第29話 年末
何かないかと手を考えてはみたものの、今の俺では狩人くらいしか戦うまともに手段がない。迷宮を探すためにも戦える手段を身につけておかなければならない。そう考えた俺は森に入り薬草採取と魔物討伐を繰り返す日々を送った。
「薬草ありがとうございますリヒト様っ!」
「鍛錬のついでにね。最近冒険者増えてない?」
併設している酒場にいる冒険者の数が多い気がした。
「それはリヒト様が冒険者業再開したからですよ。最近薬草枯渇気味だったんですけどリヒト様が毎日大量に薬草を納品してくれるおかげで冒険者のみなさんにもポーションが回るようになったんですよ」
「へぇ~。じゃあ森の調査も進んでたり?」
「はい。といってもまだ首都から往復三日くらいの範囲までですけどね」
「進まないよりいいよ。なら引き続き俺は薬草集めよっかな」
「あ、そうだ。リヒト様、ランクアップです」
「え?」
戻されたカードはFランクからEランクになっていた。
「Eランクか。薬草集めと簡単な討伐しかしてないのに」
「FランクからEランクまではポイントを重ねるだけでなれますからね。EランクからDランクに上がるためにはポイントとDランクの魔物討伐、DランクからCランクに上がるためには護衛依頼達成が条件になります」
「護衛……ああ、盗賊かぁ」
「えぇ。首都から各村々に向かう商隊の護衛ですね」
なるほど。ランクアップするにも必須条件があるのか。
「そうなんだ。でも俺は地道に鍛錬を続けるよ。急いでランク上げる必要もないし」
「ですね。エリンの平均ランクはDランクですし。一番強くてBランクが数人いるくらいですよ。そのBランクもパーティでBランクですしね」
「パーティかぁ」
「パーティに興味あります?」
「いや、全くない。抱えてるものが大きすぎるからね」
パーティを組めば俺の秘密も拡散されてしまうかもしれない。自分で決めて動くならまだしも力をあてにされ動かされるのは御免だ。
「ですよねぇ。とりあえずEランク昇格おめでとうございます」
「ありがとう。そうだ、明日で今年も終わりだけど仕事あるの?」
「明日はお休みですよ。さすがに年越しまで仕事する冒険者なんていませんしね」
「なら明日はパーティーでも開こうか。今年の締めくくりにね」
「やった! 美味しい料理期待してますっ!」
「はいはい」
冒険者ギルドを出た俺は市場に向かい明日の料理に使う食材を買い漁った。なんとなく毎日タダで泊まらせてもらっている恩返しをしておこうと思った。
「やっぱり海産物はないかぁ。米のみで食べられる美味しい白米もないしなぁ。で、そば粉はあるのに蕎麦はないとかどうなってんだか」
日本人は昔から食に対して貪欲で海外から入る食材や料理もアレンジして国民食へと変えてきた民族だ。
「ないなら作ればいい……か。締めは寿司は無理筋だから蕎麦かな。出汁は鶏ガラ……いや、コカトリスガラかな。錬金術で作った醤油ベースのスープにネギと卵でいいか」
年越しそばは絶対だ。これを食べないことには一年が終わった気がしない。
「あとはラザニアにピザ、グラタンとかパンプキンスープ……イタリアンになってしまうなぁ。年末だしちょっと高めのワインでも添えようかな」
首都で手に入る食材で作れそうな料理はイタリアンしか思い浮かばなかった。ファルコにはまだ教えていない料理だし話のタネにもなるだろう。
そして翌日、俺は朝から料理の仕込みを始めた。ファルコとアクアにはルールーやリーフを呼びに向かわせている。今年世話になった人達だ、本当ならロゼット村の人達も招きたいが年越しには間に合いそうもないので諦めた。
朝から仕込みを始め、昼には調理開始までの準備が整った。飲み物も大量に用意したし準備万端だ。
「ただいま~。リーフ連れてきたよ」
「お、おじゃましますです! お招きありがとうです!」
「いらっしゃいリーフ」
「戻ったぞ~」
「ここが渡り鳥の止まり木亭かぁ~。きたよリヒト」
「いらっしゃいルールー」
二人がリーフとルールーを連れてきたところで俺は厨房に戻り料理を仕上げた。あとは焼き上がりを待つだけとなり俺は四人が座るテーブルに白いテーブルクロスをかけ真ん中にデキャンターしたワインを置いた。
「二人ともきてくれてありがとう。今日は腕によりをかけた料理を出すから腹いっぱいになるまで食べて飲んでいってよ」
「楽しみです~。普段から美味しいですけどリヒト名誉顧問の手料理は初めてです」
「ちゃんと美味いのか~? 最近の評判はいいみたいだけどさぁ」
「それはお楽しみにってことで。そろそろ焼き上がるから運んでくるよ」
今日はファルコも休ませた。全て俺一人で作り配膳する。俺なりの恩返しだ。
「まずはグラタンとラザニアな。自作のパンと一緒にどうぞ。かぼちゃのスープも良かったら」
「「「「おぉぉぉ~!」」」」
四人は目を輝かせながら配膳された皿を眺めている。
「リヒト! 俺まだこれ習ってねぇぞ!?」
「食べてみて気に入るようなら教えるって」
「ふわぁぁ~! このラザニアっての美味しい~! ワインがすすむわっ!」
「ア、アクアさん? いきなり飲み過ぎです!?」
アクアは注いだワインを一気飲みしている。
「……明日は休みなのっ! 明後日も休み! 連休なんてめったにないのよぉぉぉっ! 年末年始くらい酒に溺れさせてよぉぉぉっ!」
「あ~あ、だいぶキテるねぇ。リヒト、これは?」
「ピザだよ。隣はカルボナーラって麺料理」
「なぁ、これってここでまた食えるの?」
「ファルコが覚えたらね」
ファルコは出された料理と真剣に向き合い口に運んでいる。
「ダメだ、作り方がわからん! 頼むから教えてくれぇっ!」
「これ食えるなら昼は毎日ここでもいいかもねぇ」
「ほら! 未来の客がこう言ってる!」
「わかったって。とりあえず仕事は忘れて楽しもうよ。今年も終わるんだからさ」
みんなと出会い三ヶ月くらいか。長いようで短かった。色々と動いたし自分も成長できた。なにより知らないことを知る機会が多く楽しい日々だった。
「こりゃあ年明けから忙しくなりそうだ。来年は渡り鳥の止まり木亭躍進の年になりそうだぜ」
「お父さん、どうせなら宿も再開させたら?」
「あ? いやぁ、無理だな。人手が足りねぇよ。求人でも出してみるか」
そうして楽しいパーティーは夜更けまで続き、四人は初めて食べた年越しそばに感動しながら休止中の宿に泊まり休むのだった。




