18.小さいおじいさん
〈クロエ・ルセル〉
翌日、王都見物に繰り出すことになった。
300年前に訪れた店は悉く営業しておらず、店そのものがないとか、知らない建物と化していた。
中人族の世代交代サイクルの早さよ。
横ではユリアンが苦笑している。「しょうがないよ」と言いながら。
んーー、中人族の店がだめならば鉱人族ならどうだろう?
あやつらも寿命は長い。
確か鍛冶師の……なんと言ったか……ガンタ? とかいうのが王都で工房を営んでいたはず。
場所は確か……うん、多分あそこだ。
ユリアンに古い知り合いがまだいるかも知れないと誘い、記憶を辿りながら王都の北側を歩く。
直線ではなく道なりに大よそ10km程の距離を10分弱ほどで移動して……見つけた。
看板にはガンツ工房と書かれていた。
名前、大体合っているな。
それにしても、こんなに大きな工房だっただろうか?
とにかく入ってみよう。
ユリアンの手を引いて扉を潜ると、店舗らしき様相だ。中人族が沢山いる。有角族や鉱人族もちらほらと。おや、珍しい、獣人族もおるではないか。人気店のようだ。
様々な武器、防具が展示されている。そういえば今腰に下げているレイピアもガンツに作らせたものだったか。
目についた店員に声を掛ける。
「ガンツはいますか? クロエが会いにきたと伝えて欲しいのですが」
エルフの申し出を邪険にする中人族はまずいません。
店員は直ぐに応じると奥へと駆け去った。
待つこと5分。
店の奥からバタバタと足音をさせて老いた小男が走り込んできた。
そしてワタシの前に跪くと、
「お久しゅう御座います! 今生のうちに相まみえましたること、過ぎたる幸せに御座います!!」
そういえばそうであったな。相変わらず声が大きい。五月蝿いヤツよ。
「うむ。久しいな。ガンツよ。息災であったか?」
「はっ! 些か老いはしましたが、まだまだ鍛冶師としては現役にございます!」
「それは何より。ところでな、こちらに居られる我が夫に剣と槍、防具などを見繕いたいのだが、頼めるか?」
顔を上げたガンツは目を見開いてユリアンを見つめる。
二呼吸ほどおいてから、
「夫?」
と呟き、立ち上がる。そしてユリアンに近付いてやおらに手を取り染み染みと眺め、肩から順に全身を触り感触を確かめていく。
これが女ならば許しはしないが、職人の習い性であれば致し方なしである。
「まだお若いのに素晴らしい体躯ですな。四肢は細身でありながら靱やかで且つ引き締まり、恐らくは膂力も我ら並。早さもキレもかなりの域にありましょう」
「さすがだ、分かっておるではないか」
「このお方に捧げる武具ともなれば、既製品では役不足かと。このワシ自ら打たせて頂きたく存じます」
店内がざわついている。五月蝿い。
「ふむ。では頼むとするか。あ、ついでといってはなんだがこのレイピアの整備も頼めるか?」
言いながら腰のレイピアを鞘ごと取り外しガンツに渡した。
それを両手で捧げるように受け取ったガンツは目尻に涙を浮かべながら、
「まだお使いいただいていたのですね」
と言ってから鞘に収まったレイピアを掻き抱くようにして畏まった。
そして剣を抜き刀身を真剣な眼差しで隅々まで眺めてから鞘に収めた。
「見事に御座います」
と言って再度頭を下げた。
こんなヤツだったかな?
もっと生意気な小男だったように記憶していたのだが。
こちらが恐縮するくらい腰が低い。
まぁ、此奴の腕は疑いなく最上級。ユリアンの武具一式揃えて貰えるなら重畳であろう。
勿論金なら払う。
一揃え頼んでから店をあとにした。
完成はひと月後だ。
その他については案内役としてほぼ役立たずであると自覚し、帰宅後ハンナに相談してみた。彼女なりにいろいろ調べていたらしく、それならばと翌日、改めて3人で王都見物に繰り出した。
どこまでもワタシに寄り添って助けてくれる。
心友へのご褒美はやはりあれしかなかろう。
きっと悦んでくれるに違いない。




