第71話 東の都
町に出た俺とアヤメは延焼を免れた店に入りねぎらいあった。
「リヒト殿、改めて私からも礼を。ジパンのために尽力していただき感謝します」
「いいって。ジパンには美しい国のままでいてもらいたいしね。それに……新たな力も手に入れられたし」
アヤメは顔を近づけ声を潜め尋ねてきた。
「ではやはり若のジョブを……?」
「ああ。殿様は特殊職とか言ってたけど普通に派生職だったよ」
「今はまだなれないのですか?」
「ああ。多分時空魔導師が足りないんじゃないかな」
「なるほど……。ジパンには時空魔導師はおらぬゆえ……旅立たれるのでしょうか?」
「そうだね。魔族だってジパンだけにいるわけじゃないし、大陸に戻るよ。エリンの迷宮もまだ攻略途中だしね」
アヤメはいきなり手を握ってきた。
「アヤメ?」
「ジパンに残ってはもらえないでしょうか」
「な、なにいってるんだよ」
「……私はっ、これからもリヒト殿の傍にいたいのです! リヒト殿の民を救うために力を振るう姿に惚れました! どうかジパンに残って下さい!」
アヤメの顔は真っ赤だ。俺自身ここまでストレートに告白されたのは初めてだ。アカネは美人だ。馴染み深い黒髪だし食の好みも合う。目的がなかったら頷いていたかもしれない。
俺はアヤメを真っ直ぐ見ながら言った。
「アヤメ。俺はまだジパンに残るわけにはいかない」
「……っ! そう……ですか」
「アヤメも知っての通り、ヤルダバオトが与えた損害は大きい。Sランク冒険者はほとんど亡くなった。それにエリンには世話になった人も多い。恩返しじゃないけどさ、エリンが落ち着くまでは手を貸したいんだ。それに……」
俺はヤルダバオトとの戦いを思い出した。
「ヤルダバオト……。あいつまだ生きてるんじゃないかな」
「え? い、生きてる? そんなバカな。リヒト殿と兄上の攻撃を受け灰になって……」
「そう、灰になったんだよ。魔族を倒した時は塵になってその場で消えたんだ。でもヤルダバオトは灰になって風にのり飛んでいった。消えずに飛んでいったんだよ」
「そう言われれば……」
俺は確信している。ヤルダバオトは生きている。
「アレは確実に消さなきゃならない。生きているなら探し出して今度こそ倒す。国一つ滅ぼすような奴だ、もし生きているなら大変なことになる。そこでだ」
アヤメを真っ直ぐ見て口を開いた。
「俺はエリンに戻る。アヤメにはギンジさんと同じ退魔師になってもらいたい」
「わ、私が退魔師に?」
「ああ。ギンジさんは軽々と国を離れるわけにはいかないだろう? だからアヤメが退魔師になって俺に力を貸して欲しい」
「……わかりました。そうすれば一瞬にいられるのですね?」
「あ、ああ」
俺の手を握るアカネの手に力が籠もった。
「そうとなれば一刻も惜しい! リヒト殿、帰られる時には必ず我が家に起こし下さい。では!」
「あ。行っちゃったか。会計まだなんだけどな。ま、いいか」
高級寿司店で会計を済ませた俺は港へと向かった。
「あの黒い船まだあるんだ」
黒い船を幕府の調査員が取り囲み立ち入り禁止にしながら調査していた。
「あの、何か見つかりましたか?」
「ん? なんだお前は。ここは幕府の人間以外立ち入り禁止だ。教えるわけないだろう。立ち去れ」
「バ、バカ! その御方はリヒト殿だ! リヒト殿、よくぞいらっしゃいました。ささ、こちらへ」
「あ、あぁ」
調査隊の上役だろうか、俺を見つけて駆けてきた。俺は彼と共に船に乗り込んだ。
「未だ調査途中ですが船室から今回の襲撃に関する計画書が発見されました」
「け、計画書ですか。そんな物を残すなんて」
「えぇ。ですがこの計画書があるおかげで被害にあった場所が割り出せます。愚かだとは思いますがこちらとしては大助かりですな。はっはっは」
計画なんて普通頭に叩き込むものだろうに。
「復興にはどれくらいかかりそうなんですか?」
「現地を視察してみないことにはなんともねぇ。しかしまぁ、心配はいらないでしょう。戦が終われば新撰組の手も空きます。二年から三年で形にはなるでしょう」
「そうですか。大変でしょうが頑張って下さい」
「ありがとうございます」
船を降りた俺は少し歩きながら考えた。
「今回の件……ヤルダバオトは関係してないみたいだな。復活に時間かかってるのかな。切断師の情報が渡らなかっただけでも良しとしておこう。ん? あれは……市場か!」
少し先に市場が見えた。全力で向かった市場には朝揚がったばかりだろう海産物が売られていた。
「らっしゃ──って兄さん! 魔族の野郎ぶっ倒してくれた兄さんじゃねぇか! いやぁ、助かったぜ」
「いえいえ」
店先には貝類に海老、ウニが並べられている。
「あの、これ全部下さい」
「全部!? そんなに買ってどうすんだい!? 腐っちまうぜ?」
「マジックバッグがあるので。実は仲間が大食いでして」
「はぁ~。しかしよ、あまりまけてやれねぇぜ? こっちも家燃えちまったからなぁ」
「もちろん定価で構いませんよ」
「助けてもらったのにすまねぇなぁ」
それから町の住民の迷惑にならない程度に食材やら調味料を購入し御剣邸へと戻るのだった。




