第38話 俺はリベンジに燃える
剣術でコロネに負けた翌日、俺はすぐさま引っ越しを終わらせるために力を尽くし、不眠不休のまま三日で引っ越しを終わらせた。
「うぅっ…、かなり無理したから眠い……」
「へぇ~。ここが私達の拠点なのね」
入り口前で眠気と戦っていると背後から今一番聞きたくなかった声が聞こえ振り返る。
「コロネ……何しにきたんだよ」
「迷宮に挑戦するために決まってるじゃない」
「宿の開業はまだ先だぞ。店もまだ開いてないし、そもそもまだ宿場町にきてない」
引っ越しが完了したのは渡り鳥の止まり木亭と鍛冶屋バッカス改め鍛冶屋ルールーだけだ。冒険者ギルドも引き継ぎと方針決定の真最中だし商店はまだ到着してすらいない。
「でもアンタは潜るんでしょ?」
「俺はマジックバッグに道具をさや食糧を入れてあるし回復薬なら自分で作れるから平気なんだ。迷宮を甘く見たら死ぬぞ」
俺の真剣な訴えにコロネはたじろいだ。
「私だって早く迷宮にいきたいのに」
「そうは言ってもシーフがいなきゃ一階層ですら危険なんだ。即死級の罠だってあったし宝箱にだって罠がかかってるし」
「アンタはどうなのよ。ソロでシーフなんか雇ってないんじゃないの?」
俺は胸を張って答えた。
「残念だったな。俺はシーフのジョブもマスターしている。ソロでも攻略可能なんだよ」
「はぁ? アンタいったいいくつジョブ持ってんのよ!? 剣も魔法も使えて薬師やら鍛冶まで」
「錬金術もできる。あとは神官もあるぞ」
「化け物め。でも? 剣術だけなら私の方が強いのよね~?」
俺が非情に徹しきれなかったせいで妙に自信を持たせてしまった。
「あのな、剣術だけじゃ迷宮攻略は絶対に無理なんだ。だから冒険者たちはパーティを組むし、準備を怠らずに潜る。臆病だからじゃない、そうしないと先に進めないからだ。お前、迷宮舐めてると本当に死ぬぞ」
「べ、別に舐めてなんて! で、でも準備が必要なのはわかったわ。今すぐ向かうのは諦めるわよ」
「賢明な判断だ。暇なら宿場町周辺の森に出る魔物でも討伐してたらいい。ここに集まる冒険者は迷宮にばかり挑むから外の魔物と戦う奴がいないからな。喜ばれるんじゃないか?」
コロネはしばらく考え頷いた。
「そうね。再戦まではそうするわ。ただし、次私がまた勝ったらその時は私とパーティを組んでよ」
「次は油断しない。勝つのは俺だ」
「ふん、精々あがきなさい」
コロネは大人しく渡り鳥の止まり木亭へと入っていった。
「なんで迷宮に拘るのかね。戦いたいだけなら外界で十分だろうに」
「それはですな」
「うはぁっ!?」
今度はバトラーだ。どいつもこいつも後ろからいきなり声を掛けてくるなんて非常識が過ぎる。
「いきなり背後から気配消して話し掛けないで下さいよ」
「ほっほ。これは失礼しました。してコロネ様が迷宮に拘る理由でしたな」
バトラーは髭を弄りながら話し始めた。
「まぁ、あれは別に迷宮に拘っているわけではありません」
「そうなの?」
「はい。コロネ様は信頼できる仲間が欲しいだけなのです。生まれが生まれですので貴族の子息や令嬢との交流はなくひたすら城内で戦う術を学ばれておりました」
「身を守るために?」
「はい。才能があったのでしょう。成長するにつれ城内には敵う者がいなくなってしまいました。私が戦うわけにもいかず、コロネ様は次第に城を抜け出し、いつだったか冒険者の資格を持って帰ってこられました」
アクティブ過ぎるな。
「それでも国内でコロネ様の名を知らない者はおりません。いつまで経っても仲間はできず毎日一人で魔物相手に腕を磨き続けてきました。ああ、極稀に邪な考えを持って近づいた冒険者がおりましたが……どうなったか知りたいですか?」
「だいたい想像つくので結構です」
「ほっほ。話が逸れましたな。で、結局のところコロネ様は友人が欲しいだけなのですよ」
そうか、あのアホさは長らくボッチで拗らせていたせいか。俺は自分から進んでボッチだったから話は別だ。コロネは理解者が欲しい。俺は誰も理解してくれないから前世は一人を選んでいた。
「それならそう言えばいいのに」
「人と関わりがなかった分お子様なのですよ。先日の立ち合いは実に楽しそうでございました。以前に負けた時はどうしたらリヒト様に勝てるか頭を悩ませておられましたよ」
「バトラーさんがコロネと戦わない理由ってまさか」
「ええ。私は従者であり理解者ではありますが、私では友人たり得ません。ご迷惑になるでしょうがどうかコロネ様をお頼み申し上げます」
真摯に頭を下げるバトラーの願いを無碍に断るほど捻くれてはいない。
「お子様……か。なんで俺みたいな奴に拘っちゃうかなぁ」
「ですから一目惚れと」
「いまいち嘘くさい。親の知り合いだし扱いやすく思っただけだろ絶対」
「さて、どうでしょうな。ほっほ」
この話を聞いた以上負けたままじゃダメだ。次も負けたらコロネはさらに歪になってしまう。本心を隠したまま我儘放題するようになったら誰からも相手にされなくなってしまうだろう。
「一ヶ月。あと一ヶ月できっちり教育してやりますよ。だから無茶は控えるように伝えておいて下さい」
「かしこまりました。再戦までの間は私が陰から見守るとしましょう。北部の戦も近頃の寒さで停滞しております故時間はあります」
「確かに寒いけど停滞するほど?」
「ええ。イシュタル帝国の北部は雪が積もりますからな。戦争と民を寒さや飢えから守ることの方が重要です。ただ、グロウベルは雪が降りませんからな。春までに態勢を整えるでしょう」
「イシュタル帝国の負け……か」
「恐らくは。イシュタル帝国は戦を仕掛ける時期を誤りましたな」
戦争は金がかかる。同じように越冬にも金がかかる。同じ北部でも雪が降ると降らないのとでは暖房費も別物だ。
「イシュタル帝国から停戦協定を申し込む可能性はありますかね」
「どうでしょうな。ない……とは言い切れませんが、申し込んだ場合グロウベルは多額の賠償金を請求するでしょう。どっちにしろイシュタル帝国は終わりです」
「ですよね。イシュタル帝国に協力する国はあります?」
「それこそあり得ませんな。南北を統一し大国となりましたが歴史は浅い国です。エリン以外は相手にもしませんよ。悔しいですがエリンでは戦いにすらなりませんので」
イシュタル帝国がどんな選択をするかはわからないが国が滅びるのは時間の問題だろう。
「なんで戦争なんてするんですかね」
「哲学ですかな?」
「いえ、純粋な興味からですよ」
「そうですな。子どもと同じで隣の物が羨ましくて泣くのと同じでしょう。それかもしくは譲れないものがある場合とかですかな」
「イシュタル帝国は前者ですね。ただただ幼稚としか思えませんよ」
「さて、お邪魔いたしました。コロネ様のことはお任せ下さい。一ヶ月後を楽しみにしております」
「えぇ、泣かせてやりますよ」
俺はバトラーに会釈し迷宮へと向かうのだった。




