔法的な超常のなにかが界隈に横行しているらしいこともすでにしっている。

であればここは自分の知る元の世界ではないということだとの予測はついていた。

つまりは前世の記憶を有したまま産まれるのがデフォルトな世界ってことなのかなと。これは要確認だ。



「げぷっ」

肺を満たしていた羊水? を吐き出して空気で呼吸をする。

これでしゃべれるはずだ。「あうあうあー」某卓球部の人のような声がでた。

「あーう」いや、違うな。

こういう声しかだせないのだな。


そりゃそうか、産まれたてだもの。

まともな発音ができるほど声帯ができてない。

しかも目が開かないし。なにも見えないし。


外部情報が……って、なんだろうか、大声で誰かがわめいている?

泣かずの……産まれ……〇〇持ち…の子……祝う? 祝福か?

……大きい……決り? 定めかな? 父? も興奮気味に「私の子が…」とか「〇よ」とかなにやらはしゃいでいる。

喚いていたおじさんが続けて言う。


「〇〇までに、早くに言葉がでれば間違いない」


とかなんとか。

そりゃあね、発音さえできれば今すぐしゃべってみせるさ。

まだ無理だけど。

ん? ってことはやはり言語のプレインストールは一般的にはないってことか。

ならば前世の記憶持ってますってのは隠しておいたほうが吉か。


やはりOSとしてオッサン機能搭載で出荷された赤ちゃんとか母がマジで嫌がるだろうし。

うん、気を付けよう。


しばらくしてお祭り騒ぎがおさまり周囲がまったりとし始めてから父が咳払いを一つしてから厳かめな口調で呟くように言った。


「この子に名をもたらそう。天の下、神の僕たるその名はユリアン・フォン・シュワルツクロイツ。願わくはこの道を照らしご加護を賜らんことを」


ところどころ意味が解らない単語はあったが多分名づけと祈りの言葉なのだろう。


ややあって口に含まされた小ぶりのなにやらコリコリ感があるナニカ。

反射的に吸ってみると口の中に謎の液体が。

これは……お乳か! うれしはずかし初体験。

いや、前世で体験しているか。覚えてないけど。



なんとか魔法的なものを習得できないかといろいろ試行錯誤してみたものの知識も経験も不足……というよりもないのだからかなうこともなく、それならば聞けばよいと短絡的に思い至った生後4か月のある日、ついうっかり乳母のお姉さんに話しかけてしまった。


「まほうつかいたい」と。


発声練習は一人の時間を見繕って地道に繰り返しており、まあつたわるであろうと思える程度には習熟していた。

その延長くらいのつもりでの語り掛けであったのだが乳母にしてみれば驚天動地くらいの出来事だったらしい。


オレを抱えたまますっくと立上り足早に屋敷内を移動する。

母の部屋へノックとともになだれ込み開口一番


「若様がお言葉を、お言葉を発しました!」


あ、やべ。

そういやあんまり早く口きいちゃいけないんだったっけ。

うっかりわすれてたわ。

侍女による髪の手入れを受けていた母は驚愕からの歓喜の表情へと、そして舞い上がるがごとく立上り、


「なんといいましたの?」と。


乳母は一つ深呼吸してから母を見据えて


「魔法使いたいとおっしゃいました」と。


すると母は俺を乳母から奪い取るようにその胸元へ引取りそのまま部屋をでて廊下を駆けるようにして父の執務室へと向かう。


ノックもせずに扉を押し開けて執務机の向こうに座る父へ向かって叫ぶように言葉を放った。


「ユリアンが言葉を発しました! 魔法使いたいと!」


手にしたペンをポトリと落とし呆然とした表情の父。

やがて小刻みに全身を震わせながら立上り、


「治癒魔導士殿の言ったことは本当のことであったか。我が家に救世の御子が降臨されたということがこれで……なんということだ、なんという……」


なんか打ちひしがれてない? 父。


「ゼーゼマン様にはご報告せねばなるまい。王都への報告は裁定を得てからにしよう。教会にはこれまでとおり隠蔽する。まずは先ぶれを出さねば。うん、いっそのことユリアンへの面会をお願いするか……」


