104.未亡人の誓い
〈マグダ〉
影になるにあたって女を道具として使うのは当たり前のことだった。
避妊の術式を掛けられ、房術ってやつを仕込まれた。
男達も同性愛者用の房術を仕込まれていたし、どっちもどっちだろう。
仕込みで処女を装うことも出来る。どんな男でも落とせたし、女も落とした。
顔は仕事に掛かる前に変えていたし、元の顔でいることなど殆どない。
だから以前仕事で誑し込んだ相手と鉢合わせしてもなんら慌てることもない。
暗殺は散々やったし、諜報活動もたくさんやった。
いつしか未亡人の二つ名が付けられた。
二つ名の方は他国でも有名だ。あまりいいことではない。
とは言え、わたしが身ばれすることなどあり得ない。
そんな裏方専門の影を戦地へ戦闘補助要員として派遣すると聞いた時は耳を疑った。
国内事情を鑑みるに……末期だと思った。
だが、そこで運命の出逢いをした。
惚れ惚れするほどに絶望的な強者と何度も戦わされ、殺されかけ、生かされ、惚れた。
初めてだった。世にいう初恋というものか?
紆余曲折あり、初恋の君に直に仕えることが叶い、さらに陛下のお情けをも頂戴することに。
最底辺が天辺に抱かれる?
しかも乱れた我が君がさっきまで番っていたソレに……間接的なまぐわいと言えなくもない。
これまでの人生、性的な高まりなど、感じたこともない。なのにこの日この時は自然と自慰をしてしまっていた。
陛下の体臭はわたしの「女」を狂わせた。
どのような場面でも理性を保つ訓練を積んだし、薬物でも毒物でもわたしの理性や意識を完全に奪い去ることは出来ない。
なのに陛下のソレはわたしから理性を奪い去ったのだ。
そして絶頂の記憶だけを残した。
わたしは今でもハンナ様の忠臣だ。クロエ様のおっしゃるとおり全てを捧げている。
しかし、陛下……ユリアン様は……神に近しいお方なのだろう。
実際、ハンナ様はそのようにユリアン様を見ていらっしゃる。何しろ救世の御子様でもある。
ハンナ様の神に揃って抱かれる数奇なる運命。そして悦び。それだけで充分だったはずだ。
それなのに……知ってしまった。
睡眠中のユリアン様から頂いた種。それが放たれた瞬間の意識が飛ぶほどの快楽とその後の歓喜。
子宮内にユリアン様の種が存在する幸福感は何物にも代えがたく、初めて生まれ、生きてきたことが全て肯定できるほどに満ち足りていた。
しかし、それは常にあることではない。何故? 原理は?
根底が分からないと再現が出来ない。この先アレを渇望し、飢えるのは間違いないところだ。どうすれば……
クロエ様があっさりと推論を導き出した。
ソレをユリアン様の眷属と化した「大精霊様」が肯定した。
我慢が必要だと結論した以上、上の許可があるまで待機だ。
我が心身は……特に精神は極限まで鍛え上げ、忍耐は肉体の欲求を上回る。なのに……
一晩目から荒れた。
あんなもの、知ってしまったらもう、ナシで生きるなど不可能だ!
今だ! 今欲しい!!
それなのにユリアン様はさっさと寝てしまわれた。
眼の前で話し、動いているのはルサールカ様だ。仮にルサールカ様に抱いてもらってもあの頂きには至れない。
あぁ、荒れるこの気持ちは……クラウディア様へぶつけましょう。
ルサールカ様とともにネチネチとイジメて、軽めの拷問にも掛けます。
なんでもしゃべるので面白味が全くない!
今更ヴァン・ヘルムート王国の核心的機密など知っても無意味です。
それに今は仕事中ではない!
モンモンとしていると、後ろからベアトリクスが来て「貴女にも突っ込んであげる」といい、アナルへ突き入れられた。
既に経験済だし別にどうということは……このエクスカリバーはユリアン様を模しているだけあって、中に感じる形状が正にユリアン様。
意外とよい。
その後もみなが鬱憤晴らしでもするかのように暴れるが如く夜を過ごした。
翌日はユリアン様のハンター採用試験があります。
ユリアン様がハンナ様に劣らぬ強さなのはあの戦場で見て知っていますが、極級と模擬戦?
