第04話 救世主
グレッグから受け取った昼食を味わっていると薬瓶を見つけたグレッグが俺に尋ねてきた。
「なぁ、この大量の薬はどうしたんだ?」
「村の中に生えてた草とかで俺が作ったんだよ」
「器具もないのにか?」
グレッグが瓶に入ったポーションを見る。
「俺も詳しくは知らないけどよ? ポーションってのは乾燥させま薬草を煎じて水と魔力を加えながら混ぜるんだろ? ここには道具も何も見当たらないじゃねぇか」
「ん~……じゃあ食べ終わったら作るから見てみる?」
昼食で腹を満たしたあと、俺はグレッグの目の前でポーションを作って見せた。グレッグは驚きポカンと口を開けていた。
「こんな感じなんだけど」
「……じゃねぇよ!? なんで瓶!? どっから出たんだ!? 見ても全くわからねぇよ!?」
「できるんだから仕方ないじゃないか。あれ? グレッグの足切り傷あるじゃん」
「あん? ああ、草で切ったかな」
「ポーション飲んでみる?」
グレッグは訝しげな顔で俺からポーションを受け取り中身を飲み干した。すると足にあった切り傷が一瞬で跡形もなく消え去った。
「あ、効いた」
「な、ななななんじゃこりゃ!? 一瞬で傷が消えるとかありえねぇだろ!? どうなってやがる!?」
「普通のポーションを知らないから何とも。あ、それポーション∶中品質だよ」
「中品質? いやいやいや、ミドルポーションかよ!? 一本金貨二枚はするぞ!?」
「き、金貨二枚!? そこらに生えてた薬草で作ったポーションだよ!?」
どうやらレベルが上がると品質まで上がるらしい。最初に作った手順と同じ手順で作ったポーションは普通から中品質に上がっていた。
「き、金貨二枚なんて払えねぇぞ俺」
「いやいや、材料はその辺にあった薬草だしお金なんていらないよ」
「金貨二枚だぞ!? 普通は……ってお前さんに言ってもわからないよなぁ。ミドルポーションなんかかなり希少なんだぞ? 冒険者が買い漁っていくからな」
「品薄って事?」
「ああ。首都に一応冒険者ギルドがあるんだよ。エイズーム王国ほどの規模じゃないがな。そこで活動してる冒険者がポーション類を買い漁ってんだよ。だから小さな村なんかじゃ滅多に手に入らないのさ」
冒険者は魔物と戦ってくれるが怪我は戦いだけで受けるものでもない。冒険者を優先したい気持ちはわからないでもないが、村人が不憫だと思った。
「じゃあさ、村の皆に薬配ったら喜ばれるかな?」
「あん? 配る気か?」
「収穫が終わるまではお世話になるしね。希望があって俺が作れる薬なら配るよ」
するとグレッグはいきなり立ち上がり昼食を入れてきた籠を手に出口へと向かった。
「俺に任せなっ! 村人全員から何か希望する薬がないか聞いてきてやるよ」
「それは助かる! でも何でそこまで?」
グレッグは真っ直ぐ俺を見ながら言った。
「スタミナポーションが欲しいんだよなぁ。収穫は力と体力を使うからな。ちっとばかり元気になる薬がありゃあ作業も捗るかなと」
「スタミナポーション? あ~……うん、作れるよ。材料は探さなきゃだけど」
「その材料って……」
「これから探してみるよ」
「頼むぜリヒト!」
グレッグが帰ったあと再び村を見て回る。スタミナポーションに必要な素材はエナジー草だ。
「あったあった。あの、すみません」
「ん~? どうかしたかね?」
畑の雑草を抜いていた老人に話し掛ける。お目当てのエナジー草はニンニクの葉だ。ニンニク畑の横に摘葉されたエナジー草が山積みになっていた。
「この摘葉した葉っぱは何かに使いますか?」
「そのゴミかい? いや、特に使い道はないんじゃよ」
「あの、全部貰っても大丈夫ですか?」
「んあ? えぇが使い道なんぞないゴミ草じゃぞ?」
「大丈夫です。ありがとうございます!」
