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17.ハンナ以外は有象無象

また短い。

〈クロエ・ルセル〉


王都へ来てから日中はユリアンと挨拶まわりを強いられた。下等な中人族の王か貴族に無遠慮な質問を浴びせられ、無視しているとユリアンが仲介の労を取ってワタシに改めて質問をする。

ユリアンに聞かれたらどんな恥ずかしいことだって応えると決めているワタシは「ユリアンに解りやすく」説明をした。


中人族では知り得ない情報を衆人の前でいくつか開示したけれども、だからどうなるものでもない。

その日は帰宅が遅くなってハンナに心配をかけてしまったようでなんだか申し訳ない。

当日はワタシが神罰の日と名付けた週に2回ある苦難を受ける曜日の一つ、闇の曜日であったため普段は「事後」に入る浴室へ早い時間にゆき、ユリアンの身体を隅々まで丁寧に洗い上げた。そう、隅々まで。


ユリアンが1日着た着衣は浴室の脱衣所へ脱ぎ置く。それはハンナによる愉悦の糧となった後、洗濯されてから数日後の着替えとなってこの脱衣所へ還元される。

自然の大いなる循環と維持、そして時に起こる大変革。

そうした人ならざる大局にある者の代行者たろうとするのが天人であり、エルフであるのだ。

従ってハンナによる循環はエルフであるワタシにとって肯定すべき無駄のない自然な人の営みの一環なのである。

それが是である証拠に論理的破綻がどこにもない。さすが我が心友の手管。


ユリアンの、たとえ下着1枚であっても嗅いだり、擦ったり、体液に塗れさせたりを赦せるのはこの世界にハンナただ一人だけである。

あの極限の飢餓から自身の宝物を差出してワタシを救ってくれたハンナ。

ワタシはその尊貴なる行いに報いなければならない。

だから…………。


今日は水の曜日。神罰の日、朝から憂鬱だ。

そんな中ユリアンの挨拶まわりで訪れた伯爵家でとんでもなく不敬で身の程知らずな小娘に遭遇した。

言うに事欠いて自分をユリアンの妻にだと!?

なんら成さしめない下等なる中人族の中でもさらに甘やかされ、周りの世話なしには生活すらままならないような幼生体の如きカスが、ワタシのユリアンの妻だと?


ワタシは概ね無表情だ。自覚はある。

でもユリアンに出逢ってからの最初の5年は顔面の筋肉がユルユルになりそうなのを鉄の意志で引き締めて仮面を被るようにして過ごした。

そうしなければ嫌われてしまうのではないかと懸念したからだ。過去、どこに於いてもワタシの無表情は評判がいい……と思うから。

だが、ユリアンから離れた5年半は常に不機嫌で憮然とした顔をしていた。

これも自覚していた。鏡くらいたまには見るから。

そしてユリアンと再会してからは感情がだいたい顔に出るようになった。

ユリアン曰く、かなり良く観察しないと解らないとのことだが、それでもユリアンは解ってくれる。

素敵。


そしてこの不愉快極まりない小娘に対し一切の遠慮斟酌ない今の感情を表情に出してぶつけてやった。


どうやら小便を漏らしたようだ。

想い人の前で。

もう二度と分不相応な発言はできまいよ。クククッ、少しばかり愉快だ。


おっと、殺気も漏れていたか。武人だという伯爵が倒れて青褪めている。

此奴もワタシが侍るユリアンに対しもっと気遣いするべきなのだ。

これで少しは分かったであろう。

自分の分というものが。


ん?

ユリアン?

ワタシが唯一の妻だと?

うむ。その通りだが、改めて口にされるとなにやらこそばゆいものがあるな。

ん?

今日が、火の曜日?

水の曜日のはずだが?

帰ってから楽しみ?


良いのか?

神罰は回避ということか?

くぅぅぅーっ!

滾ってきた!!


その要望に全力で応えよう。

ユアハイネスよ。



翌朝、やり過ぎたのではないかと久し振りに反省した。


でもワタシの中のナニカはほぼ解消された。凄い満足感。


ワタシは今、真に幸せだ。

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