第51話 集結
地団駄を踏むコロネに作ったばかりの緋翠を見せた。
「なにこれ……すっごく綺麗ねぇ~……」
「刀って武器だよ。侍専用のね」
「侍? あんた侍のジョブまでマスターしてるの?」
忘れていた。これまでどんな刀にしようか試行錯誤を繰り返していたため侍のレベルはこれっぽっちも上がっていない。これではせっかく作った刀も宝の持ち腐れじゃないか。
「いや……まだ……」
「せっかく作っても使えなきゃただの棒切れじゃない」
「ぐっ、言い返せない」
悔しがっていると陛下が手を叩いた。
「静まれ! コロネ、話を聞いたならわかるだろう。今は一大事なのだ」
「悪魔が出たんでしょ。別に慌てる必要なんかないじゃない?」
「な、なんだと?」
問い掛ける陛下にコロネが言った。
「悪魔なら聖王国に祓わせればいいじゃない」
「聖王国……そ、そうか! いや、しかし……」
クライスが手を上げた。
「悪いが俺には聖王国の聖騎士が光の勇者より強いとは思えない。光の勇者は間違いなく歴戦の猛者だ。魔族と戦った経験もない聖騎士があの悪魔に勝てるとは思えないんだ」
実際に見たクライスの意見は薄っすらと見えた希望を壊した。
「そうだな……、実は私も同じ考えだった。悪魔と聖騎士、相性は良いがそれだけだ。いくら数を揃えたところで光の勇者を超えられるかと言われたら……無理だろうなとな」
「むぅ~! ならどうするのさ。黙ってやられるの待つの? そんなの私は嫌よ!」
「相手はエイズーム王国を滅ぼし魔物を操るような化け物だ。グロウベルも戦を終えたばかり、イシュタル帝国は滅んだ。時期が悪すぎるのだ」
陛下の話はもっとだ。クライスが悪魔を恐れるのもわかる。
「もしかして……」
「どうしたリヒト?」
俺はエイズーム王国が滅ぼされた理由に気がついた。
「悪魔の目的だったものはエイズーム王国にはなかった。悪魔の目的は時空魔法。北の大陸にかかっている次元結界の解除でしょう。だとしたらエイズーム王国は見せしめだと思われます。おそらくですが、その内向こうから声明が出される可能性がありますね」
「なぜそう思った?」
「エイズーム王国には冒険者ギルドもあったんですよ? 冒険者ギルドは世界中の冒険者ギルドと通信できる手段を持っています。クライスさんがエリンに向かっている間にも冒険者ギルドは世界中に助けを求めたのでは?」
謁見の間にいた全員が納得したような様子を浮かべた。
「知恵の勇者を語った悪魔がそこを見逃すはずがない。冒険者ギルドに自分の目的を伝えさせ、エイズーム王国には時空魔導師がいなかったから滅ぼされたんだと思う。そして自分の国もこうなりたくないなら時空魔導師を差し出せと冒険者ギルドを通して拡散するはずです」
「バトラー! 冒険者ギルドへと急げ! 今の話はかなり可能性が高い!」
「ははっ!」
バトラーは一瞬で姿を消した。
「時空魔導師か……。エリンにはおらんな。さらに厄介なことに万が一悪魔を恐れた国が時空魔導師を差し出したとしたら今度は北の大陸に封印された魔族や魔王が目覚めてしまう……。そうなったら世界は終わりだ……」
「あの、一つ気になったんですけど」
俺は疑問を投げかけた。
「勇者が張った結界って時空魔導師なら誰でも解除できちゃうものなのですか?」
「ん? どうなんだろうか。私にはわからんな」
「張ったのは次元を操る勇者なんでしょう? その辺対策してそうなんですけど。仮に俺だったら干渉不可設定して何層にも結界張りますけどね」
「そう……言われると確かに……?」
「そもそもそんな簡単に破れる結界なら何百年も破られてないわけないじゃないですか」
これが俺の疑問だ。十代前の勇者が張った結界は今なお稼働している。その間に優秀な時空魔導師が世を恨み破壊しに行ってないとは限らない。また、時空魔導師を囲む犯罪集団がいなかったとも限らない。それら全てを跳ね除け現代でも結界は無傷のままだ。
「俺の考えだと結界は絶対に破られないし切り裂いたとしても修復されるんじゃないかなと。突破するなら何層にも重なってるだろう結界を一度で切り裂き、修復される前に潜り抜ける。でもそれをやったら今度は自分も結界から出てこられなくなる。やる意味ありますかねこれ」
するとガロンが口を開いた。
「一理ある。だが結界自体我々にはどう張っているかわからない代物だ。楽観視するべきではないと思うが」
「結界の詳細知りたいですね。陛下、詳しく知る者はいないのですか?」
陛下は何やら悩み口を開いた。
「それこそ聖王国だろうな。言い伝えでは次元の勇者には仲間である大聖女がいたそうだ。その大聖女は北の大陸に向かう勇者に後の世を託され聖王国を興したのだ」
「だったら聖王国を守らないと。鍵は聖王国にあるのでは? 悪魔は立ち入れない神聖な国だろうと悪魔は魔物を操るのでしょう?」
「う……む……。いや、全ては冒険者ギルドからの知らせを受けてからにしよう。まだ動くべき時ではない」
「ですね」
考えても仮の域を出ず俺たちは一旦解散し休息をとることにした。俺はグレッグ、ガロン、クライスの三人との再会を喜んだ。
「それにしても見違えたな。まさかリヒトが冒険者になっているなんて思わなかったよ」
「色々ありましたからね。クライスさんも無事で良かった。あ、お金」
「これか?」
クライスは胸元から皮袋を取り出した。
「それ!」
「グレッグから渡されたんだ。全然使ってないじゃないか」
「村に使える場所なかったんですよ。使わなくても生活できてましたし」
「まったく。だがまぁ……いい奴らに出会えて良かったな。心配してたんだ」
「ありがとう、クライスさん」
それから数時間後、バトラーは冒険者ギルドのマスターを連れて城に戻ってきた。謁見の間に入ったギルドマスターは陛下に全て語った。
「──と悪魔は語りました」
「そうか……」
悪魔は凡そ予想通りの要求を出していた。その要求は時空魔法を使える者を差し出せというもので、差し出した国は滅ぼさないでやるといった内容だった。
陛下はギルドマスターに問い掛けた。
「従っても結界が消えたらどの道滅ぼされるだろう。冒険者ギルドはどう動く」
「冒険者ギルドとしては従う気はありません。今世界中にあるギルドに伝えSランク冒険者をこちらに派遣させてもらってます。飛竜便を使うので来週には集まるかと」
「悪魔討伐に動くか。国として何か必要か?」
「はっ。食糧や後方支援を」
「わかった。全て手配しよう。集まる場所は?」
「エリンとエイズーム王国の国境付近にある草原に陣を敷きます」
「わかった。物資はそこに運ばせよう」
「ははっ!」
こうして全世界から最強のSランク冒険者たちがエリンに集結することになったのだった。




