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115.狂おしき女

〈クロエ・ルセル〉


ワタシの予断がこの事態を招いた。


確かめていれば……早期にセバスを処断できた。それなのに、のさばらせた挙句マグダを危険に晒した。

何と言う愚か者であることか!


もしマグダに何かあれば……詫びのしようもない。

過信し、独善に堕した果てに……あの時とまるで変わっていないではないか!


ユリアンに死を選ばせたあの痛恨の時。

ワタシはあの事象から何も学んでいないというのか。


ユリアンに我儘を押し付けるだけの役立たず……ワタシは……捨てられるかも知れない。


もはや皇帝となり、国家の建て直しも順調だ。財も権力も……近頃は力も増している。

ワタシなど不要なのでは?


ユリアンに……捨てられ……ダメだ。

そんなのダメだ!


1年と保たずに心が死んでしまう。

いや、1週間すら保たないだろう。


考えろ。クロエ・ルセル。お前はもっと優秀なはずだ。

役に立つ女のはずだ。


この差し迫った事態を……全て解決し、より良い体制を築き上げるのだ。


………………………………………


よし、やるぞ。


「クラウディア!」


「はい」


「お前は影の扱いに長けていたな?」


「……そうですね。それなりには」


「反ユリアンではない影達の纏め役を任せる」


「まぁ! 宜しいのですの?」


「ああ、全員は揃えられんだろうが、出向かせた者達を中心に、新体制を構築せよ。エイダ!」


「はい」


「ルーメリアの資産と西部軍閥連合の資金を全て回収し、共和国を交えた経済圏を形成せよ!」


「え! 運用も一任ですか?」


「そうだ。ユリアンの為に力を尽くせ」


「はい!」


「ワタシは潜在的反体制勢力をほじくり出して解体または殲滅していく。さらにセバスらの勢力を集め処断を実行した後、国家の立て直しを漸次推し進める。二人とも、経済と情報管理は任せたぞ」


「「はい!」」



そこからは簡単だ。反ユリアンに反応するよう調整した緩めの審判を不可視で飛ばしまくり……反体制の芽を摘んで回った。


軍は屯所が分散していることもあり中々に面倒だが、やり抜く。

全てほじくり出して帝都に於ける憂いを一掃する。



おかしな影が接触してきた。

セバスの側近使いされていたリベルタという女だ。


「私の審判は如何でしたか?」


「白だな」


「……私は救世の御子様にお仕えすることを宿命とする一族の末裔にございます。セバスはその一族の本家の者です。ルーメル神聖帝国の影を取り仕切る家系でもあります」


「ほう、そんな血の者がユリアンを(たばか)り反乱をな。堕ちたものよな」


「全く持ってその通りにございますれば、せめて私は御子様崇拝派として活動しておりました。特にハンナ様ご懐妊におかれましては、セバスの指令を完全無視して独自の計画を進めて参りました」


「セバスの指令?」


「寝室に、いえ、ベッドに胎児を(しい)す毒を仕込み、御子様の子孫を根こそぎにすると……ヒッ!」


殺気が沸き立って……抑えよ。

いずれにせよ我が術式によりそんなものは効かぬのだから。


「……お前の計画とは?」


「はっ! セバスの影響下にない影を糾合(きゅうごう)し、セバスとその一派を殲滅しようと」


「集まったのか?」


「今はまだ途次(とじ)にて……来週には半数、約70名程は」


「間に合ってはおらんがな……良いだろう、その者らを率いクラウディアの元へ行け」


「クラウディア様ですか? 未だ娘子かと見受けますが?」


「エイダは軍略や商業、法治に中人族に於いて稀有なる才能を有している。そしてクラウディアは情報の取り扱いと管理、そして政治力が凄まじく高い。二人ともワタシがユリアンの為に吟味した側妃だ。委ねよ」


「ハハッ、それで……私は我が宿命を果たしたく。陛下の側仕えを希望致したく存じます」


右手でこめかみを鷲掴みにし、直に精神を視る。


嘘はない。だが、野心はある。ユリアンに……一目惚れ?

しかも此奴。両方持っているだと?

それはダメだろう……ん? 種はないと?

