112.三人目の眷属
〈マグダ〉
ルサールカ様にグラルブルグ壁内まで運んでもらい、別れた。
今は午前3時頃であろう。時期毎の星の位置から大体の時間は分かる。
ここには8人もの影が配属されている。現侍従長のセバス様からの情報だ。
あまりあてにはできんがな。
さて、奴等の計画通りならば軍閥は帝都に向けて出張っており、ここには留守部隊がいくらか駐屯している程度ということになるが……これも当てにはならんな。
全て自分の目で確かめよう。
まずは本部を見つけねば。
とは言え領主屋敷であろうがな。
ここの地図は頭に入れてある。迷わず裏通りを進む。
隠形と知覚強化を併用し油断なく、速やかに……屋敷に着いた。
歩哨がおり、警戒は常ほどにはしているようだ。
だが、人の気配は少ない。この街も反乱対策で淘汰された街だから、軍属以外は居ないはずだ。
主要部隊が出撃しているのはどうやら本当らしい。
虚を突き門衛の脇をすり抜けて敷地内へ入り込む。屋敷に取り付き、集音……気配探知。
最低限の人員しかいないようだな。
窓のロックを解除して屋敷内部へ。足跡も残さぬ歩法で家長の書斎を探す、当たりをつけて2つ目の扉を開くと、どうやらここのようだ。
人が忍んでいる気配はない。
求める書類は中枢に居残る裏切り者のリストだ。
ルサールカ様も情報提供者のリストを手に入れたようだが、こちらはこちらで別勢力だからな。
出撃しているとなると、かなりしっかりした隠し方をしている可能性が高い。壁と床を特に入念に調べる……音が違う。これだな。
壁周りに仕掛けがないか探していると階下に人の気配が感じられた。見廻りか? 鍵穴に鍵が挿し込まれる音がするまでは動ける。
そういえばここにいる影の中に同期の男がいたな。こうした仕掛けを解除したり作ったりを得意としていた。
やたらと慣れなれしい男だったな。房術の修練をさせて欲しいと何度もきたが、全部断った。
なんだか生理的に受け付けない男だったからだが……
ゴウッ!
なっ!? 炎が……
気が付くと……これは……おそらくはテーブルの上にうつ伏せにされ、両腕は両端に引っ張られた状態で縛られている。足は床に付いているが、テーブルの足に縛り付けられているようだ。
ふむ、裸に剥かれているな。
炎に焼かれた痛みは中々のモノだ。特に頭部が酷い。
『ルサールカ様』
『…………』
頂いた髪の毛も焼けたか。
足のは剥かれたときにでもはずされたな。
さて……気配があるな。5…いや、6人か。……影だな。
流石に打つ手が……ないこともない。
「やぁ、マグダ。久しぶりだね」
「……アロンか?」
「そうだよ、同期のアロンだよ」
「なんか用なのか? こんな招きをして」
「そんなに激しい火傷を負っていてもその口の利きようとはね。流石だよ筆頭殿」
「古い呼び名だな、あまり好かんのだが」
「では未亡人の方がいいかな?」
「「「未亡人!?」」」
「未亡人ってあの不可能任務遂行者とも云われる最多暗殺者か?」
「そうだ。未亡人製造機が転化して未亡人だ。まぁ、女も沢山殺しているのだかね」
「共和国や東の小国群ではつとに有名だよね。正体不明の恐怖の影。スゲェ、本人に会えるなんて」
「手を自由にしてくれたらサインを書いてやるぞ?」
「へぇ、キミ、冗談言えるようになったんだ。驚いたよ」
「そういう理解がないと勤まらない職場なんでな、今は」
「へぇ、何処なの?」
「ここから先は有料だ。大金貨10枚よこせ」
「本当に変わったね……じゃあさ、昔の様に真面目一徹なマグダに戻れるように再教育してあげるよ」
「まずは僕らを満足させてもらおうかな。あぁ、ワクワクするな。キミは僕とは房術の修練をしなかったよね? さぁ、始めよう。あの頃出来なかった修練をさ」
全員に複数回犯され、更に外部から呼び込んだ兵士らにも代わる代わる犯され続けた。
途中、口へ性器を捩じ込まれた際、噛みちぎってやったら、歯を全部折られた。
目を潰され、手足の指を全て潰され、千切られ、焼かれた。
影としての再利用など微塵も考えていない拷問。時折所属や任務内容を問われるが、応えはしない。
まぁ、歯がないから話しても聞き取れないだろうがな。
身体の欠損についてはクロエ様やユリアン様、ルサールカ様が再生してくださる。
しかし……こうも凌辱の限りを尽くされては……口、尻穴、女穴……全てが穢れている。
こんな処に陛下の……ユリアン様の性器を挿入して頂くわけにはいかない。
ユリアン様に穢れが移ってしまいかねない。
もしも、生き残れたとして、最早ユリアン様のお情けを頂戴出来る資格がない。
むしろ触られてはならない。
あぁ、自らユリアン様を避けねばならぬとは……
この先、あの種がいただけないのか。
私は生きていけるのだろうか?
