第39話 勝利のために
迷宮へと潜った俺はジョブを双剣士に変え再度一階層へと挑んだ。双剣は迷宮で手に入れていた鉄鉱石を錬金術で鋼に精錬し、鍛冶スキルで専用の物を作り上げた。
「……なんか違うんだよな」
順調にレベルを上げていくがコロネが使っていた技は覚えられなかった。
「コロネ流剣術とか言ってたな。まさかオリジナル技か? ってか分身してたよな」
最後の奥義、コロネは確かに分身し二人になっていた。
「あれをどうにかしなきゃ勝ち目はない……か」
コロネのまるで舞のような動きを真似しながらアンデッドを切り裂いていく。
「うん、奥義以外は技の強弱、緩急でどうにかなるようだ。あの技名……多分音楽用語だよなぁアレ」
召喚する技術があるのだから地球の知識が伝わっていてもおかしくはない。まさか剣技に使われているとは思わなかったが。
「本気じゃない……か。まさかとは思うけど三人に増えたりしないよなぁ。デュオとか言ってたし。おっと、罠だ」
足元にあった罠を回避する。
「罠さえなければコロネ一人でも挑戦できそうなんだけどな」
コロネは魔法こそ使えないが剣技に関しては一流だ。とりわけ弱点であるスタミナを克服されでもしたら剣技のみでは敵わなくなるだろう。
「……なんで俺こんなに他人のこと考えてんだろうな。地球にいた時の俺はもっと淡白だったろ。……色んな人に会ったな」
リゼット村で人の優しさに触れ首都ウォルンで人との関わりが増え、いつの間にか人と関わる自分が嫌いじゃなくなってきた。そればかりかこの知識にしか興味なかった俺が人のために動くようになった。
「こっちにきて変わったな俺。前は一人の方が楽だったのに……いつからか他人といることが苦じゃなくなっている……。パーティか、それも悪くない……か」
一週間一心不乱に双剣士を鍛えマスターした俺は続けてアサシンに手を伸ばした。
「むぅっ、これは筋肉がヤバい!」
アサシンの動き一つ一つが筋肉を酷使させてくる。【気配遮断】より上位の【潜伏】を覚えた瞬間、なぜバトラーがいつも俺の背後をとれたかわかった。潜伏はアサシンの【無音歩行】と組み合わせることで気配察知すら潜り抜けてしまうのだ。
「アサシン最強説! ただ鍛え方が足りない! バトラーさんの基礎レベルを聞くのが怖いわ……」
コロネより強いというバトラーには魔法を使っても勝てなそうだ。アサシンになってみて初めてわかった。音もなく敵にも察知されず実際に消えることまでできる。
「弱点があるとすれば雨上がりの地面くらいか。足跡までは消せないしなぁ。あと呼吸や匂いか。あれ? 以外と弱点多くね?」
耳や鼻がいい相手には察知されてしまうだろう。気配察知は相手の気配を読む技術だ。嗅覚や聴覚を強化されたら居場所がバレる。この世界にいるかわからないが獣人には効果が薄いだろう。
「なるほどなぁ。極めたアサシンならコロネのように向かってくるだけで頭をあまり使わない相手なら勝てるのか。いくら手数を持っていても当てる相手がどこにいるかわからなきゃそもそも攻撃できない。でもなんか違うよな」
確かにアサシンでならコロネを倒せるだろう。だがどうにも面白くない。
「あいつとは正々堂々戦って勝ちたい。小細工ナシで正面から打ち破るんだ!」
準備期間は一ヶ月。二週間目でアサシンをマスターした俺はジョブを戦士に変え一階層から十階層まで往復した。戦士をマスターしたら兵士になり再び往復を繰り返す。あらゆるジョブをマスターすることで攻撃手段を増やし俺にしかできない戦い方を見つけるのだ。
そう、これは見ただけでジョブを覚えられる俺にしかできない。今ある全てのジョブをマスターし組み合わせることで優位に立つ。
「よし、戦闘職はあらかたマスターしたな。次は組み合わせを考えてみよう」
残り二週間、俺はコロネに勝つために様々なパターンを模索した。
「基本は戦士だな。戦士の持つ【スタミナ強化】は外せない。それに双剣士の【連撃】と騎士の【盾術】、シーフの【身軽さ上昇】に鍛冶師の【腕力向上】、そしてアサシンの【暗歩】で緊急回避。今できる組み合わせはこんな感じかなぁ」
戦い方を決めた俺は最後の一週間でボス部屋を周回し基礎レベルを上げ、戦い方を身に着けていった。
「もう息も乱れないな。ははっ、これだけやって負けたらもう悔いはない」
開ける時間すら惜しかった宝箱は全てマジックバッグに収納してある。地上に戻ったら開けるつもりだ。
「ジョブの書とかレア中のレアだし手に入れたいけどなぁ。そんな簡単に手に入ったら俺みたいなチート職ばかりになっちゃうし出ないよな」
十階層までならある程度戦えるパーティでなら攻略可能だ。俺が最後の一週間で百周して虹色の宝箱は二つだけ。しかもジョブの書は確定じゃなかった。
「世の中そんなに甘くないってね。もしかして初回報酬とかかな? コロネとの戦いが終わったら地下二十階層で検証してみよう」
全ての宝箱を開封し中身をマジックバッグに収納した俺は宿場町へと戻った。
「ただいま」
渡り鳥の止まり木亭の入り口を潜るとファルコが驚いていた。
「お、お前! 一度も戻らないから心配してたんだぞ!」
「ごめんごめん。戻る時間ももったいなかったんだよ」
「だからってなぁ。まぁいい。それよりお前が戻らなかった一ヶ月で戦争終わったぞ」
「へ?」
自己研鑽しまくっている内にイシュタル帝国とグロウベルの戦争が終わった。
「ど、どっちが勝ったの?」
「それはグロウベルですぞ、リヒト様」
「バトラーさん!」
二階の宿泊スペースからバトラーとコロネが降りてきた。
「イシュタル帝国はどうなるんですか?」
「滅亡でしょうな。これでエリンに隣接する国はエイズーム王国とイシュタル帝国のみになります」
「滅亡……ですか」
俺はチラリとコロネを見る。コロネにはイシュタル帝国の血が半分入っている。今回の戦でイシュタル帝国の血が途絶えたとしてもここに残る。
俺はバトラーに耳打ちした。
「コロネが狙われる可能性は?」
「それはありません。マリーン様が全ての痕跡を消されております。グロウベルは好戦的な国ではございませんので安心して良いでしょう」
「そっか。やっと戦争が終わったのか」
安堵しているとコロネが話し掛けてきた。
「ちょっとそこ。男同士でなに内緒話してんの?」
「おっと、叱られてしまいましたな」
「どうやってコロネを倒そうか相談をね」
するとコロネは前回の勝利で浮かれていたのか自信満々に口を開いた。
「あっはっは。たった一ヶ月程度で抜かれるほど怠けてないわよ。次も私の勝ち。これは揺るぎない事実よ」
「俺だって死に物狂いで修行したさ。四度目はない。次で最後にしよう」
俺たちの視線が重なり空気が一変する。
「勝負は三日後。場所は前と同じ森にしましょう」
「武器は?」
「私はアンタが作ってくれた木剣でいいわよ」
「わかった。なら俺も木の武器で合わせるよ」
コロネは俺の胸に拳を軽く当ててきた。
「楽しみにしてるわ」
「俺もだ」
そうして三日後、俺たちは前回と同じ森に立つのだった。




