第05話 新たなジョブ
村人達に薬を渡すようになり一週間経った。
「おやまぁ、いつの間にか収穫が終わっちまったわい」
「おんやぁ? あんた腰曲がってなかったかい?」
「あんたもじゃろ! もちろん薬のおかげさね」
曲がった腰だった老人達は真っ直ぐ立つようになり、体力も増していった。収穫も去年の数倍速くなりグレッグも驚き収穫祭の準備をしていた。
「おう、リヒト! んなトコで何突っ立ってんだ?」
「グレッグ……なにこれ!? 皆元気すぎない!?」
グレッグの筋肉も二割増に見える。グレッグはハシゴから降り腰の袋にトンカチを収めた。
「ハハハッ、なぁに言ってんだ。全部お前さんのおかげだぜ」
「俺の?」
「ああ。例のスタミナポーション……アレが普通じゃねぇ効果発揮しやがってよ」
「普通じゃない??」
普通を知らない俺は首を傾げた。
「何か知らんが普通のスタミナポーションは体力を回復させるだけなんだがよ」
「ふんふん」
「お前さんのスタミナポーションは効果時間も長く動いた分だけ翌日体力や筋力が増すみたいでな」
「んん!?」
「筋力が増したせいか腰が曲がった年寄り達も腰が真っ直ぐになっちまってなぁ。今じゃ若い頃より元気になっちまったよ」
「そ、そんな事ある!?」
後ろで祭の会場を設置している村人達を見ると誰一人腰が曲がっている人がいない。長までもが真っ直ぐに立ち指示を飛ばしていた。
「いやぁ~……驚いた。俺の作った薬なんなんだ」
「ヤバい薬だぜ。気軽に出しちゃマズいから気を付けろよ」
「わ、わかった」
確かに一週間で村を活気付かせてしまう薬なんか狙われるに決まっている。気軽に出してはいけない類の薬だと俺も思った。
「ところでお前さん暇か?」
「え? まぁ……薬も作り終わったし暇かな」
「よし、ならちょっと狩りに行ってきてくれないか?」
「狩り?」
「お~い、ガロン!」
グレッグが声を掛けると男が寄ってきた。初めて村に到着した時にグレッグの隣に立っていた男だ。彼も筋肉を増量し、今は弓を携えていた。
「どうしたグレッグ? 今から狩りに行くんだが。祭に肉は欠かせないからな」
「知ってんよ。悪いがこいつも連れてってくれねぇか?」
「リヒトをか?」
ガロンが俺を値踏みするように上から下まで見てきた。
「すまんが狩りの経験は?」
「ないですね。何回か魔物と戦ったくらいで」
「んん? 武器は?」
「木の枝で」
グレッグもガロンも唖然としていた。木の枝で戦うのはおかしいのだろうか。
「木の枝ってお前……剣の達人気取りかよ!」
「くははっ、笑わせるなグレッグ! いや、まさか木の枝って」
「笑わないで下さいよ。武器なんて使った事すらないです」
召喚されたその場で追放された俺は武器なんか触った事すらない。
「グレッグよ。薬師に狩りは難しいと思うぞ」
「いいや、こいつなら何かできる気がするんだよ。器用だしな。弓教えてやれよガロン。狩りは人手が多い方が助かるだろ? 運搬とか」
「ああ、本命はそっちか」
どうやら俺は運搬係になるらしい。
「お前が狩りを見せながら色々教えてリヒトに血抜きやら解体させときゃ早く終わるだろ」
「それなら賛成だ。余ってる弓を取ってくる」
そう言ってガロンは自宅に駆けていった。
「狩りか。ん? もしかして……」
ガロンが弓を取りに向かっている間にハローワークを開く。すると思っていた通り新しくジョブが増えていた。増えたジョブは【農家】に【狩人】と【大工】だ。俺はジョブを狩人に変更しガロンを待った。
ガロンは古びた弓を手に歩いて戻ってきた。
「古い方の弓だ。俺が昔使っていたやつでな。軽い弓だが引けるか?」
「やってみていい?」
「ああ。引けなきゃ狩りは無理だからな」
ガロンから弓を受け取り構える。ジョブもあるが地球にいた時テレビで見た弓術を思い出しとりあえず構えてみた。
「か、完璧じゃねぇか! グレッグより上手い!」
「んなわけあるか! 俺の方が上手いだろ!」
「リヒト、あの木を狙って放ってみろ」
「え? うん、わかった」
少し離れた木に狙いを付け矢を放つ。放たれた矢は真っ直ぐ飛び問題なく木に突き刺さった。
「お前さん……薬師じゃなかったのか」
「やったらできたんだよ」
「全く問題ない! 弓を放つ時に殺気も出てないし何より狙いが正確だ! グレッグ、彼を借りるぞ!」
「おう、暇してるようだから連れてってくれ」
「行こうリヒト!」
「あ、はい」
興奮するガロンに連れられ草原に向かった。
「ガロンさん、何を狙うんですか?」
「ガロンで良い。狙う獲物はスモールボアだ」
「スモールボア……え、魔物ですか!? 魔物って食べられるんですか!?」
「普通に食えるぞ。今までは一人だったし弓だけじゃ仕留めきれなくてな。ホーンラビットくらいしか狩れなかったんだ」
ガロンは気配を殺しながら辺りを見回している。
「それは何を?」
「狩人のスキル【気配察知】と【気配遮断】だ。狩人の基本だから覚えておくといい。ま、薬師には無理かもしれんが」
俺は後日試してみようと今はできないフリをしておいた。それからしばらくしガロンは地面に身を伏した。
「しゃがめリヒト。見つけた」
「え? あ、はいっ」
俺も慌ててしゃがみガロンが指差した方向に視線を向ける。視線の先にはウリ坊くらいの猪型の魔物がいた。
「見えるか? あれがスモールボアだ。近くに親がいる気配がない。狩るぞ。まずは見ておけ」
「は、はい」
一人では狩れないと言っていたが見ているだけで良いのかと思ったが、ガロンは自信満々に弓を構えた。そして気配を消しながら放たれた矢は真っ直ぐ地面スレスレに飛んでいき、草を食べていたスモールボアの額に深々と突き刺さり命を経った。
「一撃じゃないですか!? 一人じゃ狩れないんじゃなかったんですか!?」
「昔の話だ。この新しい弓は筋力が足りなくて引けなかったんだよ。ほれ、回収に行くぞ」
「えぇぇ」
どうやらここにもスタミナポーションが影響を及ぼしていたようだ。ガロンは動かなくなったスモールボアに近付くと腰に下げたナイフを抜きスモールボアの首を切り裂いた。
「これは血抜きだ。よっと」
「おお~」
ガロンは片手でスモールボアを持ち上げた。
「昔は木に吊るす方が楽だったんだがな。筋力も増したからこうした方が早い」
「ははは、凄い力ですね」
「近くに川がある。そこに向かうぞ。川に着いたら解体だ」
「わかりました」
川に着くとガロンは慣れた手つきでスモールボアの腹を開き内臓を取り出した。そして皮を剥ぎ水中に沈めた。
「うぷ……これが解体ですか」
「鮮度を保つためにな。よし、俺はもう一狩りしてくる。お前さんは肉を見ながら暇だったら魚でも獲っておいてくれ」
「魚? いるんですか?」
「秋だからな。油がのった美味くてデカいヤツがいるぞ。まぁ、気配遮断が使えなきゃ難しいだろうがな。訓練がてらにやってみな」
「わかりました。お気を付けて」
「ああ」
ガロンを見送った俺は気配遮断を使い川へと入るのだった。