お目当てのエナジー草を入手した俺は他にも調剤に必要な素材を採集し借家に戻った。
「よし! みんなのために頑張るか~」
そうして貰ったエナジー草でスタミナポーションを作製、他にも作れそうな薬は全て作った。
「できた~。なんか一気にできるようになったな」
そう、これまでの調剤で俺の薬師レベルはカンストしていた。ステータスを確認すると薬師と記された隣に星とMASTERという記号が追加されていた。
「初めて極めたジョブだ。ゲームとかだったらジョブチェンジしても能力が引き継げたりするんだけどな。ちょっと試してみよう」
検証のためにジョブを薬師から騎士へと変更し調剤を行ってみた。するとジョブが騎士にも関わらずポーションが出来上がった。
「なるほどなるほど。やっぱり極めたジョブの能力は他のジョブでも引き継げるって事か。もしかしていくらでもジョブチェンジできる俺って最強──いや」
一瞬喜びかけたがすぐに冷静になった。
「喜ぶのはまだ早いな。派生職業がある以上ジョブチェンジは誰でもできる可能性がある。あるいは最初から派生職業なのかどうか調べる必要があるな。誰でもジョブチェンジが可能だとしたら俺の強みなんて成長加速しかないんだよなぁ」
ベッドに寝転んだ俺は身を引き締めた。
「俺はまだこの世界の事をほとんど知らない。命の軽いこの世界で生き抜くためにはもっと知識が必要だ。たった一つジョブをマスターした程度で浮かれている場合ではないよな」
少し身体を休めている間に眠ってしまったようだ。外は陽が落ち闇が広がっている。テーブルを見るとグレッグが置いていっただろう夕食と手紙があった。
「食事のお礼もしなきゃな。明日起きたら長の家に行こう。ってか俺まだグレッグの奥さんの顔見た事ないんだよなぁ。今度グレッグの家に行ってみようかな」
変わらず美味しい夕食を腹に詰め再び眠りに就いた。
そして翌朝、俺は作製した薬を箱に詰め朝一番で長の家を訪ねた。
「おや? こんな朝早くにどうかしたかの?」
「実は俺薬が作れるんです」
「く、薬じゃと?」
テーブルに箱いっぱいに詰め込んだ薬を置く。
「傷薬にハイポーション、体力回復にスタミナポーション、腰痛や肩こりなどに鎮痛剤、他にも解毒剤や化粧水、はたまた痩せ薬までありますよ」
「な、なんという量じゃ! ん? まさかグレッグが何か必要な薬がないか聞いて回っていた理由は……」
「はい、この薬のためです。考えたのですが得体の知れない俺が配るより長から皆さんに配ってもらった方が安心して受け取ってもらえるかと思いまして」
長は箱から鎮痛剤の薬瓶を取り出し口にした。
「んおっ!? 長年苦しんできた肩こりと腰痛が消えたじゃと!? こんな速効性のある薬なんぞ聞いたこともない!」
「え?」
長は興奮しながら俺の肩に手を置いてきた。
「い、いくらじゃ! ある分全部買うぞいっ!」
「い、いえいえ。お金なんていりませんよ」
「な、なんじゃと!?」
俺は興奮する長に優しく語りかけた。
「こんな誰かもわからない若造の俺を怪しむ事なく村に入れてくれた感謝の気持ちです。俺にできる事が皆さんのためになるならこれほど嬉しい事はないですよ」
「お、お主……い、良い奴じゃなぁ~」
長は瞳を潤ませると袖で顔を拭った。
「お主の気持ち確かに受け取ったぞい! すまぬがグレッグを呼んできてはくれまいか? 村人に薬を配る作業はワシらに任せてくれいっ」
「はい、よろしくお願いします」
その後、長の家を出た俺は借家に向かうグレッグを捕まえ長の家に向かわせた。それからすぐに村人全員が集められ長とグレッグから薬を受け取っていった。
「これで村の皆が元気になってくれたら良いな」
俺は離れた場所から薬を受け取り喜ぶ村人達の姿を眺めるのだった。