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11.クロエの場合②

〈クロエ・ルセル〉


ユリアンと出逢ってからのワタシはマトモではない。

その自覚もある。

それでも今ワタシは幸せだ。もうじきユリアンがワタシのモノになるのだから。

そしてワタシはユリアンのモノ。


くぁぁっ! 今直ぐにユリアンが欲しい。なぜこんなところで呑気に茶など飲んでいるのか!?

昨日ハンナの助力により幾分かの欲求処理ができはしたものの、ピーク超えして破裂しそうなナニカの圧が僅かにピーク割れする程度に低下しただけ。

まだまだこの身の内に煮え滾るナニカはより純度を高めながら蓄積し続けている。

本当にもう、どうにかなってしまいそうだ。

だがまだだ。ユリアンの両親の前で本能のまま荒振る姿を見せるわけにはいかない。勿論心友の前でも。

あ、心友にはもう見せちゃったからいーか。



近日中に本懐は遂げられるだろう。

しかし、我が魂の内に芽生えて今やその過半を占めているこの想念と衝動は減退することもなくこの身を灼き続ける。

ひと時満たされても直ぐに渇きに喘ぎひたすらに求め続けるのだ。

ユリアンなき現世になんの価値があるものか。

だからワタシは子爵に誓いを示したのだ。

狂っているというならばあの頃よりも前から取返しもつかない程に狂っていたのだろう。

それでも今、ワタシは真に幸せだ。



翌日の昼前、ユリアン一行に付き従う従者の1人が帰着の先触れとして帰参した。

昼過ぎ、子爵夫妻とハンナとワタシが正面玄関前に佇んでいる。

居間で待ってはどうかとの提案に対して、どうしても、僅かでも早く顔が見たいからと玄関先まで移動すると、何故か彼らも同行してきた。

さらに邂逅の刻を早めようと庭園の先まで進もうとして……庭園中央のロータリーの生け垣から幾人かの人影が現れた。


その人はワタシには薄っすらと光を放って見えた。

どの様に成長し、どのように変化しようとも見間違えるはずもない。ワタシのユリアン。

目があった。


展開済の空間魔導術を発動し、彼の眼前へ瞬間移動。全力で抱きしめた。

あぁ、いけない! ワタシの全力なんて、ユリアンが死んでしまう!

力を緩めると、ちゃんと無事なようだ。

力強く成長しているようで何よりだ。


彼の匂いで鼻腔と肺を満たしたいのを辛うじて踏みとどまり、どこかキョトンとしている彼にワタシの想いを告白した。

この後はもう止まれない。彼にも相応の覚悟が必要であろうから。


「ユリアン、あなたはワタシのものです。そしてワタシはあなたのものです。これより先は死するまでともに」


目を見開いてワタシを見つめるユリアン。


「そうなんだ」


そうポツリと言うと、一つ息をついてから


「とりあえず旅の汚れを落として……」


「ワタシはもう限界を超えてしまいました。せめてもの理性の発露として人前での行為は避けたいと考えます。一切の猶予なくあなたのお部屋へ参りましょう。反論は時間の無駄です、さぁ!」


湯浴みなどしたらせっかくの匂いが薄まってしまうじゃないですか!


ユリアンを抱きかかえて脚に風の魔力を込める。

僅かに宙に浮いた状態でユリアンの、いえ、ワタシ達の部屋へと駆け抜ける。

他者を抱えての空間転移には緻密な因子指定が必要です。

現況のワタシには不可能です。

武術の瞬動なども織り交ぜながら10秒ほどでワタシ達のスイートルームへと滑り込む。

最後の一欠片の理性を振り絞って部屋に防音と防御の結界を張る。

これはハンナの助言に従ったものだ。

もはやどんな邪魔も入らない。隕石の直撃にだって耐えうる結界はこの部屋をこの屋敷の全てから隔離している。


さぁ、始めましょうワタシ達の番としての……胸元に顔を埋め、吸う。

吸う。吸う。吸う。吸う……

意識が飛びそうになるのを鍛え上げた強靭な意思の力で抑え込みながら身体を起こしつつ肺の中身を静かに吐き出す。

そして一旦彼を俯瞰で見廻す。


おや? 着衣のままでも認識できるくらい股間部分に膨らみが。

以前からユリアンがワタシの胸や首ずじとかをチラチラ見ていたことは認識していた。

当時、幼児といえども生殖力旺盛な中人族ですものね。性的好奇心がワタシに向けられることがとても嬉しかったことを思い出します。

それが今や実用の域まで成長したのですね。なんて頼もしい。

何も考えず「ソコ」へ顔を埋めて一呼吸。

直後にユリアンの衣服を力任せに引き裂いて熱り立つ彼のソレを手にとり口吻したところで理性が吹っ飛んだ。


時折薄っすらとした意識の中でユリアンの叫び声が聞こえたり、溢れ出す体液を交えながらまるで溶合ったかのような高揚感に洩れ出る自らのうめき声を遠くにききながら何かを叫んでいるワタシ。

まだだ、まだ全然足りない。

もっと、ちょうだい。全部ワタシに、あなたはワタシのモノなのだから、代わりに全てを捧げるから!

もっと!!


満たされたと感じた直後にプッツリと意識が途切れた。



目が覚めたのは日が昇ったあとだった。

なかなかないことだが完全に熟睡していたらしい。

窓に向かって横臥するワタシの胸元に顔を埋めるようにしてユリアンが寝息をたてている。

この何気ない瞬間がワタシの胸の内に暖かいなにかを満たしてくれる。


ワタシは今、真に幸せだ。


昨夜のことを思い出してみる。が、あまり現実感がないというか、具体的なあれやこれやが今ひとつ思い出せない。

ああいうのをトリップというのでしょうか。

大きな街でたまに見かける薬物中毒の中人や獣人にそんな感じのがいましたね。

至り方に問題があるとしても彼らもまた幸せを求めたということなのでしょう。


でも記憶の欠片の所々にユリアンの叫び声というか嬌声というか、苦痛に喘ぐ様が散見されたような?


思い返せば齢11歳の少年を相手に、拳のみで若いドラゴンを叩き潰すワタシが手加減なしで襲い掛かりあまつさえ蹂躙しつくすという暴挙を合意の確認すらなく実行したのですから。


彼がいまこうして原型を留めて生きているのは奇跡なのではないでしょうか?


あぁ、なんということでしょう。ワタシは自分の劣情を彼に一方的に叩きつけ、全て満たされて自分だけが満足して悦に入っているだけのクズなのではないでしょうか?

もしも、もしもソレが原因で嫌われてしまったら、さらに怯えられてワタシを寄せ付けないなどということになったら……我が命を以て詫びよう。


ユリアンの側に居られない人生など要らない。

せめて死んで彼の心を晴らす一助となれることを救いとして逝こう。


それがたとえ恐怖であっても彼の記憶の中に生き続けることができるならばそれすらもまた本望。

ホラーじみてきました。


本作にお付き合いいただけそうならばブックマークとご感想を是非!

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