閑話③ 本性を現した大悪魔
知恵の勇者こと大悪魔ヤルダバオトは光の勇者を担ぎ地上へと戻った。
迷宮の入り口で待機していた兵士たちは地面に倒れ込む二人に慌てた様子で駆け寄った。
「ど、どうされましたか!」
「や、やられました……! ひ、光の勇者が……がふっ!」
「知恵の勇者様!」
兵士は上に乗っていた光の勇者を寄せ知恵の勇者を介抱する。そして光の勇者を抱えた兵士は大声で叫び尻もちをついた。
「し、ししし死んでるっ! 光の勇者様が死んでるぞ!」
「「「な、なんだって!?」」」
兵士に抱えられていた知恵の勇者は弱っているフリをしながら言った。
「め、迷宮を甘く見ていました……っ。はぁはぁ……っ。ひ、光の勇者が四十階層の階層主との戦いで……武器を失いっ! わ、私は戻ろうと進言しましたが聞いてもらえずっ! げふっ!」
「知恵の勇者様っ!」
知恵の勇者は口に含んでいた血糊を吐き出し袖口で拭った。
「光の勇者を失ってしまった……。迷宮探索はここまで……です。青と博愛、そして私では四十階層すら超えられないでしょう……っ。迷宮は……とてつもなく危険です……」
兵士たちは物資運搬用に乗ってきた荷車に光の勇者の死体を乗せ王城へと馬を走らせた。
王城に到着した兵士は謁見の間に死体を運び入れ進言した。
「へ、陛下……! 光の勇者様がお亡くなりになりました……っ!」
「な、なんじゃと!! どういうことじゃ!!」
「はっ! 知恵の勇者様いわく──」
兵士は謁見の間にいた全員に向け知恵の勇者から聞いた話を口にした。その場には青の勇者と博愛の勇者もいた。
「は、博愛の勇者よ! そなた蘇生の術は使えんのか?」
「む、無理ですわっ! 回復ならともかく蘇生などという理に反する術など私は知りませんわっ!」
「あ、青の勇者は……」
「お、俺は戦い専門だ。できるわけねぇよ!」
「な、ならば知恵の勇者は……」
ポーションを飲んだフリをし、回復したように見せかけたヤルダバオトは言った。
「できるなら迷宮でやっていますよ。陛下、これは貴方の失態だ。私はもう迷宮には向かいません。これまで手に入れた物資は逃げ出す際に捨ててきました。私は光の勇者のように無駄死になど御免です」
そう言い放ちヤルダバオトは謁見の間を出ていった。
「……物資は手に入らん。光の勇者は死に知恵の勇者は臆病風に吹かれ……っ! なんなのだぁぁっ!! 貴様らそれでも勇者かっ!! 別の世界から召喚した奴ら全てがゴミとはっ!」
「お、おいおい。ゴミとは酷ぇな」
「黙れぇぇいっ!! 貴様が一番の役立たずの穀潰しではないかっ!! 何が勇者じゃっ!! 騎士団長!」
「はっ!」
扉の前にいた騎士団長が中央へと歩みを進めた。
「もう要らん。斬れ」
「は、はぁっ!? か、勝手に呼び出しといて要らねぇだ!? 何様が──っ」
「き、きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
青の勇者の首が宙を舞い博愛の勇者の前に転がった。博愛の勇者は情けなく叫び尻もちをつき漏らした。
「それも要らん。勇者を語る神官以下のゴミだ。殺れ」
「ま、待って! 私まだ死にたく──あ……」
四つん這いで王に命乞いをする博愛の勇者の背に騎士団長は大剣で貫いた。
「陛下、知恵の勇者はいかがいたしましょう」
「隙を見て殺せ。そして次なる勇者を呼び出す生贄とせよ。こんなゴミでもまだ使えるだろう」
「かしこまりました」
三人の勇者が死んだ、いや殺された。それを扉の隙間から一人の男が目撃していた。
「ゆ、勇者がこ、殺された……? な、なんなんだこの国は……! リヒト……お前は無事か……! くそっ!!」
この男は騎士クライス。リヒトをエリンとの国境まで運んだ男だ。
この日の深夜、クライスは一人エイズーム王国から脱出した。その背では王都が暗闇の中火の海と化していた。
「ハァッハァッ!! どうなってやがるっ!! クソッ、知恵の勇者ぁぁっ! あいつは悪魔だった! 助けを……誰かに知らせなければあの悪魔にみんな殺されちまうっ!! ハァッ!」
