第37話 コロネの本気
コロネ監視の下、模擬戦用の木剣が完成した。コロネは俺から二振りの木剣を受け取り軽く振った。
「凄いわね。私の剣とまるで同じ重さだなんて。鉄と木でどうやったの?」
「もちろん企業秘密だよ」
「けち~!」
錬金術で木の密度を上げただけだ。木は水分を含んでいるがそれ極限まで減らしいくつもの木を合成し重さと耐久力を調節した。これは鍛冶師たさや大工だけでは無理な技術だ。
俺も自分用に木刀を作った。
「それ変な形ね。もしかして片刃? なんか反ってるし」
「これは刀っていう武器の木バージョン。本物は素材がないから無理なんだよ。侍ってジョブの人が使う武器だね」
「あなた侍なの?」
「いいや?」
侍ではないが前世では馴染み深い武道だった。学生時代授業で型も知らないのにやらされ同級生に負けた悔しさから様々な武術書で研究した知識を持っている。まぁ、知識だけで実践したことはないがこの世界にきて飛躍的に身体能力が向上しているので問題なく動けるだろう。
「なんだか知らないけど手加減なんてしないわよ。前回同様が本気だとは思わないことね」
「まぁ、お手柔らかに頼むよ。で、なにを賭ける?」
コロネはニヤリと笑みを浮かべ言った。
「私が勝ったらあなたは私に絶対服従!」
「絶対服従って。じゃあ俺が勝ったらコロネは俺に絶対服従な」
「なあっ!? 逆らえない私になにをする気!?」
なにもする気などない。前回の条件で抜け道を突いてきたコロネに対し今度は言い訳をさせないための絶対服従だ。
「ふ、ふんっ。本気を出したら絶対負けないんだから! 魔法は禁止だからね! 今回は剣術だけの勝負よ!」
「オーケー。魔法は使わないでやるよ。バトラーさん、合図を」
「かしこまりました。では……」
コロネは双剣を逆手に構え深く腰を落としている。前回は順手に構え振り回すだけだった。構えを見た瞬間から気は抜けないと感じた。
「勝利条件は前回同様、戦闘不能もしくは負けを宣言した者の負けとなります。よろしいですね?」
「ええ」
「わかった」
「では……はじめっ!!」
始まりの合図と共にコロネは地を蹴り向かってきた。
「また突進か?」
「コロネ流剣術【ブリランテ】!!」
前回とは明らかに違う動きだ。その剣閃は華やかで輝いて見える。
「くっ、なんだよコロネ流剣術って!」
「私の私による私のための剣技よっ! これまで使う相手がいなかったから遠慮なくいかせてもらうわっ! ついてきなさい! 【アレグロ】!!」
今度はさらに加速してきた。双剣でも小太刀に近いコロネの剣は攻防兼ね備えられており実に戦いにくい。
「こんなのもあるわよっ! 【フェローチェ】!!」
「はぁっ!?」
先ほどまでの正統派剣技とは違い野性的な軌道の攻撃が襲いかかってくる。双剣による振り下ろしは熊の両腕撃、左右から放たれる上下同時攻撃は大蛇の顎のように不規則な軌道で俺に迫る。
「た、戦いにくいなっ! これが本気なのか!」
「まだまだっ! 【テンペストーソ】!!」
続く攻撃は嵐のような激しさで全く反撃の隙すらない。俺は途切れず襲い掛かる攻撃を防ぐだけで精一杯だ。
「これも防がれるなんて!」
「クソッ、反撃する暇がないっ! 剣が二本とかズルいだろっ!」
「あははははっ! 剣技だけの戦いなら絶対に負けないわっ! 【スフォルツァンド】!!」
「うおぉっ!!」
コロネの剣を十字にした今日一番の重い攻撃を受けた俺は思わず膝をついた。だがこの攻撃を受けた俺はコロネの弱点に気がついてしまった。