矢継ぎ早の独り言である。

一応喜びつつその先にある面倒事に思いをはせつつ諸々勘案というところか。

優秀かつ怜悧(れいり)といった印象だ。

母や子にでれているだけの優男(やさおとこ)というだけではなかったらしい。


翌日、父母と俺、それに乳母と従者を引き連れて馬車4台を連ねて屋敷を出発。

道中のお食事は乳母ではなく母からの提供。

食べている物が良いのか、母のほうがやや芳醇な香りだ。乳母のほうは微かな甘みをかんじさせてどちらもよい乳である。

いわば母のはややゴージャスめな食事といえないこともない。

そんでもって当然のことながら父や母がまあ話しかけてくる。


「父様だよ」


「母様です。さあ言ってみなさい」


「若様、ヒルダですよ」


もう誰に応えればよいものやら。順番間違えると後々まで遺恨が残りそうで気が気じゃない。なので、


「まほう!」


と強めに応える。

初志貫徹。論理のすり替え。質問に質問で返す。

この無礼極まりない応答に大人たちはほほを赤く染め上げ目を潤ませて


「「「わたしがおしえてあげる!」」」


と声をそろえて返答してくれた。


ゼーゼマン様というのは王国南部に広がる大森林地帯とそこにそって広がる草原地帯を包括する辺境伯領主であり、我が家であるシュワルツクロイツ子爵家の寄り親であるそうだ。

そして母の父なのだとか。

ちなみに父の父はオレが生まれる前に亡くなってしまったそうだ。



辺境伯領は隣国との国境警護と防衛出動が主任務であり王国内での内政全般とうからは距離を置く武闘派貴族の治める土地だ。


そこに連なる派閥に属する貴族たちは主に男爵や子爵であり、辺境伯家の分家である伯爵家が2家ある。

よってシュワルツクロイツ子爵家は派閥のなかでは中の上くらいの立ち位置ということになる。


そして武闘派貴族の派閥ということで我が家もかなりの武力を有している。

概ねの数字らしいが、騎士は50名、騎士や子爵家の従者が250名、警備兼務の常備兵団は500名、兵役経験者で通常は市井や農地で生活している予備役が1,000名ほどと、総兵数約1,800名。

戦国時代の大名が1万石あたり300名強の動員力だったそうなので石高に換算すると6万石といったところ。

大大名に仕えるちょっと大きめの国人領主といった規模か。

兵農分離はあまりすすんでいないようだが直に隣国と接していない現状で常時動かせる兵力が800もあれば充分なのだろう。


わりと具体的かつ詳細な説明を乳児に嬉々として解説する父と魔素の認知から循環と魔力錬成、操作などを代わる代わる教えてくれる母と乳母。


相槌も返答も適格な質問も全てが超乳幼児級な俺に対し疑問や不気味さをおぼえるでもなく我先に手ほどきと入れ知恵をしてくれる大人たちのおかげで目的地につくまでの3日間のあいだにこの世界の基礎知識と生活魔法とも呼ばれる初級の4元素系統魔法を習得できた。


ちなみに魔素と呼ばれる魔法の素となるものは大気中にも大地にもそして全ての物質や生命にも含まれていて、全ての人族や魔獣の体内には魔素を生成する器官が内包されているのだとか。



人族とは大別するに5種あり、成人するころに頭部に角が生え、高い魔力と戦闘力を持つ有角族ホーン

獣の特徴が随所に現れ非常に高い身体能力と感覚機能を持つ獣人族セリアンスロウプ

成人しても幾分身体が小さいがそこからは想像できない腕力と器用な技術と高い知能を持つ鉱人族ドワーフ

美しい姿と長い耳、非常に高い知能と魔力と戦闘力を持ち、長い者は数万年を生きるともいわれる寿命をもつ精霊族エルフ

そして最も高い繁殖力と中庸たる体力、知力、魔力を有する中人族ヒューマン

さらに人族ではないが高い知性をもつ別種族として竜族ドラゴンがいる。

彼らの強さは別格であり、その勘気に触れぬように気づかいし、ときに対価を差し出し願いを聞き入れてもらうなどして人族は各々の繁栄を享受してきた。



そして魔獣だが、魔素発生器官をもたないものは獣、持つものが魔獣と分類されている。

魔素発生器官は死後急速に石化し、残留魔素が定着して諸々のエネルギー源として活用されるため有価物として時に高値で取引される商品となるのだそうだ。


人族の場合、死ぬとなぜか魔素が抜けて無くなってしまうことがほとんどで、労力をかけて魔石を取り出してもほぼ無価値なので、たとえば戦場で魔石拾いをするような無作法をするものはいないのだとか。

ホント、聞けばなんでも教えてくれる。

ここら辺のはなしなんかR15とかじゃなかろうか。聞き手のオレ0歳。


そして肝心の救世の御子と破滅の御使いについてだが、実はよくわからないのだそうだ。

最後に現れた記録は1500年程前。

その人物はお隣の大国である神聖帝国の元となった王国の初代国王になったんだとか。


だから神聖帝国へ行けばなにかしら記録があるかもしれないが公開はされておらず、聞いても教えてもらえないんじゃないかなとのこと。まぁ、そうだろうな。

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