暗闇の中休まずに馬を走らせたクライスは国境を越え、今にも倒れそうな状態になりながら小さな村へと辿り着いた。
「ん? お、おいお前! エイズームの騎士か!」
「た、助け……」
「あ? お、おい! ガロン! ガロンきてくれ!!」
「どうしたグレッ──そいつはっ!」
ガロンは地面倒れたクライスに向け弓を構えた。それをグレッグは手で制しクライスを抱き起こした。
「慌てるな。こいつは一人だ。悪ぃかリヒトが使っていた空き家まで運ぶの手伝ってくれ」
「正気か? エイズーム兵だぞ」
「こんなんなってんだ。何かワケありなんだろうよ。捕まえんのは簡単だが休ませて話を聞いてやりてぇんだ」
「……お人好しだな」
「はっ。リヒトの考え方がうつっちまったのかもな」
するとクライスは意識がないまま一言呟いた。
「リヒト……」
「あん? なぁ、こいつ今リヒトって……」
「知り合いか? ますます話を聞かなければな。グレッグ、そっち持て」
「ああ」
数日後、クライスはゆっくりと目を開いた。
「よう、起きたかよ」
「……ここは……」
「ここはロゼット村だ。お前さんは三日前に村の入り口で倒れたんだ。覚えてるか?」
「三日……はっ! こ、こうしている場合ではっ!」
クライスはベッドから降りようとしたが身体に力が入らない。
「いきなり動くやつがいるか。何日も食ってねぇんだろ。とりあえずゆっくり水でも飲みな」
「す、すまない……」
クライスは渡された水をゆっくり口に含み渇いた身体に水分を行き渡らせた。
「で? お前さんリヒトの知り合いか?」
「リヒト……リヒトを知っているのか!?」
「おう。今お前さんが寝てるベッドはリヒトが使ってたベッドだ」
「……そうか。無事だったか……よかった……」
クライスは安堵の表情を浮かべ一気に水を飲み干した。
「俺の名はクライス。見ての通りエイズーム王国の騎士だ。リヒトとはなんというか……国境まで運んだ仲だ」
「ほぉん」
するとガロンは棚にある壺から布袋を取り出しクライスに見せた。
「そ、その袋!」
「そうか。あんたがリヒトにこの金を渡した騎士だったのか。ならば持ち主に返さねばな」
「おっと」
クライスは放られた布袋を受け取った。
「リヒトは……リヒトは元気か? ここにはいないのか?」
「元気だろ。今は首都で冒険者やってんよ」
「ぼ、冒険者!? あのリヒトが!? ジョブもないのにか!?」
「ジョブがない? あぁ、エイズームはそれで追放したんだったな。バカな国だ」
「は、はぁ? エイズーム──そ、そうだ! エイズーム! こんなとこで寝てる場合じゃ──」
「無理をするな。その様子だとただ事じゃなさそうだが」
グレッグに寝かされたクライスは顔を覆いながら口を開く。
「エイズームは……滅んだ……」
「「はあっ!?」」
グレッグとガロンは口を揃えて叫んだ。
「な、なにいってやがる。エイズームが滅んだだ?」
「そうだ。召喚した勇者の中に悪魔がいた。そいつは魔物を操り背中に翼を生やし、笑いながら王都を火の海にしやがったんだ……」
「ゆ、勇者が悪魔? なんだそりゃ」
ガロンは冷静に問い掛けた。
「勇者は何人かいたはずだ。止められなかったのか」
「……光の勇者は迷宮で死んだ。多分あの悪魔が殺ったんだ。残り二人は……陛下の命令で騎士団長が殺した」
「騎士団長が勇者を? 勇者とはそんなに弱かったのか?」
「強かったのは光の勇者だけだった。陛下は四人の勇者の死体を生贄にして新しく勇者を召喚する気だったんだ」
「……それで返り討ちか」
クライスはガロンに懇願した。
「た、頼む。エリンの王にこの事実を伝えたい。俺を首都まで運んでくれ!」
「ふむ。どうやら一大事のようだ。わかった、俺が馬を走らせよう。だがその前に体力を戻せ。馬から落ちれたらかなわんからな」
「す、すまねぇ」
クライスはグレッグの奥さんが作ったミルク粥で腹を満たし体力を回復させるために休むのだった。




