第31話 神官
魔導士と騎士をマスターした俺は翌日から神官のレベルを上げるために冒険者ギルドの一角を借り傷ついた冒険者たちを回復していた。
「いててて、すまん助かる」
「いえいえ。あ、毒も受けてますね。一緒に治しておきましょう。【ヒール】【キュアポイズン】」
「おぉっ!」
冒険者の腕にあった紫がかった傷が消え元通り綺麗な腕になった。
「すげぇなあんた! 教会の神官より上手いんじゃないか?」
「まさか。本職にはまだまだ敵いませんって。あと、あまり無理しないで下さい。失った血までは戻らないので」
「ああ。肉料理でも食って血つくるわ。渡り鳥の止まり木亭でな。サンキュー」
どうやら彼も渡り鳥の止まり木亭のファンのようだ。最近は安くてボリュームがある料理と美味い酒を出しているせいか冒険者の客が増えていた。
「すいませ~ん、回復お願いできますか?」
「大丈夫ですよ。冒険者ランクは?」
「駆け出しのFランクです。ちょっと無理しちゃって」
「Fランクは無料で回復してますのでいつでもどうぞ。といっても無茶は禁物ですよ?」
「あははは。はい、地道に頑張っていきます」
俺の回復支援の副産物か、最近冒険者たちの依頼達成率が向上しているようだ。夕食時にアクアから聞いた話だと無料の回復でFランクの冒険者たちはポーション代を装備に回せて順調に強くなっているらしい。
「リヒト様の回復支援ギルド内でも話題になってますよ」
「へぇ~」
「ギルドマスターは教会に冒険者ギルド内に常駐してもらえる神官がいないか嘆願しているみたいです」
「でもお金とられるようになったらFランクだとキツくないかな?」
「回復代はギルドもちらしいですよ。回復代を出したとしてもまだ黒字らしいです」
「儲かってるんだな。ギルドってどうやって収入得てるの?」
前から気になっていた。冒険者ギルドは登録料や昇級試験代でしか稼げないと思っていた。
「まぁ、ぶっちゃけ買い取った素材を転売しているといいますか」
「転売? あぁ、そういう意味か」
「はい。素材を加工屋に卸したり高価な素材はオークションなどに出してますね。毛皮なんかは貴族が買ってくれたりしますよ」
「意外にあったんだなぁ収入源。そうやって稼いでたんだ」
「はい。なので迷宮のある国の冒険者ギルドはウハウハです。早くエリンの迷宮も盛り上がればいいかなと」
迷宮が発見された話は聞いたがその後の話はなかなか聞こえてこない。
「迷宮の調査は進んでる? もうアタックできてるの?」
「調査は終わりましたね。明日詳細が掲示されますよ」
「いよいよか。楽しみだな」
翌日、冒険者ギルド内は冒険者たちでごった返していた。
「どけよ見えねぇだろうが!」
「あぁん!? やんのかごらぁっ!」
「ちょっと押さないでくれる!? 職員さ~ん! この人痴漢です!」
カオスだ。少し待てばいずれ見れるというのに。
「バカな奴らよ。一番乗りしたところで実力がなければ無意味だろうに」
「もし大迷宮だったら入念に準備しないと死ぬからな」
「迷宮踏破で名を上げたいのかしらね。若い迷宮なんて踏破しても無意味だし属性迷宮や大迷宮なんてエリンにいる冒険者たちに踏破なんて無理なのにね」
後方で待機している高ランク冒険者たちの言い分の方が正しい。欲にかられた冒険者に未来はない。いかに安全マージンを確保し損害を減らすかが迷宮攻略の鍵となるだろう。
朝から盛り上がりを見せた冒険者ギルド内は昼頃には落ち着きを取り戻し掲示板前も空いた。俺はみんなが去ったあとじっくり貼り紙に目を通した。
「なになに? 今回発見された迷宮は一階層の様相から【古代迷宮】と推測される。古代迷宮? なんだそれ」
首を傾げているとアクアが話し掛けてきた。
「どうしたのリヒト様?」
「アクアか。この古代迷宮ってなに?」
「古代迷宮とは古の時代からある迷宮のことですよ。大迷宮の中でも攻略難易度は最上級ですね」
「……マジか」
続けて内容に目を通す。
「古代迷宮は一階層から罠があり魔物のランクもDランクから出現する。命が惜しいものは挑戦を控えて欲しい。なお、踏破者は国から勲章と共に爵位を与えられ、冒険者ランクは無条件でSランクとする……Sランク!?」
「いや、無理だからこんなの。大規模クランでもなきゃ古代迷宮なんて攻略不能よ」
「大規模クランか。エリンにはないよな?」
「ないわねぇ。だからこんな条件つけてんのよ。で、リヒト様はどうするの? 挑戦しちゃう?」
一階層から罠がありDランクの魔物が出現する迷宮なんてエサをぶら下げられても挑みたくない。無駄に命を捨てるだけだ。
「大規模クランはどうやって攻略するの?」
「攻略班と物資供給班を用意して入れ替わり立ち替わりで攻略していくのよ。大迷宮は十回層ごとに階層主がいて、階層主を討伐すると迷宮の外に出られる転移魔方陣が現れるのよ。転移魔方陣は使用した人の魔力を記録するからパーティに一人いれば全員が未踏破階層に移動できるの」
「便利だなぁ」
「使える人数は一回四人までって制限はあるけどね。あと、マッピングは意味ないわ。入るたびに構造が変わる仕様だったらしいし」
不思議ダンジョンか。骨が折れそうだ。
「聞いたらますます無茶な気がしてきた。仮に挑むとしてもソロじゃキツいかもなぁ」
「そうねぇ。初挑戦が古代迷宮、加えてソロなんて自殺行為よ。普通ならね」
「ん?」
「一人でなんでもできちゃうリヒト様なら案外大丈夫かもね?」
「買いかぶりだよ。まぁ、どんなものか見るくらいはしてみようかな」
「うんうん。無理そうなら引き返したらいいし。何事も経験よ経験」
そう言い残しアクアは受付カウンターへと戻っていった。
「一階層くらいなら多分大丈夫だろう。神官マスターしたら行ってみようかな」
それから半月あまり、連日負傷して帰還する冒険者たちを癒すと同時に迷宮の情報を集めた。
「仲間がさ……死んじまったんだ」
「……そうですか。お悔やみ申し上げます」
「準備だって怠らなかったんだ。買えるだけポーションも買ったし武器も新しくしてパーティの連携だって何度も話し合った。でもよ……罠はどうにもなんねぇよ。どのパーティもシーフが足りねぇって話だ」
「罠ですか」
「ああ。ひでぇことに宝箱にまで罠がかかってんだよ。俺の仲間はそれに気づかず宝箱を開いた瞬間中から毒ガスが噴き出して死んだんだよ。あんな迷宮踏破なんて無謀だよ」
傷が癒えた冒険者は肩を落としながら帰っていった。その後も冒険者たちがやってきたがどのパーティも罠がネックだと口を揃えて言っていた。
「罠対策は必須か。これは一階層から気合い入れないと本当に死にそうだな」
そして迷宮解禁から一ヶ月後、神官をマスターした俺はしっかりと準備を整え古代迷宮へと向かったのだった。




