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異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜  作者: 夜夢
第一章 始まり

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第34話 引っ越し準備と面倒ごと

 鍛冶屋バッカスに向かうとルールーが荷物をまとめていた。入り口には移転のお知らせと貼り紙がされている。


「ルールー」

「リヒト? 帰ってきてたんだ」


 声を掛けると作業の手を止め汗を拭った。


「聞いたよ、宿場町に移転するんだって?」

「あ~……うん、まぁね。ほら、うちって一人でやってるし。他の鍛冶屋って何人も鍛冶師いたり大きいからさ」


 確かツヴァイって鍛冶屋が一番手広くやってたはずだ。


「でも何で移転決めたの?」

「それは単純に稼げると思ったからだよ。宿場町にはライバル店なんてないでしょ。最近評判上がってきてるけど、やっぱりみんなツヴァイに流れちゃうしさ」

「なるほどねぇ。わかった、じゃあ引っ越し手伝うよ。ファルコ達と一緒に向かわないか?」

「ぜひ!」


 それからルールーがまとめていた荷物をマジックバッグに収納した。ルールーとは不動産屋に鍵を返しに向かい、渡り鳥の止まり木亭で合流することにした。


「リヒト様でございましょうか」

「っ!!」


 路地裏を歩いていると不意に声を掛けられ驚いた俺は振り向きざまに腰に下げていた剣に手を掛けた。


「失礼、気配を消したままでございました」

「……どちら様ですか」


 俺の気配察知に微塵も引っかからなかった。目の前には初老の執事風の男が立っていた。多少気を抜いていたとはいえ目の前の男はかなりデキると警戒しながら言葉を待つ。


「私は王城の筆頭執事【バトラー】でございます」

「城の? そうでしたか。俺に何か?」

「ほっほ。“俺“でございますか。城内では“私“でしたな」

「あ」


 城内では一度も見掛けなかったがどうやらどこかから監視していたらしい。


「ははっ。本業はアサシンですか?」

「いえいえ。私などとてもとても」


 所作はかなり洗練されている。執事がアサシンの初歩技術である無音歩行や隠密を使えるわけがない。筆頭執事兼護衛といったところか。


「そうでした。陛下よりこちらを」

「手紙? 拝見します」


 手紙は公式なもので裏には王家の封蝋があった。どうやら本物のようだ。俺は封蝋を解き手紙に目を通す。内容は迷宮探索は順調か、危険度はどのくらいかなど書かれていた。


「これは返事を出した方がよろしいでしょうか?」

「いえ、多忙かと思いまして。私に返事をいただければ陛下には私から伝えましょう」

「わかりました。では」


 俺はバトラーに迷宮の様子を話した。


「なるほど。十階層まで到達、現れる魔物はアンデッドばかりで十階層のボスはスケルトンナイトにスケルトンの群れですか。それを難なく打ち破るとはこれまた」


 バトラーは俺に射抜くような視線を向けてきた。


「リヒト様になら任せられるようですな」

「はい?」


 バトラーは胸に手を掲げ頭を下げてきた。


「リヒト様、貴方様にお願いが」

「あ、頭を上げて下さい! 俺にお願いとは?」

「はっ。実は……」


 バトラーの口からとんでもない願い事が飛び出してきた。


「え? はぁっ!? 王女様が迷宮に行きたがってる!? そんなアホな!?」

「全くもって同意見なのですが一度言い出したら陛下が止めても城を抜け出し一人で向かってしまうバ……いえ、おてんば姫でございまして」


 今バカと言いかけたような。


「しかし……いくらなんでも王女様ですよ? 何かあったら国の一大事では」

「いえ、跡継ぎは弟君がおりますので。王女はどこか隣国の王子とでも……と考えておりましたがね」

「もらい手がないと」

「いやはや。縁談はあったのですよ? ですがあのバ……いえ、おてんば姫様は自分に一対一で勝てる相手としか婚約しないと大暴れを繰り返し……今では縁談すらこなくなりして」


 心労が酷いのだろうか。疲れた様子が見てとれる。


「まさかと思いますが……俺に押し付けようとか考えてません?」

「いえいえ、まさか。ほっほっほ」


 目が笑ってない。本気のようだ。俺は溜め息を吐いた。


「はぁ~……。何で俺なんですか? 王女様とは面識もないのに」

「いえ、それがリヒト様を城内でお見掛けしたらしく」

「え?」

「おてんば姫様いわく、一目惚れしたと」

「は? はぁぁぁぁっ!? なんでそんなことに!?」


 バトラーは内ポケットからハンカチを取り出し汗を拭った。


「おてんば姫様いわく、あいつなら私といい勝負ができそうねと」

「どこのバトルジャンキーですか。戦闘民族ですか? それとも頭の中は筋肉ですか。一目惚れの使い方間違ってますよね?」

「申し訳ない。陛下も勝手に城を抜け出し一人で迷宮に向かわせるよりはリヒト様に預けたいと……。どうかお願いできませんか」


 これは断っても無理な案件だ。あの手この手でどうやっても押し付けられるだろう。


「わかりました」

「おお! では!」

「ただし、一度話をしてみないことには。どんな方か、そして実力はどの程度か把握しておかないと」


 するとバトラーは笑顔でこう言った。


「では渡り鳥の止まり木亭へと向かいましょう。おてんば姫様は先にお待ちですので」

「なんでもういるんですか……逃げ道なんて最初からないじゃないですか」

「リヒト様は困っている者の頼みは断れないだろうと思いまして」


 最初から手のひらの上で踊らされていたようだ。さすがに筆頭執事だ、この手の駆け引きで勝てるわけもなかった。


「おてんば姫の名は【コロネ・エリン・エリザベート】、コロネと呼び捨てされてかまいません」

「呼び捨てはさすがに不味いでしょう」

「本人が敬われることを嫌っておりまして。なによりリヒト様より歳は下にございますので」

「は、はぁ」

「ささ、気が変わらぬうちに参りましょう。おそらくいきなり襲い掛かられると思いますのでお気をつけ下さいませ」

「はぁぁぁ~……」


 俺は今日一番の溜め息を吐き渡り鳥の止まり木亭へと戻るのだった。

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