第69話 黒い船
俺は一人港に向かった。町に広がった炎は消えたが未だ燻っている。鎮火まではもうしばらくかかるだろう。
「呼んでみるか。【タマモ】、きてくれ」
隠神刑部は命令に従ってくれた。だが玉藻前はどうだろうか。不安を抱えながらタマモを呼び出す。
《ふふふふっ、ようやくワッチを呼び出してくれたでありんすねぇ~。お会いしたかったでありんすよ、ご主人様っ》
「うわっ!?」
呼び出したタマモは走る俺の背に飛び乗り抱きついてきた。重さは感じない、ただ柔らかい感触とやたらいい匂いを放っている。
《そんなに急いでどうかしたでありんすか?》
「魔族が現れた。奴らは船から町を砲撃したんだ。火は消した。あとは魔族を倒すだけなんだ、力を貸してくれ」
するとタマモはギュッと俺に抱きついた。
《ご褒美が欲しいでありんす》
「ご、ご褒美? 何が欲しいんだ」
《ご主人の手料理……コンたちばかりズルいでありんす。手料理とお酒、約束して欲しいでありんす》
「そのくらいならお安い御用だ。存分に暴れてくれ」
《お任せあれ》
薄っすらと魔族の姿が見えた辺りでタマモは俺から離れ宙に浮いた。九本ある金色の尻尾が光り輝いている。
《……ワッチとご主人の蜜月を邪魔する者には容赦しんでありんすよ。燃え盛れ神の炎……【神炎乱舞】!》
「は? えぇぇっ!?」
九本の尻尾から白い炎がレーザービームのように向かってくる魔族たちに襲い掛かる。着弾した白い炎は大爆発を起こし魔族の九割を吹き飛ばしてしまった。
《おほほほほっ! 邪魔でありんす! 斬り裂くは神の雷……【神雷撃槌】!》
今度は雷雲から白い雷が九つ降り注ぎ魔族の頭に落ちた。落ちた雷は地面を走り魔族たちを行動不能へと追い込んだ。
「は、はは……。強すぎだろ……。俺の出る幕がない」
《ご主人、見える敵は滅したでありんす~》
「あ、ああ。ありがとうタマモ。落ち着いたらまた呼ぶよ。約束は果たすから待っててくれ」
《はいっでありんす~》
タマモは妖艶な笑みを浮かべルームに戻った。俺は刀を抜き地面に倒れる魔族に近づいた。
「なん……だ、今の化け物は……! 我々の計画が化け物一体に阻まれるなど……っ! 無念……っ!」
「お助けできず申し訳ない……魔王……様っ!」
「おのれ……! あと一歩だというのに……がはっ!」
魔族たちは恨み言を残し塵になった。
「あと一歩? 魔族の狙いがここにあったのか? 失敗したな、タマモに一人くらい残せと伝えるべきだったか」
全員が塵になった瞬間、船から体長二メートルはあろう黒い塊が飛び出してきた。
「貴様ぁぁぁぁっ! 我らの計画をよくも潰してくれたなぁぁぁっ!」
「……良かった、まだいた」
黒い塊が俺の前に着地する。その魔族は腕が四本あり筋骨隆々、目は紅くギラついている。
「町を焼いておいて計画もなにもないだろ。船から砲撃なんて魔族の癖に臆病なのか」
「臆病? 我らを愚弄するか!!」
「事実だろ。町を破壊し恐怖で支配するなんてさ」
「あ? 支配だ? 愚かな……。我らの目的は支配などではないわ!」
バカな魔族が何か語ろうとしている。脳筋はこれだから助かる。
「町の破壊が目的じゃないのか! ならなぜ砲撃なんて真似を! 何人死んだと思ってるんだ!」
「ゴミの命など知らんわ! 混乱に乗じて城に乗り込む予定だったが……まあいい。俺が一人でやればいいだけの話しだ。全てを斬る能力者を手に入れ北の大陸に封印されし魔王様をお助けするのだ! そこを退けいっ!!」
魔族は四本の手に大太刀を構えた。
「なるほど、まさかジパンに魔王復活の鍵があったなんてな。喋ってくれてありがとう。【神雷撃柱】」
「なぁっ! ガアァァァァァァァァアッ!!」
だいぶ威力は落ちるがタマモの技だ。俺にも使えて当然。白い雷の柱は脳筋魔族の頭上に飛来し、容赦なく貫いた。
「なぜ……だ……! 強者を全て西に集めたはず……。そのために戦を起こし……がふっ!」
「手薄になった城を襲う気だったのか。しかしな……こいつにそんな頭はありそうにないし……まさかまだいるのか! 城に急がないと!」
脳筋魔族が塵になるのを見届けた俺は城へと駆けた。
「あ、あんた!」
「ん? あなたは城に向かった火消しの……」
「し、城が大変だ! 魔族がいるんだ!」
「やはりか! 魔族はどれくらいいる」
「一体だけだ……。だか強すぎる! なぁ、あんたあの船から出てきた魔族たちを倒したんだろ? 城に急いでくれっ!」
「わかった!」
まだ魔族がいる。あの脳筋だけで強者を西に集めさせることなんて不可能だ。幕府側に魔族が潜入していなければ命令なんて出せやしない。俺はとにかく全速力で城まで駆けつけ、破壊された門を潜った。
「年寄りの分際で邪魔をするな剣神!!」
「はっ、老いても貴様ら魔族になど後れはとらんよ」
門を潜ると刀を持った老人が魔族と戦っていた。その後ろには傷を負ったアヤメが膝をついている。
「アヤメ!」
「リヒト殿! 申し訳ないっ、港は……」
「片付けてきた! あとはそいつだけだ!」
「な、なにぃっ!! 百はいた我の仲間を!?」
「隙だらけだぞ、御剣流奥義【龍神一閃】!!」
「があっ!!」
一瞬俺の方を振り向いた魔族に老人の抜刀術が放たれ、魔族は上下に分断された。
「誰か知らんが助かった。ん?」
「まだだ……まだ終わらん! ハァァァァッ!!」
「おいおい、増えやがった」
上下に分かれた魔族はそれぞれ再生し二体に増えた。
「斬撃で我を倒すことなどできんわっ! 邪魔をした貴様! 何者だ!」
「いや、名乗りいる? 【神炎乱舞】」
「ハ──ぎえぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
二体に分かれた魔族を同時に焼き尽くしてやった。白い炎に包まれた魔族は地面に伏しながら俺を見上げる。
「我の計画が……こんな……名も知らぬ奴に……」
「おいおい、凄いなあいつ……」
「リヒト殿! いたたた」
「回復しようかアヤメ」
白い炎の中で塵に変わった魔族を見届けた俺はアヤメを回復させに向かうのだった。




