第47話 アヤメからの申し出
謁見の間から全員で応接間へと移動し、バトラーが淹れてくれた紅茶を一口すすり俺から話を切り出した。
「それで、私の知識がなにか?」
「……まずはこれを見てもらえるだろうか」
そう言ったアヤメは腰に下げていた日本刀を外しテーブルの上に置いた。
「この刀は?」
「ふむ。やはりリヒト殿はこれが刀だと知っているようだな」
バトラーが背後から耳打ちしてきた。
「リヒト様、こちらの大陸に刀はありません」
「え?」
「刀は東にあるアヤメ殿の故郷【エイジア大陸】でもさらに東の島国でしか取り扱っておりません。こちらの迷宮でも入手は不可能でございます」
バトラーの話を聞きながら刀を手にしていた俺にアヤメが言った。
「鞘から抜いて刀身を見て欲しい」
「は、はぁ」
刀を横に構えゆっくりと鞘から引き抜く。
「んん? これはまた……」
「酷いだろう? ははっ」
引き抜いた刀身は刃が欠けひび割れまで入っている。だいぶ酷い状態だ。
「酷い状態ですね。いつ折れてもおかしくない」
「あぁ。それで困っていてね。私は故郷から飛び出し武者修行の旅を続けながら見聞を広げていてね。まだ当分戻る気はないのだが……武器は刀しか使えなくて困っていたんだよ」
「なるほど」
刀を鞘に戻すと陛下が口を開いた。
「アヤメ殿は先の戦で獅子奮迅の活躍をしたそうだ。グロウベルにおいては英雄なのだそうだよ」
「はっは。英雄なんてそんな。剣の腕を磨くためには戦場に立つことが一番の近道なだけですよ。やっていることは傭兵と変わりません」
俺はアヤメに刀を返しながら言った。
「まさか私に刀の修復を頼みたいのですか?」
「いや、修復というか……打ち直しを頼みたい」
「無理です。そもそも刀を見たのも初めてですし、打ち方なんてわかりませんよ。打ち直しに必要な素材もないでしょう?」
するとアヤメは布の袋から緋色に輝く金属を取り出しテーブルに置いた。
「素材ならある。この刀を打つ際に使う神鉄だ」
「神鉄……ま、まさか緋緋色金!? これが伝説の! 実在しているのか!」
緋緋色金は伝説の金属だ。ルナに入手方法を尋ねると通常は迷宮の深部で稀にしか手に入らず、例外として極東の島国でのみ稀に採掘されることもあるらしい。
「私は刀がなければ戦えない。無理を承知で頼む。私に新たな刀を打って欲しいっ!」
「うぉっ!?」
アヤメは椅子から降り床に膝をつき頭を下げた。見事な土下座だ。
「ど、土下座なんて止めて下さいよ!?」
「頭を下げる程度で刀が手に入るならいくらでも下げようっ! 侍にとって刀は命に等しい! 何卒っ! なにとぞぉぉぉっ!」
グロウベルの英雄に土下座をさせたと広まれば同盟どころの騒ぎじゃない。主に俺が終わってしまう。
「わ、わかりました! やります、やりますから!」
「お、おぉっ! リヒト殿!」
「ふぉあ!?」
驚いたことにアヤメは土下座の姿勢のまま飛び跳ねテーブルを飛び越え俺の上に座り手を握ってきた。
「お頼み申す! 同じとは言わないまでも最低限使える刀で構わない!」
「わ、わかりましたから降りて!?」
「す、すまない。ようやく希望の光が見えて興奮してしまった」
アヤメは俺から降りお辞儀しながら刀を差し出した。
「私の愛刀【緋雨】を預ける。握りなどはこれを参考に。長さもできたら同じで頼みたい」
「は、はぁ」
「完成したあかつきには私の名においてエリンとグロウベルの仲を取り持つと約束いたす。私はしばらくエリンで世話になる予定だ。完成したらここに」
アヤメは宿の場所を記した紙を手渡してきた。
「カッツェ?」
カッツェはグレッグたちも使った安宿だ。国賓レベルのアヤメが使う宿とは思えない安宿だ。
「な、なんで安宿に?」
「私の信条は質素倹約でしてね。真の侍は贅沢せぬのですよ」
「な、なるほど?」
それだけ言ってアヤメは満面の笑みを浮かべ帰っていった。
「リヒト殿、できそうか?」
「陛下……いや、まだ何とも」
「頼む! どうにかこの依頼を成功させてくれっ! 今後のエリンのために!」
「わかってます。グロウベルと同盟を組めればエリンは安泰、国も潤うでしょうし」
「そうなのだ。だから頼むっ! 必要なものはなんでも用意する!」
「なんでも? そうですね……」
俺は刀を打つための鍛冶場を用意してもらうことにした。陛下はバトラーに指示を飛ばし、数時間後には俺のために用意された鍛冶場の前にいた。
「ここ……バッカスですよね」
「えぇ。空いていたもので。リヒト様、できそうですか?」
「そこなんですよねぇ」
中に入った俺はテーブルに鞘から抜いた刀と神鉄を置き唸った。
「俺の知ってる刀って玉鋼で作ってるんですよ」
「玉鋼……とは?」
「砂鉄を溶かして不純物を取り除いたものです。刀特有の粘り、硬さ、美しさを出すために使うんですけどね」
言いながら神鉄を見る。
「緋緋色金の特性とか扱い方がわからないんですよね。預かったこの刀を見る限り玉鋼と同じ出来栄えなので多分作れるとは思います」
「なるほど」
「そう言えば緋緋色金って俺がいた世界ではオリハルコンの別名だったりするんですよね。緋緋色金は名刀の素材としてはこれ以上ない素材になってました」
バトラーは緋緋色金を前に考えこむ俺に言った。
「私共ではお力になれそうになく申し訳ありません」
「いえ、それは構いませんよ」
「何卒よろしくお願いします、リヒト様」
「はい」
バトラーが帰ったあと俺はルナに尋ねた。
「ルナ、この緋緋色金を使って刀を打つ方法を教えてくれ」
《お答えします。まず……》
異世界知識倉庫は本当に役に立つ。ルナは緋緋色金の扱い方から特性、刀の打ち方も詳しく提示してくれた。
「……なるほど。そうなるとまず召喚士のレベルを上げないとだな」
《そうなります。緋緋色金を加工可能にする温度は上位精霊の火を使う必要がありますので》
「わかった。なら……魔力が続く限り召喚士のレベルをあげますかね」
そうして俺は魔力回復ポーションを栄養代わりにひたすら召喚を続け、一週間で召喚士をマスターしたのだった。