だがなぁ、奥へ異物を迎えては……


「私は睾丸がないので種はありません! 恐らくは孕むこともないでしょう。何も成せない半端ものにございます。ですが、陛下に……御子様にお仕えし、一族の悲願を果たしたく! 是非に、是非にお願い申し上げます!!」


む? 此奴、まだ秘した事があるな。


「セバスはお前のなんだ」


「父にございます」


「よいのか? 用済みになり次第セバスは殺すのだぞ」


「構いません。母へ種を提供した男という以外の認識は有りませぬ故」


「よかろう。お前を影の頭領とする。但し、クラウディアの指揮下にて補佐し、下命を全うせよ」


「はっ、謹んで拝命致します」


これでクラウディアが動き出せるな。




翌朝、帝城内の練兵場に集められたセバスと70名程の影と軍属、それにハンターなど。

軍属は既に幾人か粛清しているから、目減りしているのであろう。

そうか、確かにセバスは影と「武人」といっていたな。軍属とは限らんのか。ハンターも……


直ちに審判に掛ける。

おや? リカルダから聴いていた以外にも二重間諜がいるな。共和国と……ガイウス、宰相のもおるな。

うむ。こやつらは端へよけさせて……セバスがそろそろ限界だな。


敵対者、反目者は審判を負担とし、精神に異常を来たす。


「ぐぁ……不浄なるダークエルフなどに……操られるなど……御子は私のモノだ。私こそが御子を導き……我が一族に繁栄を! ……我が野心こそが御子の栄光を…………悪なる魔王め、お前を滅して私こそが!」


だいぶ煮詰まっていますね。

一応御子への忠誠らしきものも少しはあったらしい。

しかし、それは自らの野心を優先させた先にあるもの。

不浄というならその思考こそが不浄であろうに。


さて、ヘルガ型水槍を……


キュイィィィィィィィ………

ツィーーーーーーーーーーー

シパァン!


100余りに分化した触手の如くうねる水槍が対象者を無慈悲に貫いてゆく。

中には魔力無効を持つ者もいたが、それも貫いて……凄いな、この術式は。

僅かな魔力で最大効力を発揮する。

魔術でありながら魔導並みの威力。確かに魔導、魔術、魔法を分離して捉える意味などないのかも知れない。

ルサールカの言う通りか。


発動から数秒で事は済んだ。


「お前達、何故生かされたかは理解しているな?」


この中で特に強者だと思われる宰相の手駒が前に出る。


「わたしはマテウス配下のマルティンと申します。我が力量及ばず、此度の反乱に何らの抵抗も出来なかったこと、お詫び申し上げます」


「ガイウスが家臣、エリアスと申します。右に同じく……誠に恥じ入るばかりにて」


「ラーテルズ共和国、独立情報局のマチスと申します。国母様のお力となれず……役立たずな自分が許せません。どうか罰をお与え下さい!」


他の者らは此奴らの部下とリカルダの配下か。16人も紛れ込んでいたのに気付かないとはな。

セバス、有能なのか、無能なのか………


「よい。ワタシとてお前ら同様に大きな失敗をした。責める資格なき者だ。これより事後はリカルダに一任した。影の差配はクラウディアが取り仕切る。お前達は原隊へ復せよ」


「「「リカルダ!?」」」


「お前達の言いたい事は分かる。だがな、ヤツは心底御子の使徒だ。逆心なき身として仕えると誓約した。心配には及ばん」


釈然とはしないようだが、それ以上意見しようとはしなかった。



さて、次はマテウスのところだな。



既に解放され、城の執務室へと移り政務……と言うよりは事態の収拾に大忙しのマテウスを(おとな)った。


「忙しい中スマンな」


「いえ、とんでもありません」


「手短にいこう。まず、セバスはその配下共々処分した。あぁ、安心しろ。お前やガイウスの部下らは無事だ。残りの影はセバスの子、リカルダへ預ける。リカルダを頭領とし、クラウディアが差配となる。よいな? あとはルーメリアの資産と西部軍閥連合の資金だが、全てエイダの管理下に置き、西部から順に経済の建て直しに使う。これには共和国にも協力させる」


