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第07話 村のためにできること

 もっと村のために役立ちたい。そう思った俺は翌朝長の家に向かった。


「ふむ、村で困っていることか」

「はい。何か困っていることはありませんか?」


 長は考えた末にいくつか提案を出してきた。


「まず第一に若者がおらんことかのう」

「それは自分にはどうにも」


 若者が少ないと言われても対処のしようがない。


「あとは収穫じゃが、お主が提供してくれたスタミナポーションのおかげでつつがなく終わりそうじゃしのう。病もポーションで解決した」

「そ、そうですか」

「うむ。あと困っていることと言ったら肉じゃろうなぁ」

「肉……狩りですか」


 長は蓄えた髭を撫でながら言った。


「狩りはガロンしかできんからのう。グレッグもできるが二人が同時に村から離れる事態は避けたいのじゃ。平和といっても何があるかわからんしのう」

「なるほど。まずは狩りと。あとは何かありますか?」

「そうじゃなぁ。あとは冬に向けて家の補強かの。ここは雪は降らんが風が冷たくてのう。薪の確保に家の隙間を塞ぐ、それくらいかの」

「薪集めに大工仕事ですね。大工はグレッグが?」

「うむ。収穫が終わり次第グレッグが各家を回り補修しておるぞ」

「わかりました、教えてくれてありがとうございます」

「なに、構わんよ。お主にはポーションの件で世話になっとるからのう。無理に働かんでも良いのじゃが」


 確かにポーションは作っているが役に立っている実感がわかない。材料はその辺に生えている草だし働いている気になれないんだ。


 悩み事を聞いた俺はその足で狩りに向かった。狩人のレベルを上げるためにもちょうど良い。


「う~ん、矢がもったいないな。石投げて倒せないかな」


 試しに鋭利な石を拾いホーンラビットに投げてみると狩人のスキル【投擲】が働き一撃で倒すことができた。


「いけるじゃないか! これで矢を節約できるなっ。小さい獲物しか獲れないけど十分だ」


 俺は連日ホーンラビットやスモールボアを狩り村人に配った。


「あらあら、今日も肉があるのかい?」

「はい、たくさんありますのでシチューにでもと。最近朝晩は寒くなってきましたしね」

「ありがたいねぇ。そうだ、今度パン焼いてあげようかね。小麦の収穫も一段落したしねぇ」

「あ、ありがとうございます!」

「ほっほ、お互い様じゃて」


 肉を渡す代わりにパンやら野菜をもらう事が増えた。こうして物々交換している内に村人達との仲もより深まっていった。


 そんな日々を続けている内に薪もだいぶ溜まり、ついでに狩人のレベルもマックスになった。これで二つ目のジョブをマスターしたことになる。


「薬師に続いて狩人をマスターしたか。順調だけど派生職業は生えなかったなぁ。でも戦いに出るわけじゃないし問題ないよね」

「お~いリヒト~!」

「ん?」


 野外で昼食を摂っているとグレッグが手を振りながら寄ってきた。


「どしたの?」

「長から聞いたぜ。今日で収穫が終わるからよ。明日から大工仕事始めるんだが、お前手伝いたいんだって?」

「うん、邪魔にならない程度で手伝いたいな」

「よっし、んじゃ明日から村にある家を見て回るぞ。隙間もそうだが暖炉も見る予定だ。煙突掃除やら補修やら忙しくなるぜ」


 グレッグから聞いた仕事量はかなり多かった。


「え、毎年そんな量一人でやってたの?」

「まぁな。爺さん婆さんを屋根に上らせるわけにゃいかんしな」

「確かに。色々教えてよグレッグ」

「おう、任せな。立派な雑用がか──大工にしてやるぜ!」

「本音もれてるよグレッグ」

「がははははっ! 今年は楽できそうだ!」


 その日はグレッグ宅で夕飯をご馳走になりながらミーティングを開いた。まずは長の家から始めぐるっと村を一周する。人が住んでいる家は俺が借りている家を除き約十一軒。それに空き家が五軒ある。他には無人の倉庫が一軒あるくらいだ。去年まではこれら全てをグレッグ一人で回っていたらしい。頭が上がらないな。


 翌日からさっそく家の補修を開始した。ジョブは大工に変更しグレッグと二人で役割分担しながら修繕箇所をまとめ補修していく。


「ゴホッゴホッ! 煙突ってこんな汚れんの!?」

「うははははっ! お前その顔っ! 真っ黒じゃねぇか! うはははは!」

「わ、笑うなよ~!」

「ほっほ。元気が良いのう。やはり若い者は良い。村に活気が漲るわい」


 村の一番の悩みはやはり若者がいないことなのだろう。一番若くてグレッグの奥さんで四十歳前後。実年齢は聞けない。聞いちゃいけないんだぞ。


 俺は真っ黒になった顔を布で拭きながらグレッグに話し掛けた。


「長はやっぱり若い人に住んでもらいたいんだろうな」

「長だけじゃねぇさ。村に住むみんながそう思ってんよ。だけどこればっかりはどうにもな」


 グレッグは空を見上げながら愚痴をこぼした。


「この国は貧しい。周りの国に比べたら人口も少ないし戦う力もない。農業だって自分らの食い扶持を稼ぐくらいで輸出もできねぇ。知ってるか? 首都は栄えてるっていっても他所の国の小さな地方都市くらいなんだぜ」

「そうなんだ」

「この国は近い将来消えちまうだろうよ。他所から攻められなくても自然に消滅しちまうんだ」


 地球でいう限界集落のようなものだろう。若者は都会に憧れを抱き育った地を離れる。集落は高齢化していきやがては消えてしまう。こればかりは戦う力以前の問題だ。


「リヒトよぉ。お前はまだ若いんだ。いつまでもこんな小さな村にいて満足か? ここじゃ嫁さんもできねぇぞ」

「え?」


 グレッグから予想もしていなかった言葉が飛び出した。


「首都に行けよリヒト。嫁さん欲しくねぇのか?」

「……あははははっ」

「あん? なぁに笑ってんだか」


 俺は首を傾げるグレッグに言った。


「そしたらグレッグの奥さん奪っちゃおうかな~」

「あぁん? お、お前あんなのが良いのか? 口うるさいし怒らせたらすぐ角生やすし……何より隠しちゃいるが腹なんか段になっ」

「グレッグ、後ろ」

「あ? うぉはぁっ!?」


 グレッグの後ろには鉄のフライパンを構え普段のふわふわした様子とは真逆の奥さんが立っていた。


「ち、違うんだって! 今のはリヒトがな?」

「ふふふふ~。リヒトさぁん」

「は、はい」

「ちょ~っと家のバカ旦那借りてくわね~。あ、今日はもう帰らないと思うから作業の続きは明日でお願いね~?」

「も、もちろんです。ど、どうぞ連れてって下さい!」

「ちょっ! ま、待て! んごぉぉぉっ!? 首が! 首がぁぁぁぁっ!?」


 グレッグは服を掴まれズルズルと引きずられていった。あの筋肉ダルマを片手で引きずっていく奥さんには畏怖しかない。


「……死んだかの」

「長……俺あんなの見せられたら結婚なんて一生しなくて良いっす」

「女は剣より強し……じゃ。決して怒らせてはならぬのじゃ」

「肝に銘じます」


 その晩、グレッグ宅からは深夜まで悲鳴が聞こえ続けたのだった。

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