簡単に勝ちました。実力差が有りすぎて話しにならないレベルです。
続いてヘルガ様も簡単に特級ハンターの魔道士を打ち破り、お二人共が上級ハンターとおなりです。
初登録で上級なんて初めて聞きました。やはり凄いお方です。
そして我慢の二晩目。
皆の目が半分くらい正気を欠いているような……
恐らく……昨日のアノ快楽を知らなければここまで煮詰まることも無かったのかも知れない。
安息日というユリアン様の為の制度だって一応は存在したのだし、少なくとも一晩の我慢なら皆様なさってきたはず。
それが……アレを知ってしまった。
アレはわたしが知る中でも最悪と云われる、敵捕虜馴致用にも使われる麻薬にも比肩するか、それを超えるかも知れない効果がある。
いや、実際に投与された経験があるわたしにはそれを超えるとの実感がある。
その薬を得る為ならば、なんでもするようになる。仲間の情報など垂れ流しだ。
しかし、わたしはそれに耐えた。
あらゆる欲心を抑え込む訓練をし、任務のためには合理も捨てる。
あらゆる薬物をこの身に受けて、少しの肉体改造と精神力だけで克服してきた実績。
それが……崩壊寸前だ。
ユリアン様の種をこの身に頂くなど本来あり得ないのに、ソレを体験してしまったわたしはもはやユリアン様から離れられない。
いったい何日間我慢できるのだろうか?
今夜をのりきれるのかも怪しい皆様よりはもつだろうが……精々1週間といったところか。
あぁ、皆様が猛っておられる。
その辛さ、切なさ、苛立ちをクラウディア様にぶつけて……あ、クロエ様! それ以上はいけない!
腕を握り引き寄せただけでクラウディア様の腕が千切れかけている。
ハンナ様は比較的理性を保っておられますが……ベアトリクスが後ろから舌を捩じ込まれて悲鳴をあげている。あれはイキ地獄というやつか。
イッている最中に更に被せてイカされる。何度も何度も……
狂ってしまわないか?
あらゆる体液を噴き出しながら意味不明な叫びを上げている。
まぁ、ヤツにとっては本望だろう。
一番理性が残っているわたしは庇護的観点からもヘルガ様とエイダ様を片手ずつでお相手している。
わたしは女相手の房術も高レベルで会得しているからな。
ん? 2人ともグッタリしているな。
あ、わたしもやり過ぎたのか。
しかし、手指が止まらない。
イカせてもイカせても……コチラも体液を辺りに撒き散らしてしまっている。
フフフ、わたしは冷静だ。
状況が見えている。
あぁ、イキたい。ユリアン様の種を……
「「ヒグッ!」」
あ、またイッた。
狂乱の夜はふけてゆく。
翌朝。
別に寝不足と言うわけでもない。だが寝起きの気分は最悪だ。
「みんな、おはよう」
ユリアン様からのおはようの声掛け。しかし誰も返答をしない。
わたしもだ。
「2日間休めたお陰でずっと抱えていた下腹部の鈍痛がスッカリ引いたよ。今夜は宜しくね」
…………暗闇の中にいた。
この世に生を受け、影として育てられ、私心を持つことを許されずにただ禁欲し、命じられるがままに生きてきた。
わたしには「私」というものが無かった。
先ずそれをくれたのはハンナ様であった。
女としての悦びを与えてくれたのはユリアン様であった。
そして今……生きている意味と生の悦びをユリアン様から……主から授かったのだ!
その固有名は……希望。
貴方様に捧げましょう、ハンナ様同様に全てを。
貴方様に尽くしましょう、全身全霊を以て。
そうできることこそが我本懐であり我人生そのもの。
神よ! 我に過酷なる定めを負わせ見過ごしてきた無為なる創造神よ。
わたしはこれより眼前におわします我が主にこそ帰依し、お仕えするのだ。
国ではなく、教会ではなく、組織でもなく、ユリアン様に。
なんと甘美なることか……真なる主を持った我が身の受けし祝福よ。