「思い切りましたな。しかし、側妃様方はもうそろそろお戻りになるのでは?」


「3月にな」


「ではそれまでは此方に?」


「そうだ。進級の実力測定は受けさせる予定だ。その後も年のうち半分は此方で政務に就かせる。ワタシは国内の反乱分子を潰して回る」


「それは……大変助かります。そちらは全く手が回っておりませんでしたので」


「お前は時折娘らに助言を。あとは内政と外交に力を注いでくれ」


「大変有難く。ところで陛下は?」


「西部へ向かった……その後のことは分からん」


「西部へは何を?」


「セバスの裏切りにより、マグダが危険だと……な」


「まさか……影の為に御身を敵地へ!?」


「それをユリアンの前では絶対に口にするな。ユリアンにとっては情を交わした……自分の女なのだ。其処(そこ)に貴賤などない」


「そのような……本当に陛下は民を民として見ていらっしゃるのですな。貴族、平民、影までもが皆同列であると」


「いや、ユリアンは自身と親しき者、情を交わした者、身内認定した者のみを特別に扱うのだ。それ以外は…………どうでもよいと思っている」


「あぁ、なるほど。それならば理解できますな……ならば、ブリュンヒルデもその内に入るのでしょうか?」


「多分な」


「有り難いことにて……あ、いや、陛下が単身敵地は何れにせよ一大事には違いありません!」


「待つしかあるまい。ワタシの足でも2日は掛かろう。向こうでソラと合流すれば帰参に1日も掛からん。それにな、ユリアンはだいぶ強いぞ? 心配など失礼にあたるくらいにはな」




翌日昼過ぎ、ソラに乗ってユリアン、ルサールカ、マグダが帰ってきた。


少しだけ心が軽くなった気がした。


「お帰り、ユリアン。マグダ、無事で何よりだ」


「クロエ、結果から言うとマグダは無事じゃないよ」


「……それは?」


「軍閥の拠点で罠に掛かり、身動出来ない状態で百を超える男達に凌辱された」


な……んだと?


ワタシの妹が凌辱を受けた……百を超える? 馬鹿な……ワタシなら生きていられない……マグダが

そんな辱めを受けていた時ワタシは何をしていた? 自らの保身の為に策を弄そうと……くっ、あぐぁ、ワタシは何と言う……クソなエルフなのだ!


ワタシはマグダの前に(ひざまづ)き、マグダの脚に(すが)りつきながら謝罪した。

悔恨(かいこん)の涙を流しながら……


「すまない! マグダ……浅はかなワタシのせいで……マグダ……を、苦しめて……辛かろう? ユリアン以外の男になど! ぐふぅ、ワタシなら耐えられない……それなのに、くっ……すまない……すまない……」


「クロエ様、良いのです。確かに暗闇の底に沈み込んで……世を恨み憎しみに身を焦がしました。でも……ユリアン様がその闇からすくい上げて下さいました。闇を我が力となし、ヒューマンから外れた存在となり……ユリアン様の眷属となれました。今の私である為に必要な試練であったと割り切れております。ですから、お顔を上げて下さいまし」


……ユリアンの眷属?

中人族が?

顔を上げてマグダを視る。

耳が変形して……精霊の特徴を。

金の瞳に黒く艷やかな髪。

顔は変わっていないようでいて……明らかに若く美しくなっている。


「……キレイ」


「はい。ユリアンにもお褒め頂きました」


この子は乗り越えたのだ。

自尊心や恋心、ユリアンへの忠誠、ありとあらゆるユリアンへの想いを踏み躙られ、もう触れ得ないとも思っただろう。

しかし、ユリアンにまたしても救われたのだ! 下賤とされる影が高貴なる者に(なさけ)を頂き、直に仕える高揚感。

そこから叩き落とされ、踏み付けられて筆舌に尽くしがたい凌辱を受け、もう死を願ったであろう状態から……救われたのだ。


想い人に。


そして魂が繋がる程の歓喜を経て眷属に至った。


羨ましいと思った。思ってしまった。


なんと恥知らずなことか!


再び涙が(こぼ)れた。

どうしようもなく情けない、愚かな自分を……憐れんで泣いた。



狂ってしまう?


いえ、とうに狂っていたのですね。

ユリアンに出会ったあの時から。



ワタシは狂っている。

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