第54話 特訓
俺は今ギンジと向き合っている。
「鍛えるっちゅうてもあまり時間もない。御剣流の基本となる型を教える程度しかできひん」
「はい、構いません」
「よし。ならまずはどんだけデキるか見してもらおか。構え」
俺は木刀を正眼の構えをとり真っ直ぐギンジを見る。
「ふむ。振ってみ」
「はい!」
俺は知っている斬撃を順番に披露していく。斬撃の基本は真っ直ぐ振り下ろす【唐竹】、相手の左肩から斜めに斬る【袈裟斬り】、その逆の【逆袈裟】、胴を横に斬る【右薙】、反対から【左薙】、右手下から斜めに斬り上げる【右切り上げ】、逆の【左切り上げ】、それから股の下から上に切り上げる【逆風】、最後に【突き】と大別して九種類に分けられる。
「……なるほど。なにを教えたらいいかわかったわ」
「え?」
ギンジは俺の足を指さした。
「振りは申し分ない。せやけど足があかん」
「足……ですか」
「せや。歩法、足運びやな。上はええもん持っとる癖に下はまるでお留守や。そんなんやったら小鬼も斬られへんで」
「は、はぁ。あ、それなら……」
俺はアサシンの歩法を使い刀を振ってみた。
「……なんで最初からそれやらんかったんや」
「えっと……意識しないとできなくて」
「ふ~む……。ほなまずは意識せんように今の歩き方を身に着けぇ。他の歩法は時間がある時に教えたる。あとはまぁ……その辺で魔物狩ってきぃ。実戦は何物にも勝るや」
「み、御剣流は?」
「それこそ時間がある時にや。明日には悪魔退治に向かうんや。付け焼き刃じゃと逆に危険や。レベル上げられるどけ上げてきぃや」
「わ、わかりました」
とにかく今は時間がない。基本は剣道と創作の世界から引っ張り出し真似れば大丈夫だろう。
「いってきます!」
「おう。アヤメ、一緒に行って指導したり」
「兄上がいけば……」
「阿呆。ワイは温存や。悪魔に対抗できんのはワイしかおらんやろ。英雄ガレオンじゃあ悪魔は祓えん。悪魔はワイらが斬るしかないんや。身を清めなあかんからあとは頼むで」
「わ、わかりました」
ギンジと別れ俺は草原で魔物を倒していく。
「はっ!」
「違うっ! 足運びを意識し過ぎ!」
「わ、わかった。はぁっ!!」
「まだ! 腕だけで振ってる! 斬撃に体重を乗せることを意識する!」
「む、難しいっ!」
基本体育でしかやったことがないにわか剣道だ。そこにアサシンの歩法を組み合わせるものだから難しいったらありゃしない。
「少し休息をとりますか?」
「いや、まだやるよ。何か掴めそうなんだ」
「わかりました。だが明日もあります。無理はしないように」
「あ、あぁ」
アヤメの指導と侍のレベルが上がっていくと次第に身体が慣れ始め動きが様になってきた。
「それです! 今の一撃はなかなかでした!」
「なるほど、こうか!」
「それです! もう一度!」
二度食事休憩を挟みアヤメを帰したあとに俺は深夜まで魔物と戦い続けた。スタミナポーションも何本飲んだかわからない。
「うっぷ……無茶したなぁ。でも……これて侍はマスターした」
魔物使いのスキル【魔物寄せ】を併用しほぼ休みなく鍛錬を続け、侍をマスターした。魔物使いもレベル10まで上がった。
「少ない時間でやれるだけやった。強い人たちもいる。あとは明日俺は俺にできることをするだけだ」
深夜、陣地に戻り仮眠をとる。そして時刻はまだ陽が昇る前。ガレオンの号令で全冒険者が隊列を組んだ。
「行くぞ! 世界の命運は我らの手にある! 悪魔を倒し平和を我らが手に!! いざ出陣!!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
ガレオンは英雄のスキル【鼓舞】を惜しみなく使い全軍に高揚感を与えてくれた。
号令のあと俺たちは隊列を組んだまま王都へと向かう。道中は酷い有り様で村や宿場町は瓦礫と死体の山となっていた。
「おのれ悪魔め……! 人の命をなんだと思っている!」
「まさに悪魔の所業やなぁ。ん? ガレオンはん!」
「うむ」
ギンジの掛け声にガレオンが右手を上げた。
「アンデッドだ! 総員各自撃退!!」
死体の山がのそりと動き出し襲い掛かってくる。
「たかがアンデッド程度に負けるか! 俺たちはSランクだぞ!」
「【ファイアボルト】!」
「付与します! 【セイントオーラ】!」
神官が前衛の武器に聖属性を付与し、後衛の魔導師は火魔法で群がるアンデッドを屠っていく。俺が出る間もなくアンデッドは塵と化した。
「総員気を引き締めろ! この先王都まではアンデッドや魔物の群れと戦うことになる!」
ガレオンの宣言通り、王都に近づくにつれアンデッドは増え魔物も群れで遭遇することが増えた。そしてアンデッドの中には同業者もいた。
「冒険者までアンデッドになってんのかよ。悪魔の奴……すまん、今楽にしてやるからな!」
《あぁぁぁ……》
アンデッドの素体はエイズーム王国の国民と冒険者だ。死んでまで悪魔に使役され苦しめられている。
「胸糞悪いのう……。許せんな」
「兄上……、これだけ広範囲に力を及ぼす悪魔ということは……」
「あぁ、悪魔でも上位やろうな。死ぬ気でかからんとワイらもアンデッドの仲間入りや」
「斬れますか?」
「無論。ワイは退魔師や。きっちりカタにハメたるわ」
数日かけ国境から王都を目指す。そしてついに王都が目の前に現れた。
「あ、あれが王都……? 瓦礫の山じゃないか」
「うぅ……禍々しい……。空気が澱んでますわ」
追放前にチラリと見た王都の面影はどこにもなかった。入り口の大門は燃え尽き、奥に見える町にはアンデッドや大型の魔物が徘徊している。
「総員突入!! 一体も残すな!!」
「「「「おぉぉぉぉぉっ!!」」」」
ガレオンの号令で俺たちは町へと突入するのだった。




