第70話 魔族が求む力
アヤメの傷を治していると白髪の男が声を掛けてきた。
「助かった。君がリヒト殿だな。娘から話は聞いているよ」
「あ、はい。俺がリヒトです」
「間違いないな? あの技は隠神刑部の技、化けてないよな?」
「父上! 隠神刑部は回復魔法など使えません! 本物のリヒト殿です」
俺は回復魔法を終え隠神刑部と玉藻前を呼び出した。
「なっ! 二大妖怪だと!?」
「大丈夫です、俺の仲間です。魔物使いマスターでもあるので」
「魔物……使い? しかしその妖怪たちは塔の九十階層以降で極稀にしか現れなかったはずだが……」
「そこはまぁ……秘密で。ただ仲間にできる手段があるということで何卒」
アヤメの父親は警戒を解き刀に伸ばしていた手を俺に差し出してきた。
「すまなかった。改めて俺はアヤメの父【ジン】だ。国からは剣神の称号を授かり剣術指南役を賜っている。色々と世話になった」
「いえ。それよりも魔族はなぜ戦を起こしてまで城に?」
「う……む。それは……」
よほど重大なことなのだろうか。ジンは口籠ってしまった。
「よい、話せジン」
「と、殿! それに若まで! ははっ!」
その場にいた全員が地に膝をつき頭を下げた。俺も慌てて皆の真似をする。
「よいよい、面を上げよ強き者よ。ワシは天守から全て見ておったぞ? 町の火を消し、船から現れた魔族を滅した。そちは我が国の救世主じゃ。礼をいう」
「殿! 頭を下げずとも!」
殿様が俺に頭を下げた。それを側付きの部下が慌てて諌める。
「バカ者! ワシの頭はそこまで軽くないわ!! 国のために戦ってくれたのじゃ! 礼を尽くさんでどうするか!」
「は、ははっ!」
「まったく……。すまぬリヒト殿。配下の教育が行き届かんで」
「い、いえ。勿体なきお言葉。殿の礼、確かに頂戴いたしました」
深く礼を述べると殿様はジンに声を掛けた。
「ジンよ、へし切を献上したのもリヒト殿であったな」
「はっ。我が娘アヤメと共に入手したようで」
「うむ。なれば礼を述べて当然よ。して……その礼じゃがな」
殿様は腕組みをしながら唸った。
「町の復興に九州、四国の復興……金はいくらあっても足りん。そこでじゃ、そちには今回の魔族襲撃で魔族が何を狙いとしていたか話そう。ジンにアヤメ、リヒト殿とワシについて参れ」
「はっ!」
殿様と若様の後ろに続き城内に入る。しばらく歩き豪華だが落ち着く和室に通された。殿様と若様の前に俺たち三人が座り話を聞く。
「まずは魔族が襲撃した理由じゃ。こいつはワシの子で【若千代】という。若千代は特殊職【切断師】を持っておるのじゃ」
俺は黙ったまま話に耳を傾ける。
「魔王と魔族は英雄レオンの次元結界により北の大陸と共に別次元へと隔絶されておる。その次元結界をも切り裂ける力を有する者こそ若千代なのじゃ」
「なるほど……。それで魔族が」
「うむ。じゃが安心して良い。若千代はまだレベル1じゃからの。次元どころか野菜を切るのが精一杯じゃ。くははははっ」
「ち、父上! 酷うございます!」
「ははははっ、許せ若千代」
レベル1。つまりまだ若様には次元を切り裂く力はないということか。
「えっと、そうなると今回の戦は……」
「うむ。全くの無駄骨じゃよ。若千代を攫ったところで使い物にはならん。ジパンも魔族も今回の戦では損害しかないわ」
俺はアヤメを見た。アヤメはコクリと頷き口をつぐんだ。
「さて、コレが戦の真相じゃ。此度は世話になった。改めて礼をいう」
「いえ、勿体なきお言葉。ジパンはアヤメとギンジさんの故郷ですし、自分もこの国は好きですから」
「ふむ。祖先と同じ世界からきた異世界次元じゃったな。ジパンは好きか」
「ええ。食も文化も全て」
「かはははははっ。そうかそうか。してリヒト殿。今後の予定はあるか?」
「予定……ですか。いえ、特には」
すると殿様は懐から扇子を取り出しパシンと叩いた。
「ならばしばらくジパンに留まってはもらえんか? ジン、リヒト殿を任せる。我がジパンを案内してやると良い」
「はっ!」
「リヒト殿。西と東ではまた文化も違う。多少焼け落ちてはおるが東の都も見て回ると良いぞ」
「御心遣いありがたく。ではしばらくは御剣家にて世話になるとします」
「うむ。大儀であった」
そうして俺はアヤメの実家である御剣家でしばらく世話になることになった。御剣家は城下町でも城のすぐ傍にあり、立派な武家屋敷で道場も併設されていた。
「さて、殿から世話を任されたが私は当主だ。それほど暇でもない故、世話はアヤメに一任しようかと思うが構わないかね?」
「はい。リヒト殿に私の生まれ育った地を案内します」
「うむ。では私はこれで。あぁ、アヤメ」
「はい」
「まだ子は作るでないぞ? 兄のギンジがまだなのだからな」
「ち、父上! 作るわけないでしょう!」
「はっはっは。作りたいならギンジを何とかしろ。アレに家を継ぐ気がないことはわかっておる。……いや、待てよ。リヒト殿と結婚させ継がせるのもアリか」
「い、行きましょうリヒト殿! 町の様子が心配です!」
「アヤメ? あ、失礼します」
「ああ、ゆっくり楽しんでおいで」
アヤメは顔を真っ赤にしながら俺の腕を引き町へと向かうのだった。




