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第08話 難民

 翌日、顔を腫らしたグレッグと大工仕事をしているとガロンが町の入り口で大声を上げた。俺とグレッグは作業を中断し急ぎガロンの下へと駆け付けた。


「どうしたガロン」

「何者かが村に近付く気配がある。数は七人」

「七人ねぇ。賊か? 久しぶりに門番らしい仕事がきたか」


 ジョブを狩人に変え七つの気配が近付くのを待つ。


「来たぞ。ん? あれは……」

「ま、待ってくれ! 私達は敵じゃない!」

「あん? 隣村の奴じゃねぇか?」


 俺達は武器を下ろし手を上げながら近付く七人を見た。七人全員痩せていてボロボロ、中には怪我をしている者もいた。グレッグが先頭の男に問い掛ける。


「おいおい、その怪我は何があったんだ?」

「盗賊だ。俺達以外全員殺されちまったんだ! あんたも怪我してるじゃないか。盗賊は先にこっちにきたのか」

「いや、これは違……」


 俺はグレッグの頭からポーションをかけ男に言った。


「夫婦喧嘩ですよ。どうぞ、ポーションです」

「い、いやいや! そんな高価な薬をもらうわけには!」

「自作なので遠慮はいりませんよ。痛いし疲れているでしょう?」


 男は涙を流しながら怪我人分の回復用ポーションとスタミナポーションを受け取った。


「飲んだら長の家に向かうぞ。詳しく話を聞かせてくれ」

「私だけで良いか? 子ども達は休ませてやりたいんだ」

「ああ、構わん。リヒト、あっちの木陰で休ませてやってくれ。ガロンは引き続き警戒だ」

「わかった」


 グレッグが村人の代表を長の家に連れていき、ガロンは村の入り口で警戒を続け、俺は三人の子ども達を村の中央にある大樹の木陰に連れて行った。


「よく無事だったね。お腹空いてない?」

「だ、大丈夫……あ」


 女の子のお腹から食事を催促する音が鳴り響く。女の子は十歳前後だろうか、顔を真っ赤にしながら腹を押さえた。


「ご、ごめんなさいっ」

「いや、大丈夫大丈夫。ちょっと待ってて」


 俺は急ぎ借家に戻りパンと野菜スープの鍋を運んだ。


「最近自炊を始めたんだ。良かったらどうぞ」

「お、美味しそう」

「に、兄ちゃん! これ食って良いの!?」

「もちろん。全部食べて良いよ」

「あ、ありがとうございますっ!」


 八歳くらいの男の子が食べ始めると六歳くらいの男の子も食べ始め、最後に女の子がスープに口を付けた。


「お、美味しい……。私が作るより美味しいかも」

「美味い! 三日ぶりのちゃんとした飯だ!」

「はぐはぐはぐはぐっ!」

「三日ぶり? そんなに食べてなかったのか」

「「おかわり!」」」

「わ、私も……」

「ちょっと待っててくれ。今作ってくるから」


 スープ鍋は空になってしまったので空の鍋を借家に運び急ぎホーンラビットの肉と野菜を炒めた物を運ぶ。


「おっと、味付けを忘れずにと」


 最後に川釣りに行った際に見つけていた岩塩と胡椒もどきから薬師のスキルで抽出した調味料で味を整える。


「作り過ぎたかな? 余ったら大人達にもあげよう」


 出来上がった料理を三人に運ぶと物凄い勢いで食べ尽くしていった。


「めちゃくちゃうっめぇぇぇぇっ! 兄ちゃん料理人かよっ!」

「あ、味が絶妙です! 私も料理人だけどこの味は出せませんっ」

「はぐはぐはぐっ!」

「す、凄い勢いだね」


 ちなみに料理人のジョブはグレッグの奥さんから学ばせてもらった。この村では塩での味付けが主だったがグレッグの奥さんはそれでも美味しい料理を出してくれたのでまさかと思いジョブ一覧を見たら料理人が追加されていた。それから最近は自炊を始めていた。まさかこんな事態になるとはやっておいて良かったと思っている。


「ご、ご馳走さまでした。美味し過ぎてつい食べ過ぎちゃいました」

「兄ちゃんの分まで食べちゃった! ごめん!」

「いやいや、大丈夫だよ。じゃあ話を聞かせてもらおっかな」


 落ち着いた所でガロンの近くにいる三人の大人を見るとこちらを羨ましそうに見ながら干し肉を食べていた。


「四日前の夜に盗賊が村を襲撃してきたんです」

「ふむふむ」

「私達は慌てて何も持たずに村から逃げ出し森に入りました。そこで逃げ出した村の人と合流してここに」

「みんなは家族じゃなかったんだね」

「は、はい。親は私達を逃がすために盗賊達に立ち向かって……うぅぅっ」


 女の子は涙を流し始めた。男の子二人も思い出したのか泣いている。


「……そっか。辛かったね。もう大丈夫だから安心して」

「うっ……うぅぅ~~っ!」


 三人が落ち着くまで泣かせているとグレッグが長と男を連れて戻ってきた。


「おいおい、泣かせんなよリヒト~」

「ち、違うって! 話を聞いてたら思い出したのか泣いちゃったんだよ!」

「す、すまない。この三人の親は村を守る衛士だったんだ。私達を逃がすために勇敢にも立ち向かってくれたのだ」


 男は涙を流す三人を抱きかかえた。


「リヒト、大工作業は延期だ。盗賊はここにも来るだろう。対策会議を開くぞ」

「わかった」


 全員でガロンの所に向かい大人三人を引き連れ空き家に向かった。空き家二つを逃げてきた隣村の七人に貸し出し休ませたあとで俺とグレッグは長の家に向かった。


「さて、話を聞いたところ盗賊は十五人いたそうじゃ」

「多いな。襲撃で何人か減っただろうが……」

「うむ。倒していたとしてもニ、三人程度じゃろうな」


 つまり残る盗賊は十ニ、三人か。


「どうする長、村を捨てて逃げるか?」

「冬が近い。それに収穫が終わったばかりじゃ。食糧を捨てて逃げ出すにはもったいないじゃろう」

「盗賊達もそれがわかってっからこの時期に動き出すんだよなぁ」


 どうやら村を捨てない方向で抗うようだ。俺は冷静に二人の話に耳を傾けた。


「この戦えるのはグレッグ、ガロンだけか」

「俺もいますよ」

「いや、しかし……」

「皆さんには世話になってます。そして策もありますよ」

「あん? 策だと? リヒト、お前この状況をどうにかできるのか!?」


 俺はニヤリと笑って見せた。


「もちろん。誰も怪我をする事なく盗賊達を捕まえる策があります。聞きたいですか?」

「……聞かせろよ。その策ってのをよ」

「ワシも聞きたいのう。村一つ潰せる盗賊団を無傷でどうにかする対策をのう」


 俺は一度借家に戻りアイテムを片手に自信満々で長の家へと戻るのだった。

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