第58話 極東の島国ジパン
長い空旅を終え、俺たちは今ギンジの案内でジパンを歩いている。俺にとってジパンは初めて歩く町だがどこか懐かしさを覚えていた。
「おぉ~……き、着物姿だ! それにアレは蕎麦屋!」
「おいおいリヒトはん。そない一々立ち止まられたらいつまでも辿り着けんて」
「あ、すみません。あ、あれは茶屋! すげぇ~!」
「リヒト殿は着物姿が好みなのか……ふむふむ」
「こ、こいつら人の話聞いとらん……」
まるで時代劇さながらの風景に俺は心を躍らせていた。そんな俺たちの前に赤い段だら模様の着物姿の一団が現れた。
「ギンジさん、帰ってたんスか!」
「おう、ついさっきな。今屯所に向かってた所なんやがなぁ……客人があちこちフラフラして進まんくてなぁ」
「あの方ですかい? あまり強そうには見えませんが」
「人は見掛けによらんっちゅ~典型や。ワイと同じぐらい強いで」
「嘘でしょう!?」
ふと視線を感じそちらを向くと侍の集団がいた。
「あ、赤い段だら模様!? 惜しい! 青じゃないのそこは!」
「何が惜しいんや全く。アイツらはこれからワイらが向かう新撰組の隊員や」
「新撰組! それっぽい! 強そう!」
隊服の色は違うがあの模様は間違いなく新撰組のそれだ。時代劇や歴史書でしか知らなかった新撰組と対面できるとは思わなかった俺は感動に震えた。
「な、なんだ此奴……我らを見て泣いてるのか?」
「変な奴だ……」
「確かに変な奴やがワイの客人や。さっさと見回りに戻らんかい」
「「「スンマセン!」」」
隊員たちは頭を下げ見回りに戻っていった。
「ほら、ワイらもいくで。観光はあとにしてくれ」
「わ、悪い」
ギンジに続いて町を歩きしばらくすると大きな武家屋敷が見えてきた。ギンジは臆することなく屋敷の中に入り、俺とアヤメは後ろに続き門を潜った。
「アヤメはここきたことあるの?」
「いえ、私の家は都にあったもので。ここは初めてです。兄上と親交ある組織としか知らなくて」
「そうなんだ」
奥に進むと縁側に座りお猪口を傾ける人物がおりギンジが手を挙げ口を開いた。
「コンドゥはん、戻ったで」
「おうギンジ! えらい化け物と殺りあったんだって? がははははっ」
「笑いごとちゃうわほんま。魔族の方がまだ可愛げあったわ」
「ほ~う。ん? おいおいアヤメちゃんじゃねぇの。ギンジに連れ戻されたのか?」
「いえ、リヒト殿がジパンに赴くと聞いたので」
「リヒト殿~?」
ゴリラのような巨大な体躯の男が鋭い視線を俺に向けてきた。その視線はどこか俺を値踏みするかのような視線だ。
「お前さんがリヒトか。ギンジが世話になったようだな、礼をいう」
「いえ。俺の方こそギンジさんには助けてもらいましたし。何よりジパンにこられて嬉しく思ってます」
「……そうかい。ところで町はもう見たかい? 他国の人間からしたら珍しいモンばかりだったろう?」
俺は鼻息荒く答えた。
「まだなんですよ。ギンジさんがここに急ぐっていうからどこにも寄れてなくて!」
「はっはっは! ならちょうどいい。これからギンジと話があってな。他の隊長とも会議があるし、何日か町を楽しんできてくれねぇか? アヤメちゃんとな」
「わ、私ですか!?」
アヤメは頬を赤くしながら慌てている。
「久しぶりの故郷だろう? 地元の良さを再確認がてら町を案内してやったらどうだい? 客人にもジパンの良さを知ってもらいてぇだろう? 好きになってもらうにゃあよ?」
「す、すすす好きに!? 何を言って!」
「あん? 故郷を好きになってもらいてぇってなぁ変なことか? ははぁん? 惚れてんな?」
「い、行こうリヒト殿!」
「あ、ちょっと待ってアヤメ! し、失礼します」
俺は慌ててアヤメのあとを追った。門を出るとアヤメは俺を待っていたのか門の脇に立っていた。
「アヤメ!」
「リヒト殿……申し分ない、突然飛び出してしまい……」
「いや、構わないよ。それより町を案内してくれるんだろ? お腹も減ったしどこかで食事にしない?」
「は、はい! では先ほどの蕎麦屋ではどうでしょうか」
「いいね! 実は気になってたんだ。さあ行こう!」
アヤメと並んで気になっていた蕎麦屋まで歩く。道中やたらと見られている気がしたのでアヤメに何かおかしい所があるか尋ねてみた。
「ああ、それは服装ですね。ジパンの人たちは基本和服を着ております。リヒト殿の格好が珍しいのでは」
「服か。なるほど、馴染むためには服も変えなきゃな」
「あの、ジパンの通貨はお持ちじゃないですよね?」
「……ない! え、俺今無一文!?」
「やはり。蕎麦屋の前に両替所に寄りましょうか」
「頼む」
両替所に向かいそこで所持金の半分をジパンの通貨に変えてもらった。ジパンの通貨はなじみ深い円だ。価格価値は現代と同じでありかたい。
「では蕎麦屋に行きましょうか」
「待ってました!」
久しぶりにワクワクしながら蕎麦屋に入りメニューを見る。
「かけ蕎麦、月見蕎麦、天麩羅蕎麦に山菜そば……肉そばにて、ざる蕎麦や天丼も!? くっ、どれも魅力的過ぎて選べないっ!」
「で、では私と別の料理を頼み半分ずつ食べるというのは……」
「俺は気にしない派だけどアヤメはいいの?」
「はいっ! 大歓迎です! 私は久しぶりに山菜そばですね。あと、天丼にしましょうか」
「いいチョイスだ……。じゃあ俺は月見蕎麦にネギトロ丼、あとは……冷やも頼もうかな」
「お、お酒を飲まれるのですか?」
別に酒が飲みたいわけじゃない。日本酒の原料は米だ。米の質で酒の質が変わる。つまり、美味しい酒があるなら米も間違いなく美味いはず。現代の品種改良された米に近い物があれば何が何でも入手しておきたい。
「味が気になってね。アヤメは?」
「わ、私は酒に弱くすぐに寝てしまうので」
「そっか。じゃあ俺だけ飲もうかな。すいませ~ん」
「あいよ~!」
俺は店員に蕎麦を注文し、ワクワクしながら配膳されるのを待つのだった。