任務で娼館に娼婦として勤めたことがある。
奴隷として変態に買われ、誰にも言えないことをされ続けて精神を病みかけたこともある。
偏執狂の同性愛者に囲われて人ではなくペットとして数ヶ月もの間飼われたことも。
私は元より汚れていたし、穢れてもいた。
だが、ユリアン様に愛でられ、優しく抱かれ、必要とされて私はどうしようもなく変わってしまったのだ。
ユリアン様以前は必要だったからしたこと、だが、ユリアン様以後は……あってはならないこと。
ユリアン様の種を受けた我が身が他の男に抱かれるなど!
赦さん!!
この屈辱、この不浄、この怒り!
貴様ら全員殺す。そして……私も死のう。
ユリアン様に触れられない人生などもう要らない。
早々に終わらせなければ。
多分狂ってしまうから。
何十、何百の男共に犯されようとも気狂いはせぬ。
だがたった1人のお方に触れられないことが私を狂わせるだろう。
あぁ、死ぬならばユリアン様に刺し貫かれて死にたい。
その死はきっと私にとっては歓びであろうな。
……………………………
まだ終わらぬ……闇の底に私はいる。
闇は触れられるほどに濃厚で濃い。その中に沈み込んでいく。頭のてっぺんまで呑み込まれてソコで息をする。
肺に胃袋に闇が入り込み染み込んでゆく。
起死回生の策は歯に仕込んだ薬物であった。これを霧吹きして宙に舞わせ……と言う目論見は歯を全て折られたところで潰えた。
生きて陛下の、ユリアン様の元へ帰るという約束が果たせない自分が赦せない。
凌辱を受け続け反撃もままならない自分が赦せない。
無力なままただ闇に沈み込んで尚、何も出来ない自分が赦せない。
おのれ、おのれ、おのれ!
我が闇よ! 力となれ! 我が刃と化して陛下に仇なす者達を貫き殺せ!!
凌辱が止んだ。
僅かな呻き声だけが微かに聞こえる。
五体に神経を巡らせるが、拘束を解く手立ては思い浮かばない。
大量に注ぎ込まれたクズどもの精液が尻や女の穴から漏れ出すのが感じられたのみだ。
止んでみて改めて思う。
穢されたのだと。
もう、愛しき方に触れ得ぬのだと。
不意に涙が溢れた。我が身の不幸を想い涙するなど……本当に影失格だな。
……何かが駆けてくる。速い。扉が吹き飛ばされたような激しい音がする。
「マグダ!」
まさか……陛下? ユリアン様のお声? そんな訳は……もしも陛下ならばお諌めしなくては。こんな場所へ来てはならないと……
「クソどもがぁ! オレの女にこんな……皆殺しにしてくれる!!」
え? 目は潰されて見ることが出来ないはずなのに、ボンヤリとユリアン様から噴き出す濃厚で濃密なる闇が感じ取れた。それに「オレ」?
拘束が解かれ、抱きしめられた。あぁ、なんと安らぐのだろう。なんと幸せなのだろう。でも……私にはその幸せを受ける資格がない。
なくしてしまった。
身体が急速に癒えていく。指が、歯が、髪の毛が生えて、耳や眼球が再生されてゆく。
そして胎内や腸内に滞留していた穢れが消え去るのが感じられた。
薄っすらと目を開けると、そこには我がユアハイネスがお美しいお顔そのままに憤怒の相を顕にしておられた。
頭上の天井が建物ごと吹き飛ばされた。
私を抱き上げたままユリアン様が凄まじい速さで上空へと舞い上がる。
地上を睥睨するように睨みつけるユリアン様。
陽の光射す中天より幾分西へ寄る太陽が不可視となる暗闇に包まれた。いや、全天が闇に覆われている?
「クソッタレどもに絶望と死を!」
闇が無数の触手の如く伸びて地上に降り注ぐ。
生命が次々と奪われていく様を感じる。
私を凌辱した者達も次々と死んでいくのが感じられた。何故だろう? 身体が繋がったからか?
