第67話 帰ってきたアヤメ
一ヶ月ぶりの休息を満喫しているとアヤメが部屋に駆け込んできた。
「リヒト殿!」
「うわっ!? い、いきなりなに!?」
勢いよく襖を開けたアヤメは全力で駆けてきたのか息を荒げていた。
「はぁっはぁっ! や、やっと帰ってきた! 今までどこに!?」
「え? ジパンの塔にいたけど」
「い、いつから!?」
「一ヶ月前かな? 食事処で沖田さんと会って外は危ないっていうから塔の中にいたんだよ」
「い、一ヶ月も!? とうりで……探したんですよ!」
アヤメはズカズカと部屋に入り対面に座った。
「いつから戻ってたの?」
「二週間前ですよ。兄上から本家に報せが入り幕府軍から精鋭を引き連れ戻ってきました。宿に尋ねても来てないと言われましたし……あちこち探し回ったんですよ!?」
「す、すまない。とりあえず詫び代わりにこれを」
俺は丼をアヤメに差し出した。
「なんですかこれ」
「沖田さんのおすすめでチョコ煮込みうどん」
「あ、あの甘党の……けっこうです」
「俺からの詫びはいらないのか……せっかく作ったのにな」
「うっ!」
アヤメは泣きながらチョコ煮込みうどんを頬張った。
「うっぷ……。そ、それで塔は何階層まで?」
「とりあえず五十階層まで終わったよ。あとは魔物の配合研究してたかな」
「魔物の配合? なんですかそれ?」
俺は魔物使いのスキルについて説明した。
「あの、そんなスキル聞いたことないのですが」
「え?」
「ヤルダバオト戦に参加していた魔物使いの方もマスターランクでしたが今思えばモンスタールームも聞いたことないですよ」
「はあ!?」
アヤメの話に驚いた。
「いやいや、ちょっと待って」
俺は異世界知識倉庫にアクセスし魔物使いについて質問してみることにした。
《お久しぶりです。マスター》
「ルナ、魔物使いについて教えてくれ」
ルナから聞いた説明ではモンスタールームも配合も出てこなかった。俺は続けてルナにこの二つについて尋ねる。
《モンスタールームと配合については私が補助しております》
「は?」
《私は全てのスキルの最上位に位置しております。マスターに喜んでもらうべく様々なジョブにおいて【ワ・タ・シ】がサポートしております。私を有しているマスターはこの世界で誰よりも上位にありますので》
俺は笑顔でアクセスを終了した。
「ど、どうかしましたか?」
「その‥……なんかできるのは俺だけみたいで」
「異世界からの召喚者特有なのですか?」
「いや、本当に俺だけみたいだ。ある特定のスキルを持っているとジョブスキルが他とは違うようになるらしい。俺だけがね」
アヤメは考える事を止めたようだ。
「リヒト殿ですからね。今さら何を言われても驚きませんよ。どうせ配合とやらでとんでも妖怪とか生み出したのでしょう?」
「えっとまぁ‥‥…隠神刑部と玉藻前を」
「伝説の大妖怪じゃないですか!? なにしてるんですか!?」
「わかってるよ。だからまだルームから出してないし、そもそもまだ命令聞いてくれるかわからないから呼び出してないし」
「絶対に呼び出さないで下さいね。大騒ぎになりますから」
とりあえず了承し、アヤメに尋ねた。
「ところでへし切はどうなったの?」
「それですよ!」
アヤメはテーブルに両手をつき身を乗り出してきた。
「父上に渡したのですが、その手で殿に献上されました。へし切を手にした殿は大層喜び経緯を説明したところ」
「ま、待て。まさか」
「はい。殿がリヒト殿を呼べと」
「やっぱりか! 行くわけないだろ!」
アヤメあ笑顔を浮かべ言った。
「ダメです。それにそう構える必要はありません。リヒト殿はあくまでも協力者として伝えておりますので」
笑みはフェイクだった。張り付いた笑みを裏からは疲れが読み取れた。
「大変でしたよ。リヒト殿のことを隠しながら殿に説明するのは」
「……なんかすまん」
「しかし父上には全て話してます。兄上も知っておりますし疑われでもしたら逆に手間なので殿には伝えないようにしてもらいました」
「助かる……ありがとう」
「しかしへし切は織田家の宝。それを手に入れるために動いてくれたリヒト殿にはぜひ会って感謝を伝えたいと殿が」
面倒だが少し考えてしまう。ジパンは他大陸に比べ俺にとっては別世界のものだが馴染み深く雰囲気だけで落ち着く。断ったとして万が一不興を買ったら外の大陸からきた俺だ、鎖国しているジパンには二度と入国できなくなるかもしれない。
「わ、わかったよ。ただ、行くのは戦が落ち着いてか、だ。魔族がそこまで迫っているだろ」
「あぁ、いますね。でも問題ありませんよ」
「え?」
「新撰組の組長たちに加え兄が御剣流道場の教えを受けた御庭番から隊長格の皆さんを連れてきましたので。ジパンでも屈指の侍が手を組んだのです。魔族に後れは取りません。加えていうと、兄上はその中でも中位くらいです」
「あのギンジさんが?」
ヤルダバオトを倒したギンジの腕前は相当なものだ。だが先日食事処で会った沖田の隙があるようでまったく隙がない雰囲気や、斎藤、原田もギンジに負けず劣らず強者の雰囲気を醸し出していた。中位というのもあながち間違いではないだろう。
「戦は間もなく終わります。そろそろ痺れを切らした魔族がここに姿を現すはず……と新撰組の山南さんは読んでます」
「山南さんまでいるのね」
「なにか?」
「いや、なんでも」
世界は違うがこうも類似点が多いジパン。俺はアヤメとこれからについて話し合うのだった、




