第06話 レベルアップ
川に入り気配を消す。
「お、できてるっぽいな」
俺の足元を普通に魚が泳いでいる。
「じゃあこの矢を使ってと」
心を無にし泳ぐ魚を貫く。川から上げると魚はビチビチと暴れ出した。
「しまった、籠がない! どうしようか」
考えた結果河原に穴を掘り川の水を溜め内臓を抜いた魚を浸けた。
「よし、次だ次!」
同じ作業を何度も繰り返し十分な量の魚が獲れた。長い時間川に入っていたからか寒い。俺は焚き木を集めジョブを魔道士に変え火を着けた。そこに獲れた魚を枝に刺し焼く。
魚を焼いていると肩に棒にぶら下げた獲物を揺らしながらガロンが戻ってきた。
「戻ったぞ。ん? 魚獲れたのか」
「お帰りガロン。そろそろ食べ頃だよ。味ついてないけど」
「構わんよ。空腹が何よりのスパイスだ」
焚き火を囲み魚にかぶりつく。
「確かに美味い! 脂ものってて最高だ」
「そうだな。というかお前、もう気配遮断を身につけたのか」
「まあね。二十匹近く獲れたよ」
ジョブを変える際に気づいたが狩人のレベルが3に上がっていた。魚を獲っただけで上がるとは思いがけない幸運だ。
「お前本当に薬師か? 鍛えたら良い狩人になれるんじゃないか?」
「いやいや。それじゃガロンの仕事なくなっちゃうよ」
「ぬかせ。まだまだ若いモンには負けんわ」
「ははははっ」
一人三匹ずつ腹に収め少し腹休めしたあとガロンから解体を学んだ。ガロンは素早く血を抜き毛皮を剥ぎ取り肉をブロック状に切り分けていった。
「う、上手い! 解体のプロだ!」
「ガキの頃からやっているからな。慣れたものだ」
「へぇ~……なるほどなるほど」
ガロンの解体術は勉強になった。俺は一動作も見逃さないよう瞬間記憶能力で頭に叩き込んでいった。
「よし、こんなもんだろ。葉で包んで持って帰るぞ」
「了解っと」
近くの草原から大きめの葉を採集し二人で肉と魚を包み村へと戻った。
「これどうするの?」
「各家庭に配るんだ。お前も手伝え」
「わかった」
ガロンと二人で手分けしながら各家庭に肉と魚を配る。そして最後にグレッグの家に向かったのだがここで初めてグレッグの奥さんを見た。
「あらあら、こんなにたくさん獲れたの? 凄いじゃない」
「ああ。今日は二人で狩りに出たからな。魚はリヒトが獲ったものだ」
「まぁ、ありがとうね」
「いえいえ」
グレッグの奥さんは四十歳くらいだろうか。ほわほわした感じでグレッグにはもったいないほど美人だ。
「グレッグったらあの顔でどうやってこんな美人の奥さん捕まえたんだか」
「あぁん? 俺の顔がなんだって?」
「ふふふっ。私達幼馴染なのよ。他の幼馴染達はみんな首都に行っちゃったけど彼だけは村に残ってくれたのよね~」
「なるほどなるほど。グレッグは何で村に残ったの?」
グレッグは顔を赤くしながら頬を掻いていた。
「全員出て行っちまったら村が廃れちまうだろうが。それに俺は首都なんぞに興味なかったからな。村での暮らしが肌に合ってんだよ」
「何を言ってる。彼女にフラれたら首都に行くと騒いでいたじゃないか」
「ガロン! なにバラしてやがる!」
「うわぁ……まさか脅して結婚したの?」
「んなわけあるかぁぁぁっ!」
「あらあら、そうだったの~?」
「ち、違うからな!?」
「「「はははははっ」」」
その晩はグレッグ宅で賑やかな夕食会となった。俺はこれまでの食事に感謝を伝えると奥さんは笑顔でこう言った。
「良いのよ。あなた困ってたんでしょう? ここは小さな村だからみんなで助け合って生きてるのよ。それに彼ったら毎晩あなたの話ばかりするんだもの。首都に行っちゃった息子と同じくらいだから嬉しいのかもしれないわ」
「息子さん……いたんですか」
酒を煽りながらグレッグが口を開いた。
「ああ、いたよ。成人したら飛ぶように首都に行っちまってな。冒険者になるんだとよ」
「冒険者ですか」
「ああ。有名な冒険者になって稼ぎてぇんだとよ。バカな息子だよまったく」
「まぁまぁ、あの子の人生なんだから好きにさせてあげて」
グレッグはそのまま浴びるように酒を飲みテーブルに突っ伏した。
「あらあら。ガロンさん、運んでもらえるかしら?」
「こ、この筋肉ダルマをか!? リヒト、手伝え」
「仕方ないなぁ」
深い眠りに落ちたグレッグはとんでもなく重かった。ベッドに寝かせるとイビキをかき起きる気配すらない。
「今日は美味い食事をありがとう。そろそろ帰るよ」
「あ、じゃあ俺も。夕飯ありがとうございました」
「いえいえ。もし良かったらまたいつでもいらっしゃいね」
「あ、はい。お世話になります」
そうしてガロンと二人で家を出た。
「ところでガロンって結婚は?」
「今は一人暮らしだ」
「今?」
「……逃げられたんだよ、妻子にな」
「え、マジで? なんでまた」
「妻とは首都に物を売りにいった先で出会ったんだ。そこで惚れて結婚し村で暮らしていたんだがな」
ガロンは夜空を見上げた。
「村での暮らしが合わなかったのだろう。娘が五歳になった次の日二人で消えていたよ。首都に帰ると書き置きを残してな」
「それはまた……」
「昔の話だ。今はもう気にしちゃいないさ。じゃあな」
「あ、うん」
ガロンは哀愁を漂わせながら自宅へと入って行った。
「そんなにこの村での暮らしが退屈なのかな。良い所だと思うんだけどな」
俺もまだ若いが村でののんびりした暮らしは肌に合っているのか気に入っている。村のみんなも気さくに話し掛けてきてくれるし親切にしてくれる。地球にいた頃の他人に全く興味がなかった俺からしたらだいぶ変わったと思う。
「もっと村のためにできる事を探そう。何か困っている事はないか明日長に聞いてみよっかな」
借家に戻った俺はジョブ一覧を眺めながら何ができるか考えながら眠るのだった。