「やるなっ! はぁぁぁっ!」
「んなっ!」
受けた攻撃を盾を持つ騎士の技【バッシュ】を使い押し返し距離をとらせる。
「次は俺の番だな。行くぞコロネ!!」
「っ! きなさいっ!!」
俺は抜刀術の構えをとり深く腰を落とした。柄はやや下向きに。
「くるんじゃないの? はぁはぁ……」
「さてね。ブラフかもよ」
「……まったく、やりにくいわね! これだから頭のいいヤツはっ!!」
俺の構えから何かを感じ取ったのかコロネは距離を保ったまま息を整え始めた。
「次の攻撃で終わらせる! アンタは私に絶対服従するのよ!」
「そのセリフ……そのままお返しするよ」
「このっ!」
コロネの姿が一瞬ブレる。
「コロネ流剣術奥義! 【デュオ・ア・ピアチェーレ】!!」
「はぁっ!? ちょっ、なんだそれっ!?」
ブレたコロネは二人になり左右から四本の剣で襲い掛かってきた。いくらなんでも木刀一本で防ぎきれるはずもなく、俺は全身に打撃をくらい倒れた。
「はぁっはぁっ! か、勝った……勝ったわ!!」
「ぐっ、死ぬほど痛い……負けだ、俺の負け!」
俺は大の字で地面に転がった。全身の痛みに身動き一つとれない。だがコロネもまた異常なまでの速度で動いたせいかその場から動けず膝は笑っていた。
そんな俺たちを見てバトラーは宣言した。
「し、勝者コロネ様!」
「やった~~~! ぶっ飛ばしてやったわ!!」
「悔しい……。勝ち目はあったのに……」
そう、勝ち目はあった。コロネの弱点はスタミナだ。あそこで抜刀術によるカウンターを狙うのではなく攻めて攻めて体力を削り切るべきだった。これは言い訳になるがあまり痛めつけたくはなかったため一撃で終わらせたかったのだ。
「リヒト様、大丈夫でございますか?」
「あ、あぁ。ちょっと今ポーション飲むから……」
俺はどうにかマジックバッグから中級ポーションを取り出し傷を癒した。中級ポーションは傷を癒しスタミナを半分回復させるポーションだ。
「そ、それはまさか……ち、中級ポーションでは?」
「うん、自作のね」
バトラーが驚いていると地面に転がったままのコロネが叫んだ。
「ちょっと! 私にもそれちょうだいよ!」
「あげたいのは山々なんだけど今の一本しかないんだよ。スタミナポーションで許してくれ」
「バトラー! 飲ませて」
「は、ははっ!」
俺からスタミナポーションを受け取ったバトラーはコロネにスタミナポーションを飲ませた。スタミナが回復したコロネはスッと立ち上がりニヤニヤしながら俺に言ってきた。
「ふふんっ、リヒト~? 今から私に絶対服従ね?」
「さ、再戦を希望する! まだ一勝一敗だ!」
「え~? どうしよっかな~? アンタは私に絶対服従なんだから次も剣だけの勝負になるけど?」
「い、一ヶ月後だ。それだけあれば勝てる!」
「へぇ~。じゃあ一ヶ月後にも負けたら?」
「な、何でも従う」
「それって今もだよね? 絶対服従」
悔しすぎて血の涙が出そうだ。これはあれか、前回散々煽り倒された仕返しか。実にムカつく。
「たとえ絶対服従でも嫌なものには従わない。だが、次負けたら本当に心から嫌でも死にたくなりそうな願いでもなんにでも従ってやる!」
「へぇ~。なら一ヶ月時間あげるわ。ちなみに今回のが私の全力じゃないからね? 次負けたらもう言い訳できないわよ?」
「望むところだ! 今回の負けは俺の慢心だ。次は完膚なきまで叩き潰す!」
「おーほっほ。やぁってごらんなさい? おーほっほ!」
俺は高笑いするコロネに絶対次は勝ってやると心に誓ったのだった。