アロンも……死んだな。
それにしても……おそらくはさっき私が発した闇の力? それを数万倍、いや、もっとか。凄まじく倍化させた闇の力で地上を蹂躙し尽くす。ユリアン様は……もはや人族では抗えない領域にある。
ハンナ様が仰っていた。ユリアン様は神であると。
なるほど。ユリアン様は神だ。
地上の街から全ての生命が消失した。
瞬時にして全天の闇が消え去り再び陽光が降りそそぐ。
ユックリと地上に降り立ち、オープンテラスのレストランの椅子に私を座らせた。
「すまなかった。オレがこんな調査を頼んでしまった為に……お前をこんな目に遭わせてしまった……辛かっただろ? 悔しかっただろ? オレのせいで……すまない」
「お顔を上げて下さい陛下。我が身は影です。任務の為にはこの身を売ることも御座いました。陛下にお仕えする前にだって数え切れない数の男や女に抱かれて参りました。今更それが百やそこら増えたことろで……」
「じゃあなんでお前は泣いているんだ? 苦しげな顔をして……泣いているじゃないか。オレはな、知らない奴等がどうなろうと気にはしない。だが……自分の女が辛いなら、苦しいなら、その元を取り去り笑顔にしてやりたいと……幸せにしてやりたいと……それはオレの義務だ。そしてその笑顔がオレの幸せなんだよ」
「……」
泣いている?
沢山殺し、沢山不幸にしてきた、故に未亡人などと渾名された私が……泣いて……
気づけば嗚咽をしながら陛下に縋りつき泣いていた。
陛下に強く抱きしめられて……更に声をあげて泣いた。
だが…………
「陛下、我が身は陛下に触れて頂くには汚れ過ぎました。どうか捨て置き下さい」
「……お前はしなやかで綺麗で気配りができるいい女だよ。オレの自慢の女の1人だ」
「でも、穢れて、汚されて…………無数の男達の種を注がれて……死にたいです」
「勘違いするな。お前はオレのモノだ。勝手に死ぬなど許さん。お前はオレの女として生きて、オレの女としてその生を終えるんだ。最低限、子を1人でも成してな」
子を成す? 影たる我が身が? 畏れ多くも陛下のお子を?
そんなこと……
「お前は家名を持たなかったな。オレが授けよう。今よりお前の名はマグダリア・エルフィネス・ルセルだ。オレの、皇帝の妻として誇り高く生きよ。そしていずれは母となれ」
陛下の……姓を? 私などが?
そして母に……夢のような?
そんなことある訳が無い。
だって……だって私は下賤で蔑まれし影で……
「かぁ、滾ってきた! 改めてオレの種を注いでやる! 受け止めろ」
有無を言わせず接吻する陛下。
全身に隈なく舌を這わせてゆく陛下。
陛下に舐められた場所がまるで浄化されてゆくような気配を感じる。
それと同時に私の女の穴から止めどなく蜜が溢れる。
高まる。何処までも高まる心と魂。
そして快楽はどこまでも膨らみ……
挿入された。
膨らみは爆裂したが如くハゼ散り、熱く、なお暖かく我が身を包み貫く!
私は叫ぶ。意味など分からない。魂からの叫び声を上げる。
やがて高まりきったソレは天に向かい突き抜ける!
今、繋がったのが解った。
私は陛下、いえ、ユリアン様と魂の一部を共有する眷属となったのだ。
我が子宮に注ぎ込まれる奔流と共にユリアン様の記憶が流れ込む。
あぁ、この方も絶望を知る、後悔を抱える只人だったのだ。
覚醒せし賢者にして絶対者とも言える力をお持ちでも……人なのだ。
なればこそ、私達がお支えしなければならない。
そして私達は欠けてはならないのだ。この方の心折らぬ為に。
そんな負担とも言える主の可愛い女達の……1人に私は既になっていたのだ。
誓いましょう。
誓います。
私は貴方の為にのみ生きると、貴方の為にのみ死ぬと。
穢れは晴らされた。この身はこの先ユリアン様だけのもの。
あぁ、この誓いと覚悟が、我が魂にさらなる悦びを、歓喜を齎す!
おぉ、神よ!
我が魂を救いし唯一無二たるお方。
我が神ユリアン・エルフィネス・ルセルよ!
我が永遠を捧げましょう。
死した後も貴方と共に。




