サイド① へし切長谷部
ジパンの迷宮二十階層でジパン国を興した織田信長の愛刀へし切長谷部を手にしたアヤメは全速力で西の都から首都へと駆けた。
不眠不休で千里を駆け実家である御剣流剣術道場に倒れ込んだ。
「ア、アヤメ様! まさか帰っていらしたとは! どうされたのですか!?」
「ち、父上を! ハァハァ……頼むっ!」
「は、はい!」
道場の床に伏せ息を整えている所にアヤメの父が姿を見せる。齢六十に近い父は見た目以上に若々しく左頬に十字傷を帯びている。
「アヤメか、戻ったのか。ギンジから話は聞いていたがまさか顔を出すなんて驚いたな」
「父上! こ、これを……」
アヤメは息を切らしながら父親にへし切長谷部を渡した。父親は受け取った刀を目にし、アヤメの肩を掴んだ。
「アヤメ! これはへし切長谷部じゃないか! どうしたんだこれは!」
「ち、父上! じ、実は……」
アヤメは息を整えながらこれまでの出来事を全て父に語った。
「迷宮の二十階層? あそこはこれまで何度も攻略されてきたはずだ。ボスを倒しただけでへし切長谷部が手に入るなんてあり得ない。一から全て話してくれ」
アヤメは話すかどうか迷ったがへし切長谷部を手にしたことでリヒトの事を全て話してしまった。
「い、異世界からの召喚者だと……? いや、それだけでは説明が」
「実は……」
アヤメはリヒトの秘密を全て父に話した。
「の、信長様と同郷だと!?」
「は、はい。リヒト殿は秘密にと申されましたが……黙ってはいられなくて」
「そうか……。普通ならあり得ない。だが……繋いでくれたのだろうな、その彼が」
「父上っ」
「わかっている。この話は誰にも伝えない。本人も望まないだろう。だが……一目会いたい、いつかここに連れてきて欲しい」
アヤメは真剣な表情でコクリと頷いた。
そして同時刻、ギンジは新撰組を率いる局長コンドゥと屯所で一向に集まらない隊長格を待ちながら暇そうにしていた。
「なぁ、いつ集まんねん。いい加減飽きたで」
「がははははっ、すまんギンジ」
コンドゥはギンジに酒を注ぎながら言った。
「わかってるだろ? 一応俺がまとめてはいるがまとまりはないって」
「お前なぁ、もっと威厳出せや。せやから軍議やっちゅうのに集まらんねん」
「はははっ、これが俺の新撰組だ。つーか……お前がきたってこたぁ…あの件は成ったってことだよな?」
ギンジは酒を飲み干し空の盃をコンドゥに向けた。
「ああ、召喚された勇者とはちゃうが──強いで。アイツがおらんかったら大悪魔ヤルダバオトは倒せんかっだ」
「おいえい、お前にそこまで言わせるんか」
「ああ、あいつは……リヒトは規格外や。アイツががおらんかったらワイも危なかったわ」
「はぁっ!? お前か!?」
「せや。知っとるやろ。お前が連れてこいゆうた奴がリヒトや。実際目の当たりにしたがヤバいで。退魔師でもないにも関わらず大悪魔を斬りよった」
コンドゥは盃を空にしギンジに問い掛けた。
「そうか。そいつは今ジパンにいるんだな? 俺たちの味方になってくれんのか」
「ああ、聞いたら驚くで」
ギンジはヤルダバオト戦に至るまでの情報とアヤメから聞いた情報をコンドゥに伝えた。
「は? いやいな、待て! 国父と同じ世界からきただって!? あ、有り得ないだろ!? いくら召喚勇者っていってもだな」
「ジパンに異様な興味を示しておったし刀も打てる。間違いない、リヒトは国父と同じ世界からきた。間違いない」
「はぁ~……そんなこともあるんだなぁ。で、そいつは今どうしてんだ?」
「知っとるやろ。見張りつけとるくせに」
「……まぁな」
視線を交わす二人の元に慌てた様子で忍が駆け込んできた。
「た、大変です!」
「あん? あいつの見張りさどうした、山崎」
「め、迷宮で見つかりました! 国父織田信長様の愛刀へし切長谷部が!」
「なんだと!?」
「なんやて!! 何階層や!」
「え? あ、はい。二十階層です。客人が魔法で倒してました」
「魔法……魔法か」
コンドゥは頭を掻き、ギンジは腕組みをし唸った。
「抜けてたわ」
「だな。二十階層つったら餓者髑髏だろ。あんなもん斬った方が早いからなぁ」
「そうなんよな。斬った方が早い」
「新人にも何度も潜らせちゃいるが魔法を使うやつはいなかったしな」
「リヒトは大陸で魔物と戦ってきたからなぁ。見た目だけはスケルトンキングやもんなぁ。それで、へし切は今どうなっとる」
山崎はギンジを見ながら報告した。
「はっ! 現在へし切はアヤメ様が実家である御剣家まで運んでおります!」
「アヤメが家に? ほうか、なら安心やな。ジパンの宝や、然るべき所に納めんとな。ありがとさん」
「はっ!」
山崎は敬礼し姿を消した。
「今になってへし切が出てきたか。こりゃあ……大きな戦が近いか」
「せやな。もう軍議なんぞ待っとれんわ。戦況は?」
コンドゥは首を横に振った。
「ダメだ。九州地方と四国地方が寝返った」
「な、なんやて!? 人間が魔族にか!?」
「ああ。九州はエイジア大陸と交易していたからな。鎖国が気に入らんらしい。今は中国地方のやつらが挟み撃ちにされてるようだ」
「そうなると……次はここか」
「ああ。もうあまり猶予はねぇ。俺は戦の準備に入る。悪いがお前さんには首都まで走ってもらう」
ギンジは口角を上げながら言った。
「ワイがおらんで大丈夫か?」
「はははは。釣りがくるわ。京都守護隊の力舐めてたら痛い目見るぜ」
「ほな任せるわ。ワイは親父ん所に報せてくるわ」
「頼む」
それからすぐに新撰組は戦の準備に取りかかったのだった。




